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6 支部長、テルマー

 「なぜ殺さん…!」

「誰もがあんたみたいに躊躇なく人間を殺せるわけじゃない。それに聞きたいこともあるしな」

死なない程度に切りつけたら、さすがに暗殺者も大人しくなったようで触手も引っ込んだ。

「そもそもなんで俺みたいな田舎から出てきた新米を襲うんだ?」

名のある探索家が他の探索家に殺されるという話はたまにあるらしい。高価な装備品やクエストの取り合い、狩場の秘匿等理由は様々だが、今回は話が違う。新米探索家なんかを襲って何になると言うのか。

「……」

「…まぁ喋るとは思ってないさ。もう時間は遅いが今から支部にまでつれていく。」

それを聞いた途端、男は突如苦しみ出し遂には息絶えた。どうやら口の中に毒を仕込んでいたらしい。正直そこまでやるとは思って居なかったため今回の件はかなり深刻な物だと認識を改めるべきだろう。こいつから情報は得られなかったが、襲撃理由について俺の中では一つの仮説が浮かんでいた。その答え合わせは後ほどするとしよう。


 ギルド支部に男を運び込み、受付担当者に軽く事情を説明するとあっさり奥の部屋に通してもらう事ができた。こうもすんなりと案内されると言うことは、荒事の管理や後始末を担う部署があるのだろう。どんなに威圧的な男が担当なのだろう。恐る恐る扉を開けた俺は、想像とは違う種類の威圧感を体感する羽目になったのである。

「テルマー様。例の探索家の方です。此度は襲撃に遭われたとの事で死体を手に訪問なさった次第です」

「ふむ、ご苦労様。戻って調査してくれたまえ」

さて、と書類を端に置き、受付の人からテルマーと呼ばれたこの男は齢七十にもなろうかという老人であった。

「さて、まずは自己紹介かの。儂はギルド支部の統括者、テルマーじゃ。」

「俺はノイン。さっき説明にあった通り、謎の男に暗殺されそうになったからその件について相談に来た。あわよくば賞金が出たりしないかと思ってな」

「ほっほっほ!命を狙われておきながら心配するのは金の事か!これまたえらく肝の据わった男じゃのう」

「まぁ、それは半分冗談だが。さて、単刀直入に行かせてもらうが、此度の暗殺者に心当たりは無いだろうか?こちらも命を狙われている以上、受け身ではいられない。敵の正体が分からない以上、うつ手がないからな」

「なるほど。お主の考えは至極当然じゃな。今回は偶然対処できる敵で良かったがこれからもそうとは限らん。まずはその暗殺者とやらの情報を聞こう。」

「あぁ。あまり顔に特徴は無いのだが、体から魔力を固めた触手のような物を出すスキルを持った男なんだが…どうだろうか?」

「…!!!なんと…いや、しかしそんなはずは…」

支部長、テルマー氏の表情が一気に曇った。確実に何か心当たりがあるのだろう。

「…儂の記憶が正しければ、其奴は元々この辺りを中心に活動していた探索家じゃ。特殊なターゲットの狩りを得意とする一風変わった人物じゃったが…」

「…ある日誰かにスカウトされて探索業から離れた…とかか?」

「その通り。優秀な探索家がスカウトされる事自体は稀にあるのだが、なぜ敢えてあの者を引き抜こうと思ったのかは分からんかった。しかし今思えば暗殺者としての適正を買っていたのじゃろうな…」

確かに、戦った時はあまり使ってこなかったが、あの触手は十分な硬度を有していたためどこにでも持ちこめる暗殺道具とも言える。恐らく硬さや長さ、先端の形状も変えられるため逃げの手段としても使えるのだろう。

「一体どこの誰がそんな事を?」

「…ディストーラ家じゃ。ここ十数年で急速に力をつけ、最早並ぶ者がない程にまで発展した。国王との癒着や裏仕事など黒い噂の絶えん奴等でな」

「…それを聞いて確信した。今回暗殺者を寄越された理由は、あのゴーレムが関係しているはずだ」

「なるほど、もうそこまで見通しておったか!ノインと言ったか、おぬしは中々切れるようじゃな。感心感心…」

「最初はただの妄想に過ぎなかったが、流石にここまで来るとそうとしか考えられない。だが、その反応から察するに、ギルドの方でもゴーレムは人為的な物だと分かっていたのか?」

「あぁ。一見活動を停止したゴーレムの一種に見えるが、よく調べると不自然な点が多くての。均一な大きさもそうだが、体内に十分な魔力を蓄えておきながら活動停止するゴーレムなどありえん。そもそもエネルギーがなくなるから停止するのじゃ。まるっきり、逆じゃわいのぅ」

「では、やはりディストーラ家がそのゴーレムを何らかの理由で配置したとみて間違いなさそうだな。しかし…理由がわからない。ゴーレムに狩りをさせて自動的に稼ぐにしても隠しておく意味が分からない」

しばらく考え込んだテルマー氏は、一つの仮説を提示する。

「大量殺戮…かもしれんの。ギルドのもたらす利益は莫大な物で、生活には欠かせない組織となっている。そして我々はその富を真にもたらしてくれるのはお主ら探索家じゃという理念があるため可能な限り買取金額向上や活動支援、そして一般人にも安くで物品提供を行っておる。しかし、ギルドの力が落ちて実績と信頼が低下するとこういった方針も取り辛くなるもんでな。最悪の場合、名家に吸収される恐れもあるのじゃ。今は優秀な探索家が多数いるが、これが減少し経済への影響が落ちるとパワーバランスは崩れ、権力構造の枠組みに押し込められてしまう。」


「…そしてディストーラ家はさらなる繁栄を求めてギルドを吸収できるラインまで落とすべく、探索家の数を減らそうとしているわけか。さらに国王は癒着しているためある程度は黙認する…恐らく富の一部を横流しする等の利害関係を結んでいるんだろうな」


これは…俺が想像していたより遥かに大きな話になってきた。大量虐殺を行うのは地下洞窟に隠した大量のゴーレム。一体あたりの強さは分からないが、突然探索中に複数体現れたら太刀打ち出来ない者も多く現れよう。しかし、考えようによってはこれはチャンスと言えるのでは無いだろうか。

「仮にこれがテルマーさんのいう通り、ギルドを弱らせるための策だったとして、逆にこちらがディストーラ家を潰すことは出来ないか?当主を引っ張り出して全ての証拠を揃えれば、いくら癒着していても国王は奴を切り捨てざるを得ない。大々的に守ると国民からの不信感を募らせるだけだからな。」

「…ふむ。確かに、ギルドを掌握したいという思いがあった所で表立って国が手出しするのはまず無理じゃろうな。しかし、どうやってディストーラの頭を取るんじゃ?ギルドが手を出す訳にはいかんぞ」

「大丈夫だ。敵の情報を知っている限り教えて欲しい。俺がなんとかする。そっちは地下洞窟での警戒を行なってくれれば良い」

「!?無茶だ、何もそう死に急ぐこともなかろう!」

「死に急ぐつもりはないが、しかしいつゴーレムが動き始めるのかも分からないのが現状だ。ならば起動されてしまうまでに壊滅させる以外無い。それに、前提として敵をのさばらせておくと俺は命を狙われ続けるんだ」

彼はうなりながら考え込む。しかし、現実問題それ以外に俺が生き残る術はない。そして結果的にゴーレムの大量放出阻止にも繋がるのだから最善の一手と言えるのでは無いだろうか。

「…よかろう。しかし、無理はせんでくれ。…まぁそもそもが無茶な話じゃがな」

決断してからのテルマー氏の行動は早かった。ディストーラ家の位置、過去に探った時の敵の能力や部屋の配置、どうやって調べたのか逆に聞きたくなるような情報ばかりで、改めて支部長の権利を実感した。なるほど、ただの老人では無いらしい。

「…ノイン、お主にヘラクレスの加護が在らん事を。」

「ヘラクレスというのは?」

「なんじゃ、知らんのか?という事は“ヘラクレスの再臨”も知らんようじゃな。良いか、ヘラクレスとは御伽話の英雄で、かつて強大なモンスターの多くを退け、人類に安息の地をもたらしたとされる人物じゃ。実在したのかは誰も知らんがのう。そして、そのヘラクレスかの如き圧倒的な力で探索を押し進めた英雄がおったのじゃ。壁の向こう側…、まぁ儂らも今壁の向こうにいるから此方側というべきかの。此方側に来るたびに地図の白紙を埋めて、新しい素材を持ち帰る姿からいつしかヘラクレスの再臨と呼ばれるようになった。儂も当時そやつと仲が良くてな。土産話をよく聞かせてもらったもんじゃ。」

しかし…とテルマーさんの表情が曇る。

「…ある日、探索から帰ってきたヘラクレスの再臨、ハロルド・ゲイルウィンは満身創痍じゃった。パーティーを組んでいたその仲間も重症でな。しばらく体を休めると言って顔を出さんようになった。じゃが、そこで悲劇がおきたのじゃ。ハロルドのパーティーには当時大きな権力を持っていたアストラ家の次期当主がいてな。療養中なのを良い事に何者かの襲撃を受けて一夜にして一族皆滅ぼされた…!後からその件について国に報告したが取り合っても貰えない。何でも、国の平和を脅かす兵器開発をしていたとか…しかしそんな男じゃ無いのはよく知っておる!!好奇心と善意を詰め込んだような、気さくな良い男じゃった。その事件をきっかけにハロルドは姿を消し、今では消えた伝説として皆の記憶から薄れつつある…まだ二十年も経っておらんと言うのに」

「そんな事が…じゃあハロルドという英雄は今もどこかにいるのか?」

テルマー氏は、さぁのう…と言って窓の外を見る。かつての共に思いを馳せているのだろうか。

「まぁ、しみったれた話はよそう。すまんの、どうもお主は他人の感じがせんでな。」

「もしかして、俺の祖父だったりするのか?」

「ほっ!それは無いの、儂の孫は女じゃからなぁ」

 その後も少し談笑してると、さらに随分遅い時間になってしまったため今日は泊めてもらうことにした。

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