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14 目覚めるディザスター5

「さて、早速だが今日の予定を決めよう。」

一晩が明け、朝食を摂り終わった俺たちはこの後について話し合っている。

「やるべき事は二つ。家具の追加と修練だ。どちらを先に済ますか、そして修練の場所は何処にするかという事を考えようか。」

「そうですね…とりあえず、疲れて帰ってきてからまたベッドを買いに行くのは面倒なのでそっちが先で良いと思います。展示されているベッドを試そうにも、返り血や土汚れを付けたまま寝転がるわけにもいきませんし…」

「たしかに、俺もそう思う。では、先にベッドを買いに行こう。どのエリアで修練するかは道中考えるか。」

 話がまとまり、家を出た。

「そういえば、ミコナの召喚獣はこれ以上増えないのか?」

「えぇと…増えるには増えるんですけど、少々特殊なんですよね。この子達は私の中の感情…というか気持ち?と繋がっていて、私がその感情を自覚し、受け入れる事で召喚可能となります。今の所は“暴食”、“嫉妬”の召喚に留まっていますが…」

「感情の自覚、承認か。特殊な召喚術式の中でもかなり特異な方じゃないか?」

自らの感情。そして、かつて完全詠唱時に言っていた“七つの罪”というフレーズ…これらから察するに、人の中にある7つの罪を自覚する事で対応するモンスターを召喚できるようになるという事か。

「あと…実は黙っていた事があります。本当は私、もう一匹召喚できるんですよね」

「ほう。」

「ただ、制御できないというか…私以外の全ての生き物を粉砕しかねないというか…」

制御が困難なモンスターか。確かに、基本的に呼び出したくないだろうな。破壊の限りを尽くすモンスター…対応しているのは“憤怒”か“傲慢”といった所か。

「制御はどうやったらできるようになるんだ?」

「うーん…わかりません。というのも、過去に一度出してしまって以降、一度も召喚していないので…それに、色々あってあまりその子の姿を見たく無いというのもあります…」

「見たくないなら、無理してそのモンスターの力を借りなくても良い。それに、制御できないというのはかなり大きなデメリットだ。だからこれまで一度も召喚しなかったんだろ?」

「はい…敵をその子で倒したとしても、きっと私以外皆殺されてしまうので…。召喚解除も出来ないんです」

つまり、そのモンスターを召喚せざるを得なくなっている時点でもう全てが手遅れというわけだ。

「他に召喚出来そうなのはいるか?」

「………そういえば、一つだけ案があるかもしれません。ただ、これは修練と言うより真逆というか…」

聞いてみると、確かに真逆だがやってみる価値のある内容だった。何をするかというと…

「“何もしない”か。」

俺が修練に励んでいる間、何もしない。ただ好きなものを食べ、好きなように生きる。そうする事で自分の“怠惰性”を認識し、召喚のトリガーとする作戦だ。

「はい…我ながら馬鹿げた作戦だとは思いますが、もうこれしか思いつかないんですよね…」

「…よし。やってみよう。」




 という事で、ベッドを買ったのち二人は思い思いの方法でスキルの強化に取り組むのであった。ノインは一歩後退し、獣域中部で修行することにしたようで、初めてのエリア“パルース大沼”にやって来ていた。

「さて。じゃあ例の物を装着するか…」

昨日、ドン・ハンマの鍛冶場にて得た修練効率を伸ばすための装備品。それをバッグから取り出し手につけた。手のひらと手の甲を覆う形の、簡素なガントレットのような物だ。武器の類は一切持たずに大沼の敵ににじり寄る。相手もまた、交戦状態に入った。最初の標的は泥で出来たスワンプゴーレムだ。

「さぁ…小手調べだ。どこまでいけるか…」

ノインはまず、身体中に魔力を巡らせた。ここまではいつも通りだ。今回からの新たな試みはその先…魔力を体表で留める事にある。暴走状態と通常時の違いは、主に二点。魔力操作の緻密性と総量だ。つまり、暴走していようがその能力自体に変わりは無いとも言える。不純物が取り除かれ、無意識のうちに堰き止められていた魔力が徐々に手中に収まりつつある今、研ぎ澄ますべきはその技術。第一段階として、ノインは腕部装甲の発現を目指しているのだ。このガントレットは、手の外側に自分の魔力をスムーズに送る手助けをするための物である。身体に十分な魔力が行き渡った。次は腕だ。ノインは、ガントレットに魔力を込める。

(…凄い…!突然体のパーツが増えたかのように魔力回路が感じ取れる…これが生体回路の力か。だが、まだ維持は難しいか…)

普通、人間に尻尾は無い。だが、生体回路により魔力の経路を繋げると、あたかも“尻尾があるような”感覚を朧げながら感じる事ができる。当然、神経と魔力回路は異なるため触られたりしても何も感じないが。今、ノインは手に真紅の装甲を纏っている様子を想像し、魔力を練っては流し込むという一連の行為を反復していた。だが、数回目でタイムリミットが迫る。相手の出方を伺っていたスワンプゴーレムがついに攻撃を仕掛ける。大沼は、文字通り全域がぬかるんだ土と泥水で構成されたエリアだ。ゴーレムは腕を泥沼に勢いよく突っ込み、引き抜いた。見れば、その腕は元の二倍に膨れ上がっている。大きな棍棒のようになった腕でノインに殴りかかるゴーレム。対するノインは……最後の一回で“掴んだ”。

「…来た…!この感覚ッ!!」

込めた魔力が適切な形に収束する感覚。そしてそれは感覚だけで無く実際に形を持って現れた。

「取り敢えずは右腕だけだが…今はこれで十分だ」

爪の先まで意のままに操作できる事を確認すると、ノインはその手で攻撃を受け止めた。否、受け止めたという表現は誤っている。正しくは、受け“砕いた”のだから。

「グォ……オ…?」

崩壊した自分の手を見て理解に苦しむゴーレム。事実、マッドゴーレムの腕は吸い上げた泥に含まれる石を凝縮し、極太の骨のような組織で出来ているため非常に頑丈だ。それを理解しているが故に当人達もその腕を武器として振るう。この個体もまた同様に、これまで腕を完膚なきまでに破壊されたことは無かった。ただ、相手が悪かったのだ。

「…浮かない顔だな。そんなに不思議がるな。ただ俺の方が硬いってだけの話だ」

硬いだけ…。それはやや語弊がある。腕が硬いだけでは砕くのはおろか、受け切る事も無理な話だ。知ってか知らずか、今ノインの体はかつての身体強化限界点を超えている。腕部装甲の発現に体が追いつこうとしているのだ。少なくとも、これまでの強化レベルでは骨の一本や2本は折れていただろう。尤も、このような鈍重極まりない攻撃であれば本来回避一択である為別段脅威に感じる敵では無い。敢えて敵の土俵で戦い正面から突破する。悪趣味といえばそうかも知れないが、今のノインにとってはこの上ない成長の場と言えよう。もう片方の腕を同様に巨大化させ、同じ攻撃を繰り返すゴーレム。

「学習能力の欠如か…或いはプライドか。何れにせよ結果は同じだ」

腕を砕き、今度はノインが接近する。足に泥水が纏わり付く沼の中でも圧倒的に速いのは、やはり身体強化能力が次なる次元に移行した事の証明に他ならい。鋭利な爪が、ゴーレムの胸部を貫いた。その手の中にはモンスターの魔石。マッドゴーレムはどちゃりと崩れ、大地に還る。特に回収できる素材は無さそうだ。

(ふぅ…。この調子でどんどん行くか…)

太陽は頭上に。つまりは正午、まだ彼の鍛錬は始まったばかりである。



 時は進み、夕方。手にした自宅でひたすら怠惰な生活を送っている女がいた。そう、ミコナである。自分から言い出したものの、本当にこれで良いのかと悩む事小一時間。悶々としながらあるていると、商店街でいい匂いのする料亭を発見。

「…えぇい、これも修行です!やってみないとわかりません!」

その後のミコナの怠惰、加えて強欲っぷりは見事な物だった。思えば、彼女はこれまで楽しみに溢れた生活をした事がない。幼少期から特殊な環境で育ってきた為、楽しみ方を知らなかったのだ。普通の人間社会に初めて一人で飛び込んだ今日、ようやく普通の女子の何たるかを僅かながら知り、そして気付いた。

「…私、服全然持ってない!!!!!!!」

すれ違う女性は皆自分の好みに合った服を着ている。それに対し、自分は探索活動で着用する服を数枚持っているだけ。ギルドで数日間世話になっていた時は部屋に着替えが完備されていたためノインから指摘される事もなかった。彼は、ミコナが余りにも服を持っていない事に気付いていなかったのだ。その事に気付いてからのミコナは…本当に凄かった。わざわざ王国内に戻り服屋を巡っては気に入った物を手当たり次第に購入。十数年の物欲が花開く。荷物が持ちきれなくなる度にスライムを召喚し飲み込ませては次の店へと繰り出す。欲求は服にとどまらず、装飾品や食べ物にまで波及した。自室に戻りスライムから全ての品を取り出すと、驚くべき事に足の踏み場も無くなる程の量にまで昇っていた。

「あ…あれ…私こんなに買ってたっけ…。え…!?」

改めてその光景を見、衝撃を受けるミコナ。勝ったしりからスライムに格納しているのだ、次第に感覚がズレてくるのも無理もない。とは言え…流石に買い過ぎである事は否めない。受け入れ困難な現実を前に作動したのは、ある種の防衛本能。即ち、諦めである。

「買っちゃった物は仕方無いよね…存分に楽しむしか…!」

考えることを諦め、現実を受け入れる…と言えば聞こえは幾分良くなるが、やっている事は要するに開き直りだ。服や装飾品を取り出しては鏡の前で着用する。小腹が空いたら先程買って来た食べ物をつまんではまた試し着の繰り返し。やがて眠くなったらベッドではなくそのまま床で引っくり返るミコナ。眠りから覚めると、窓から見える空は赤く焼けており、もう夕方である事は一目瞭然だ。

「あれ……私…何してるんだろう…」

一眠りし、一周回って冷静さを取り戻したようだ。沈みゆく太陽と鏡に映る自分を見ながら、ふと思い出すのはノインの事。

(修行にかこつけて好き放題買い物して、食べて寝て…今まではそんな余裕が無かったから気付かなかっただけで、私って意識的に怠惰に振舞わなくても根っからだらしない女なのかな…きっとそうだよね…。ノインさんが必死で命懸けの修行をしてるのに、私って…ただ大義名分の元でだらけてるだけじゃない…)

“許される理由”があるなら、仲間が必死で戦っていても喜んで怠惰を謳歌する最低な女。それが最終的に彼女が自身に下した評価である。その瞬間、彼女は胸の奥で新しい“何か”が誕生するのを感じた。

「…ッ!!この感覚…しかも…一つじゃない…!!」

自己の内面を浮き彫りにする出来事からその“罪”と向き合い認める事で、彼女はたったの一日で新たに二匹の召喚獣を手にした。しかし、これは異常な事である。彼女の召喚術は自らの内側に罪を観測し、それに対応するモンスターを召喚するという能力だが、それにより呼び出せるモンスターはどれも強力な能力を持つ。召喚術で固有の強力な能力を持つモンスターを喚ぶ場合、相応の代償・準備が必要だ。それは、魔術の発動に魔力が必要なのと同じく“世界の法則”とも言える程に当然の摂理である。だが、彼女の場合はその縛りが余りにも“緩い”。法則を大きく逸脱した彼女の召喚術の特異性…その起源と向き合うのはまだ先の話となるだろう。




家に着く頃には夜になってた。たくさんの魔石を手に入れたが、自宅で使う分も置いておきたいので半分だけ換金。その他の素材は全て買い取ってもらった。今日一日で得た成果は大きい。ゴールドの話ではなく、スキルの伸長の方だ。何というか…一つ次元を超えた気がする。最初の方は発動にも手間取った腕部装甲…レッドメイルとでも呼ぶか、繰り返し出すにつれて意のままに着脱出来るようになった。身体強化も気付けば従来の限界を超えて発動する事が可能になっており、それでいて魔力消費はそれ程変わっていない。

「いや…違う。変わったのは魔力総量か」

より多くの魔力が必要となったと同時に総量も上がった。そのお陰で消費量が気にならなくなっているだけだ。とは言え、まだまだ真の力を引き出すには至っていないため修行が必要だ。

 家に着くと、ミコナがテーブルに座って待っていた。机の上には夕飯の準備がされている。俺をじっと見るなり、ミコナは無言で飛びついてきた。

「ノインさん………!私…私……!」

何故突然泣き出したのか分からないが、とにかく話を聞いてみることに。

「私…予定通り怠惰な生活をやってみたんです…でも、次第にヒートアップしちゃって…それで気付いたんです。私、修行の一環とかじゃなくて、根っからの怠惰なダメ女だったんです…!ノインさんが…そんなにボロボロになって戦っている間私は…」

どうやら今日の修行内容に罪悪感を覚えているようだ。特にその間俺はモンスター相手に命のやり取りをしていた事に対して罪の意識を感じているのだろう。

「…ミコナ。そんなに気にするな。逆の立場なら俺だってそうしていた。それに…そうする事で得た新たな力は俺達にとって重要な戦力となるんだ。結果的にミコナの“怠惰“のおかげで俺達が何かを成し遂げる事にも繋がるかもしれないんだぞ」

ミコナの表情に、少しずつ光が灯る。

「…それに、だ。そもそも人間なんて皆怠惰なもんだ。でも、それでは生きていけないからそんな自分を変えて日々を耐えてる」

「そんな…ものですか…?私、別に最低な女じゃ無いですか?」

きっと、ミコナはこれまで人とあまり関わってこなかったのだろう。だからこそ自分の中にある普通の人間らしい欲求が酷く醜く見えてしまうのだ。

「そんなもんだ。大して気にする事じゃない。もちろん、いつまでもそのままではいけないが、少なくとも召喚できるようになるまでは…」

「あ…言い忘れてたけど召喚はできるようになりました!それも…2種類です!」

「え…?」

 一体どころか二体も新たな召喚獣を獲得したのか…?理解が追いつく間もなく、ミコナがモンスターを召喚してみせる。簡易召喚は一匹ずつしか喚び出せないため、順番にお披露目するようだ。

「こっちが怠惰の召喚獣…“カースドスパイダー”です。能力は転送で、いろんな所に飛んでいけます。」

大柄な蜘蛛…牛くらいの大きさだ。しかも、顔の下あたりに二本の手が生えている。どうやって転送させるんだろうか。まさか、蜘蛛糸で包んだ対象を送り届ける…という能力だったりするのか…?

「で、こっちが…強欲の召喚獣、“カースドバイパー”。飲み込んだ物を複製してくれます。」

こちらもその名の通り、蛇型のモンスターだ。

「凄いなミコナ…。正直、理解が追いついていないが…。なぜ強欲の召喚獣まで?」

「その答えは…二階に来てもらえれば分かるかと…」

二階のミコナの部屋に入ると、昨日までは空だったクローゼットに服がぎっしりと詰まっている事に気が付いた。さらに、テーブルの上には幾つもの装飾品が。

「なるほど。かなり…買ったみたいだな。それで“強欲”か」

再び一階に戻りテーブルに着く。ミコナが用意してくれた料理を共に食べ、互いに今日の出来事を話し合った。因みに、カースドスパイダーの転送に糸は用いないと知り内心胸を撫で下ろしたのは秘密である。

 その後、様々な用事を済ませた俺達は庭にあるベンチに座っていた。庭といっても、こじんまりとした手狭なスペースだが。

「ねぇ、ノインさん。私明日からどうしましょう?ノインさんの修行に着いて行こうかともうんですが…。」

「そうだな、召喚獣は呼び出せさえすればゴールである以上、ミコナに修練の余地は無いだろうし、能力の検証も兼ねて一緒に行くか。」

…思えば、探索家になってからほぼ全ての日をミコナと過ごして来た。それ故、今日一日離れただけでもどこか物足りない、何かが欠けたように感じていた。きっともう、俺にとってミコナはかけがえの無い存在となっているのだろう。俺の旅路の最初期から行動を共にしてくれるこの仲間を守るためにも、そして俺の夢のためにも。明日からさらに気合いを入れて鍛えよう。一人の時よりも頑張れそうだ。




…あの日から、数週間が経過した。様々なエリアでミコナやアストレアと共に能力を鍛え上げる日々。時折支部や本部に顔を出したり、近くで美味しい料亭を探したりと平和な毎日だった。俺のスキルは未だ暴走状態には及ばないが、それでもかなりの進歩は見られる。アストレアは俺達二人との関わりを通じて日に日に人間のような反応を見せるようになっており、その成長を見るのが楽しくなって来た頃だ。父親とはこういう感覚なのだろうかと思ったりもする。もちろん、戦闘面でも回数を重ねる毎に連携力が増して行き最初に比べればかなり息が合うようになってきた。だが…そんな順風満帆の生活は今日、この日を以て瓦解する事になる。俺たちは破滅の足音も露知らず、呑気に家で朝食を食べていた。

「すみません!ノイン様、ミコナ様はいらっしゃいますか!?」

誰だろうか。この家に来たことがあるのはじいさんとエルマーさんだけで、それ以外客は一度も来た事が無い。何となく、この時から不穏な空気を感じていた。

「おはよう。何の用だろうか?酷く慌てているようだが」

「突然朝早くに申し訳ありません!支部長のテルマーより、至急御二方に来て頂きたいとの事で…」

余程慌てて来たのだろう、一頻り話すと息も絶え絶えになっていた。急を要する事は分かったので、直ぐに準備をしギルドに向かう。到着した先で見たのは、いつもとは違う殺伐としたギルドであった。

「おぉ!二人とも、よく来てくれた。すまんな、突然」

「それは良いんだが…何かあったのか?」

「実は…偉いことになってのう…セブン・ディザスターのうちの一匹、“沸き出る肉塊”が霊廟の地表で活性化し始めたんじゃ…!!」

この数週間で様々なモンスターの知識を得た。その過程で、肉塊の話も仕入れた記憶がある。たしか…一度暴れ始めると徐々に肉が増えてゆき体積が増加する、時間経過で驚異度が高まるとされるモンスターだったか。

「だが…攻撃されない限り活性化しない上に、基本的には霊廟の地下深くに生息しているんじゃなかったか?」

そのため過去に何度か刺激してしまう事故が発生したが、部屋いっぱいに成長した後鎮静化し事無きを得たと言う。それが何故地上に…。

「詳しい話は分からん…。じゃが、明朝に連絡が入っての。生還者の情報によると南下の動きを見せているようじゃから…今頃は霊廟を出ているかもしれん」

「なるほど…で、どうすれば良い?」

「お主らには…“肉塊”討伐のパーティーに加わって欲しいのじゃ…!今、ディーネ湖北部に四大クランのリーダー指揮の下今回の討伐依頼の参加者が集まっている。そこに急行し、そのまま皆で標的を倒してほしい」

「なるほど。まぁ、断りはしないが俺が行って戦力になるのか?四つともクランが出てるとなれば俺達の出番は無さそうだが…。」

「おっと、儂の言い方が悪かったのぅ…実際に参加しているのは二つのクランじゃ。それに両クラン共に全員が集結しているわけでは無くての、一部だけじゃ。もっと言えば、相手が相手じゃ、仮に四大クランが揃っていたとしても万全を期したい。君たちの力は、それ程大きいのでな。そろそろ耳聡い者達は気付いておる。彗星の如く現れ、瞬く間にディザスターを倒した新米探索家が居る事にな…。」

今回、これほどまでに俺を同行させようとする理由は粗方分かった。“お披露目”の意味合いが大きそうだ。戦力としてそれなりに期待出来るというのも勿論、嘘では無い。ただ、それに加えてどのクランにも属さずにギルドと懇意な関係の腕利き探索家がいる事を知らしめ、牽制的な効果を期待しているのだろうな。何かにつけて大盤振る舞いしてくれるのは、ギルドで俺を囲い込む目的もあると言うのは分かっていたが今回でそれが顕著に現れた感じがする。まぁ、殆どがエルマーさんの入れ知恵だろうな。とはいえ、悪い気はしない。要はお互いに“良きパートナー”でいようという意思表示だ。

「…多分、“言いたい事”は分かった。問題無い。俺では役不足な気もするが、必要とあらば参加しよう。」


 待機場所にはじいさんと共に到着した。ギルドの馬車から爺さん…つまりは支部長と共に降りて来る探索家。この時からアピールは始まっているみたいだな。

「…あれが例の“ディザスターを獲った”奴か…?」

「あれが“レッドバーサーカー”のガキか…てことは隣は“呪いの巫女”か?」

呪いの巫女…ミコナの事か。それにしても、なんで名前じゃなくてスキル名で呼ばれるんだろうか。気になるので爺さんに尋ねてみた。

「おぉ、そう言えば言っとらんかったな。それは“通り名”、あるいは“二つ名”じゃ。スキルがそのまま名前になる事もあれば別の特徴から勝手に名前が付くこともある。そう深く考えずとも良いぞ、ただのあだ名じゃからの。それよりも…あの二人がクランのトップ、“キングコフィン”と“氷結姫”じゃ。」

じいさんの視線の先を追うと、明らかに風格が違う二人の探索家の姿があった。周囲に冷気を漏らしている綺麗な顔立ちの女性…二十代後半だろうか?こちらが氷結姫でもう一人の口元から片目にかけて布で隠しているのがコフィンキングと見た。

「それにしても…何で二つだけしか参加しなかったんだ?…いや、逆になぜこの二つは参加したんだ?」

「…四大クランは小競り合いを続けているという話は前にしたな?彼らは己が利益の拡大に向けて互いに衝突しておる。そして、ギルドは直接的には関わらずに要所要所で権威を示して“気の迷い”を起こさんようにしているんじゃが…実は四大クランの内二つはややギルド寄りなんじゃよ。…エルマーのやつがそれぞれデカい弱みを握っているとかでは…ないぞ」

…。握ってるんだろうな。大きな弱み。自分のクランにとって一歩間違えれば甚大な被害が出るディザスター討伐戦。勝てばどのようなメリットがあるのかは分からないが、リスクを考えると参加すべきでは無い。にも関わらず招集に応じたと言うのは…それが答えだ。

「あなた…ギルドと随分仲が良いみたいね。私は“凍てつく古城”の“氷結姫”。無駄な事、嫌いだからあなたの自己紹介は必要ないわ。“飼い慣らされた犬“って事だけ分かれば十分。」

横柄というか高慢というか。不思議と腹は立たないが、良い気もしない。仲良くはなれなさそうだ。自己紹介は要らないというので、もう一人のクランのリーダーに話しかける。

「…俺はノイン。何処まで力に慣れるか分からないが、足を引っ張る事がないように努める」

「…キヒ…!気にするな、気にするな。足を引っ張るようならお前から殺してやるからさァ。好きなようにやりなよ。俺は“赤い棺屋“のコフィンキング。趣味は…”箱詰め“だよォ。楽しいぜェ〜?」

異常者のようだ。探索家の中にはこのようにバックボーンが黒そうな人間もいるが、ここまで分かりやすいのもそういない。この男には二度と関わらない方が良いな。

「おほん…。忙しなくて済まないが、早速討伐に向かいたい。接敵時の布陣は…」

じいさんが細かな説明をし終えると、俺たち一行は肉塊が確認された場所に向かった。

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