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第16話 運命の出会い(後編)


 ヴィシュを先導に、イオリはミオンと並んで森の祠に向かっていた。



 オーロという男は、あの森にある“古の祠”で誰かを待っているらしい。


 テラデアで目覚めて直ぐに見つけた2通の手紙……。1通はアイザックから転移者に宛てたもの。もう1通はオーロからの待ち合わせ用の伝言だった。状況から考えても、2通の手紙はオーロが用意して転移者に向けて書いたものだろう。


 そして、【転移者】という言葉を使っていたり、数々の発明………「人に声を届ける道具」「流行り病の特効薬」「アルムの紅茶」………を遺していたり………アイザックさんは転移者で間違いなさそうだ。


 では、もう一方のオーロという男は何者なんだろう……? やはりアイザックと同じく転移者なのだろうか……?



(まあ、会って話してみれば分かることだけど……ひとつ問題があるな………)



 イオリは自分が異世界から転移してきた事を誰にも明かしていない。もし誰かに知られてしまっては何かのトラブルに巻き込まれてしまうかもしれないし、もちろん大っぴらに喧伝(けんでん)するようなことでは無い。でも『頑なに隠し通さなければならない……』という程の決意は無かった。状況に応じて真実を明かすこともあるだろう。ただ、それは相応の相手やタイミングあってのことだ。まだ、自分が異世界人であることを打ち明ける必然性は今のところ感じていない。


 ただし、ヴィシュに隠していることはイオリにとって心苦しいことだった。親身になって助けてくれているし、数日間という短い時間ではあるが、行動を共にして共感や仲間意識が芽生えている。そんな彼に、自分から打ち明けるのではなく、不意に知られてしまうことを懸念していた。


 それに、ほんの少し前に、隣を歩いているミオンから『イオリさんは、どこから来たんですか?』と聞かれ、『それが……どこから来たのかも記憶に無いんだ……』と深妙な表情を作って答えたばかりである。それから1時間と経たないうちに『実は転移者でした』なんてバレるのは格好が悪過ぎる……。



(ヴィシュには自分の言葉で伝えたい………まずはオーロと2人で話せるようにしないとだな……)

 そんな作戦を立てながら、森の奥の祠へ向かった。


 作戦を立て終えてからは、ミオンと話しながら進んだ。

 思えば……、白弓一家の居候になったものの、ヴィシュ以外の面々とはあまり会話をしていない。皆、忙しそうにしているし、ヴィシュ以外で最も顔を合わせているのは、無言のヒューイと最年少のソース、そしてボケ爺の3人だが、まともに会話が成立するのは最年少のソースだけだ……。正直、小学校低学年くらいの異世界人の子供との話題など……イオリには思い浮かばない。


 だからイオリはこの機会にミオンと話そうと思っていた。ミオンが抱えるようにして持っていたオーロへ渡す食料を代わりに持ってあげると、ミオンは小声で『あ……! ありがとう……』と少し笑顔を見せてくれて、その後は快く話し相手に応じてくれた。



 ミオンはヴィシュの幼馴染でヴィシュより1歳年上だ。小さい頃から身体が弱く、祠がある奥地へはあまり行かないらしい。白弓一家では、薪拾いと果実や木の実の採集を担当しているが、たくさん採集することができないので家事の多くを担当している。イオリがミオンを見かけるのも、だいたい中庭での洗濯や洗い物、掃除などの細々としたことをやっている時だ。


 口の悪いバールからは『(み)にくい(おん)なのミオン!』と揶揄われているが、決してそんなことは無く、幼さは残るが目鼻立ちは整っていて、華奢だが手足はスラリと長く、繊細な印象を受ける。イオリの感覚ではかなりの美少女に見える。


(テラデアの美醜感覚は分からないけど……)


 会話をしながら進んだせいか、ずいぶん祠の近くまで来ていた。3人は一旦立ち止まって汗を拭い、水袋の水を口に含み少しだけ休憩した。休憩中にミオンは『オーロさんは、父さんに少し似ていて……それに、とても優しいんです……』と言って少し笑った。ヴィシュはミオンのお父さんを知っているらしく、『へー! そりゃ楽しみだな!』と言っている。



(ミオンの情報通り、優しい人だといいな……)


 3人は再び歩き始めると、まもなく祠のある丘が見えてきた。イオリは森を歩いた疲労と、オーロに会う緊張で鼓動が少し早くなったのを自覚した。そして丘を眺めると、転移してきた日の夕方……あの丘に登った時のことを思い出していた。



(あれから4日か……まだ4日しか経っていないのに、ずいぶん前のことに感じるな………、あれっ?)


 丘の上に人らしきものが見える。


「丘の上に人がいないか……?」


「あっ……、オーロさんだ!」



まだ少し距離はあるが、だいぶ大柄な男がこちらに背を向けて立っているのが見える。


ミオンが小走りになって丘の麓まで近づいて丘の上の人影に呼びかけた。



「オーロさん! 遅くなりました!」


 振り返った男は……ずいぶん大きく見えるんだが………あれが……オーロさん??

 男は巨体に似つかわしく無い颯爽とした動きで丘を駆け降りてきた。ミオンの表情を見る限り、オーロで間違いないようだが……やはりデカい……。オーロはイオリが人生で見たどの男よりデカかった。テレビで見た人物も含めてだ。明らかに想定外だ……。


 丘を駆け降りる男は、地球時代の東洋人風の顔立ちだ。本来なら親近感を覚える筈だが、そんな感情は湧いてこない……。胸板は岩盤のように厚く、足は丸太のように太い。全身を包む筋肉は鋼の如く……服はボロキレを巻き付けているような簡素なもので、それが逆に『俺、鎧とか必要ないから……』と言っているようで男の強さを表しているように感じた。そして何より………


(片腕……どーした………?)


 男は隻腕で、背中に武器を背負っている……。その武器もまるでRPGに出てくるような『こんなの、現実じゃ絶対重くて持てないよね……』と言ってしまうであろう巨大な矛である……。


 イオリは目の前のサイクロプスと、これから2人きりで話そうとしているのだ。経験したことのない種類の恐怖である。治安最悪と言われる南のスラムを通過した時、武器や防具を装備したゴロツキ達を見た。その時も『絶対関わりたくないな……』と恐怖を感じたが………目の前の世紀末覇者は別次元の迫力だ。


 ミオンは、その怪物に対して普段見せてくれない優しい表情を向け、そのあとこちらに目配せをした……『行け…』と……


(生きて帰れたら……ミオンパイセンと呼ぼう……)


 オーロもこちらを観察しているようだ。怪しまれたり、要らぬ嫌疑をかけられたりするのは得策ではない。感情を隠すことに慣れているイオリは何とか表面を取り繕う。


(こ、ここは異世界……こういう種族だっているさ……)

(言葉は通じるんだ……素直に……真摯に……目を見て話す……)


 イオリは何とか絞り出すことができた。



「俺はイオリと言います。2人で話せませんか……?」



 オーロは一瞬目を見開き、そして一旦目を閉じて天を仰ぐ……

 そして静かに言った。



「ずっと……、待ち望んでいた……」



 イオリはオーロに導かれ、祠の中に入った。







 オーロは祠に入ると、精霊紋によく似たトライバルデザインが刻まれた石碑の裏まで進んで座った。2通の手紙が置いてあったテーブル状の岩の前だ………4日前と同じように手紙が置かれている。



「よく来てくれたな……」


 オーロはそう言って微笑んだ。



「怖いか……?」


「い……いえ……少しだけ……」


(人生でいちばん怖いですが……)


「嘘を吐くな……顔に出ている……それに、怖がられるのは慣れている。アイザックの時は、もっと酷かったからな……」


 オーロは苦笑いしながら話す。だいぶ気を遣ってくれているのかもしれない。



(見た目ほど怖くない……かも………)


「いえ……すれ違いになってしまって……それに、直ぐ戻ってこれなくてすみませんでした」


 ここまでくると、祠の内部の懐かしさも手伝ってイオリの緊張はだいぶ解れていた。



「いや、俺が不覚にも動けなくなっていたからだ。それより………」


 沈黙を挟んでオーロは続けた。


「転移者で間違いないか……?」



「はい……。4日前に……夢の中で女性に語りかけられて、転移しました」


 イオリはどこまで打ち明けるべきか悩んだが、素直に聞かれたことに応えようと腹を括った。



「そうか……。よくテラデアへ来てくれた……。この日をどれだけ待ったことか……。俺はオーロだ。お前に会うために、この祠にやって来た」



「オーロさん、俺からも聞きたいことがたくさんあります。なぜ俺が転移してくることが分かったんですか……? それ以外にも、この世界のこととか……とにかく聞きたいことだらけで……」



「まず…オーロで構わん。それに聞きたいことは尽きぬだろうから順を追って話す。転移した後は聞きたいことだらけだからな……アイザックもそうだった……今日1日だけで説明するのも無理だ……」


 オーロはアイザックの名を出すと、懐かしむように優しい顔になる。そしてイオリが落ち着くように、静かなトーンに声を調整して話してくれる。ミオンの言う通り、優しい男なのだ。



「最初の質問の答えだが……お前……イオリがここにくることは、アイザックの予言で分かっていた。正確には『誰がくるかは分からんが、このタイミングでこの祠に転移者がくる』可能性が高い…という予言を信じてここに来た」


「アイザックさんは、この世界では誰もが知っている【偉大なる賢者アイザック】さんのことですよね?」


「そうだ……、そのアイザックだ。奴はテラデアに転移してから様々な研究をして、テラデアの人々も知らないようなことを幾つも解明した……奴は天才だったからな……」


「亡くなったって聞きましたが……」


「ああ……、14年前に病気で死んだ……。死ぬ間際の予言がさっき言った俺がここに来た理由だ………。それから……俺がイオリの質問に答える前に、俺からの質問に答えてくれ……。夢に現れた女性……俺とアイザックは女神と呼んでいるが、その女神は転移するときにイオリに何と言っていた? 何か使命を託されたか?」


「いえ……具体的な使命は託されていないんです……すごく抽象的で……『テラデアは病んでいる。貴方が出来ることを行えば、その力がテラデアの助けになる』…と。だから出来ることを探すことから始めようと………」


 オーロはしばらく沈黙した後、小さく『そうか……』と呟いた。


「イオリ……俺とアイザックはこの世界を治したいと思っていた。争いばかりしているこの世界をな……。しかしアイザックは心半ばで死んでしまった。そのアイザックは俺に『新たな転移者を助けてやってくれ』と俺に託した……。アイツは苦労したからな………だから可能な限りお前を助けたいと思ってる。この世界では簡単に人が死ぬからな……。見たところ……闘いは得意じゃないんだろう?」


(闘いは得意じゃない……のは間違いないんだけど………この人に聞かれて『得意です」』って答えられる人はいるのだろうか……?)


「得意どころか苦手です……。あの……闘いは避けて通れないのでしょうか?」


「スラムには行ったんだろう……? あそこに住んでいる奴らの多くは戦災孤児だ……。それに、テラデアにある11の国の全てが戦争をしている。終わる気配すら無い……。ここでは誰1人として闘いを避けることはできぬであろう……」


(そうだ……ヴィシュもミオンも白弓一家の仲間も全員が戦災孤児だ……)


「偉大なる賢者アイザックも……何度も死にかけた。その都度助けたのは俺だ。イオリは自分に出来ることを探してやれば良い。女神が言うからにはきっとテラデアを助けることにつながるのだろう……。だから俺はイオリの近くにいて危険から守る。質問にも答える……。俺をしばらくそばに置いてみないか?」


(最初は怖かったけど……ミオンの言う通り悪い人では無さそうだし……もし悪人だったとしても、こうして出会っている以上、その気になれば断ったところで逃げることなんて出来ないだろう……聞きたいことも山のようにある……)


「俺はオーロがそばに居てくれたら心強いけど……問題は住処が……いまは居候の身なので……外で待っているヴィシュとミオンに相談してからでも良いですか?」


「ああ、もちろんだ」


「あと、お願いがあります。俺はヴィシュに転移者であることは話していません。ずっと隠しておこうとは思わないんですが、話す時は自分の言葉で伝えたい……だからしばらく秘密にしてもらいたいんです」


「……承知した。俺から話すことはない」



(いまの俺に最も必要なのは情報だ………日本時代では考えられないけど……いまは何よりも人との繋がりが欲しい……。しばらくは行雲流水の如しだ……)



 ここから先はヴィシュとミオンを交えて話そうと言うことになった。

 2人を呼びに行こうと立ち上がったところでオーロが思い出したようにイオリを呼び止める。



「イオリよ……これはアイザックが遺した転移者への手紙だ。お前が知りたいことも書かれているやもしれぬ」


 そう言ってアイザックからの手紙をくれた。あの時の手紙だ。イオリは手紙を受け取ると、ヴィシュとミオンを呼びに祠を出た。


 だいぶ時間が経っていたようで、陽の位置が変わっている。イオリは祠に入った時と出る時で、こんなにも自分が変わっていることが可笑しくなった。




次話は「新しい生活とアイザックの手紙」です。


引き続きよろしくお願いいたします。

週に3話は投稿していけるよう頑張ります。


この先のお話を少しでも読みたいな…と思ってくださった方、

是非とも評価や感想をお願いいたします。

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