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第12話 フーラ工房へ


 翌日、イオリはヴィシュに連れられてフーラ工房へ向かった。ヴィシュが世話になっているフーラ親方がイオリに会いたいと言い出だしたからだが、イオリにも目的がある。



(まずは俺が怪しい者じゃ無いってことを信用してもらわないとな……しかし証明できるような物がないからなぁ……。こればっかりは話してみるしか無い……でも、せっかくテラデアの情報……しかもギター制作に関わる情報が集められそうだし、ヴィシュより精霊鉱石についても詳しいようだから……この機会は願ったり叶ったりだ)



 イオリは工房へ向かう途中、頭の中で目的を整理する。イオリの今日の目的は、『親方に信用してもらう』『工具を見せてもらう』『工具を売っている場所を紹介してもらう』『素材について詳しく聞く』『精霊鉱石について詳しく聞く』という5つの目的があった。


 まずは信用。これが無ければ他の4つも叶えられないだろうが、これはぶっつけ本番だ。できるだけ素直に、真摯に話をするしかない。


 そして素材について。これは主にギターの弦についてだ。ギター製作に必要な素材の中で、最も不安なのが弦だ。ボディやネックは木材から良さそうなのを試せば良い。フレットやナットやサドルなんかは獣の骨の素材が使えそうだ。ペグは原始的な作りなら問題ないだろう。ただし弦は転移してきたときに鞄に入っていたスチール弦が1セットのみで、テラデアで代用品が有るか分からない。恐らくスチール製の弦は絶望的だろうが、昔のギターは動物の腸から作ったガット弦だ。親方に弦を見てもらって、代用できる素材を探すつもりだ。


 あとは精霊鉱石だ。いまのところ精霊鉱石の情報を得られそうな“名持ち”は、ボケ爺とフーラ親方の2人だけだ。ボケ爺とは何度かコミュニケーションを試みたのだが……スマイルしか得られなかった……。これでは鳥肉担当ではなく癒し担当である……。


 考え事をしながらも(はぐ)れないようにヴィシュに付いて歩くと工房に着いた。市場や城門の近くだ。フーラ工房は城市の中にある軍の仕事が多いので城門の近くの方が都合が良いのだそうだ。




(緊張するなぁ……、深呼吸して心の準備を………)


「親方〜! 連れてきたぜ〜!」


 下町っ子は気が短いというが……それはこちらの世界でも一緒のようだ。心の準備を終える前にヴィシュが親方を呼び出している……。そして直ぐに親方らしい男が出てきた。

 左の頬に褐色のタトゥが彫り込まれている……恐らく精霊紋だろう……そして右の頬には大きな傷がある……刀疵だろうか? 『工房の親方』と聞いてイオリはライブハウスのマスターを想像していた。マスターはヒョロガリだ。はっきり言って親方は想定の20倍くらい怖かった……。



「おう、早かったな。奥に来い」


 そう言って親方はヴィシュを見た後にチラリとイオリに目を向けた。観察している目付きだ。奥の部屋に入ると、親方はドスっと椅子に座り、目配せで座るように促してくる。



「フーラ=ガルダードだ。呼び出して悪かったな……」


「イオリです。ヴィシュに世話になっています……」


「単刀直入に聞く……。精霊鉱石はどこで手に入れた。お前さんは何者だ?」


 親方にはアイスブレイクという概念は無かった。ストレートだけで捻じ伏せるオールド・ストロング・スタイルだ。



(素直に……真摯に……)


 イオリはひとつ呼吸をしてから話し始める。


「俺は自分が何者か分かりません。目を覚ましたら森の祠にいました。どうやって祠に辿り着いたかも覚えていません」


(俺は転移者だ。地球の記憶は有る。……でもこの世界で何者なのか、どんな方法で転移したかは分からない。夢の女性にしか分からないだろう……。それに目を覚ましたら森の祠にいたのは紛れもない事実だ。多少心は痛むが、これが今の精一杯だ……)


「それを、俺に信じろと?」


「信じてもらうしか無いのです……」


「そうか……」



 フーラ親方はしばらく考え込んでから再び話し始めた。


「お前さん、偉大なる賢者アイザックは知っているな?」


「……? ええ……名前は知っています……」


(祠の手紙にあった名前だ……)


「あまり知られていないが……、賢者アイザックは突然あの祠に現れて、お前さんと同じことを言ったんだよ……」


「「……えっ??」」


 ヴィシュと反応が被る。



「俺も直接見たわけじゃねえ。俺は当時、下っ端の一兵卒だったからな。でも賢者アイザックは見たこともない変な格好をしていて、アムカリアのスパイじゃないかって城市に連行された。だから当時の兵士の間では噂になってた。ヴィシュからお前さんの話を聞いて思い出したんだ」


「一般人は知らない話だ。……お前さんの歳で知ってる話とも思えん。だから直接会って話してみたいと思ったんだ。それに……ヴィシュはずっと目にかけてきてる。腕も良い。だから変な道に誘い込むような奴じゃねえか、確認しときたかった」


 ヴィシュが目を潤ませている。


「お前さんが嘘を吐いてないか、善人なのか、悪人なのか……、正直まだ分からん。だからたまに工房に顔を出せ。できるか?」


「ええ、構いません。俺も工房には興味があります」


「そうか……なら良い。あと……精霊鉱石は何処で手に入れたんだ? そうそう人にくれてやる物じゃねえ」


「あの石は森の祠で拾ったんです。光っていたので価値があるかと思って。祠で気がついたときは()の身()(まま)で……お金も持っていなかったので少しでも価値がありそうな物なら持っておきたくて……。ヴィシュにはそんな状態の時に助けられたので、そのお礼です」


 そう言ってイオリは自分が持っている石から、青く光っている物を取り出して机に置いた。ヴィシュが目を丸くしている。


「これは?」


「同じく祠で拾った光る石です」


「お前さんには光って見えるのか……? 何色だ?」


「青く光っています」


「……そうか。もしそれが本当だとしたら、恐らく水の精霊鉱石だ。俺には光は見えん。お前さんは土も水も両方見えるのか……はっきり言って異常だぜ」


 精霊鉱石は宿っているで精霊の属性で色が変わる。黄色は土で青は水、赤は火で緑が風なのだそうだ。



 フーラ親方は少し考えてからさらに続けた。


「最初は賢者アイザックと同じことを言うなんて怪しい奴だと思っていたが……。こんな異常なことは賢者アイザックと同じ境遇なら…と逆に信じられるな……」


「賢者アイザックは……そんなに不思議なことをしたんですか?」


「ああ……精霊鉱石について研究して作物の収穫量を増やしたり、遠くにいる人に声を届ける道具を作ったり……。ガルディアを出国してアルムに移住してからも流行り病の特効薬を作ったり……な。アルムでは流行り病から国を救った英雄として国王より崇拝されてたらしい……」


「それは…凄いですね……俺にはそんなことはできませんけど」


 イオリは苦笑いで答えた…(賢者アイザックさんは……転移者で確定っぽいな……何か特殊な能力を持っていて、異世界で無双した系かな……?)


「種類の違う精霊鉱石を見分けるだけで充分異常だぜ……鑑定士でもそんな奴は聞いたことがねえ。で、ヴィシュに渡した精霊鉱石は売ってしまっても大丈夫なんだな?」


「はい。あれはヴィシュの物ですから。それに、俺も売りたいと思っているんです。実は俺も工具が欲しくて……親方、精霊鉱石を買い取ってくれる店を教えてくれませんか?」


「買取は鑑定所だな。この王都には2箇所……城市と商人エリアにあるが……お前さん達は城市には入れないから商人エリアだな。ただ……商人エリアの鑑定所は足元を見られるから気を付けるんだぜ。土の精霊鉱石は俺の見立てじゃ大金貨4枚と金貨2枚以下では売るな。水の方は……すまんが分からん。大金貨3枚以下にはならん筈だ……。ヴィシュ、鑑定所ではフーラ工房の名前を出して、足元を見られんようにするんだ」


 ヴィシュは強く頷いた。これから大金を得るのだ。緊張しているのだろう。あとは……素材と工具について聞かないといけない。まずは一番の懸念点の弦だ。イオリは親方にギターの弦を差し出した。


「親方、この弦に似た素材はありますか? 俺が作りたいものに必要なんですが……」


 親方は弦を手に取って確かめると難しい顔になった。


「これは金属だな……。すまねえがこんな金属は見たことがねえ…。そもそもこんなに細く加工したものはな……。何に使うんだい?」


「ギターを作りたいんです」


「ギター……?? なんだそりゃ?」


(ギターは無いのか……? 説明が難しいな……)


「ええと……楽器の種類です。こうやっての弦をピンと張って弾くと音が出るでしょう? その音を利用した楽器です……」


「楽器……? 聞いたこと無えな……」



(……??? ………楽器を聞いたことがない? スラムだからか? でも兵士だったら軍楽隊とかいなかったのだろうか……?)



「す、すみません……金属で出来ていなくてもいいんです。弦をピンと張って弾いた時の音を使った道具を……作りたいのですが……ある程度丈夫で、切れてしまった時に替えが効く素材が欲しいんです」


「音を使った道具………? なんだか分からねえが、細い素材なら植物繊維から作る紐やら縄。それより丈夫ってのならイッカクかソウカクの腸だな。それかアラーニの糸だなぁ。アラーニの糸は高いし手に入り難いが……。ソウカクの腸ならウチでも使ってるから見せてやる」


「助かります……。ありがとうございます!」


 小一時間ほど経ち、親方もイオリも取り敢えずの用件を済ますことができた。会話の後は工房内を案内してもらい、様々な素材についての話も聞けた。工具に関しては機械化が進んでいない世界故か、思っていた以上に用途別の工具が揃っていたが、金属製の物は少なかった。


 この国ーーーガルディアーーーでは火の精霊の契約者が少ないために金属製品は輸入が多く、高額になってしまうのだ。数少ない金属加工の工房も軍の仕事で手一杯なので、一般人が使う道具類まで手が回らない……、親方も『もっと金属工具も使いてえんだがなぁ……』とボヤいていた。


 現状では充分な成果だったのではないだろうか? 親方には完全に信用された訳ではないけど、拒否されるようなことは無かったし、工房に通うことで徐々に信頼されていけば良い。ギターの弦に関してもソウカクの腸が使えそうだ。後は……軍資金だ。




 イオリとヴィシュは午前中を工房で過ごし、鑑定所のある商人エリアへ行くことにした。






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