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再開

「エクスキューズ・ミー!」


 夕方の出勤前に仮眠を取っていた私は、自室のドアが乱暴に叩かれる音と耳障りな甲高い怒鳴り声で起こされ、不愉快な気分でベッドから身を起こしてスマホで時間を確認し、「ワーット?」と返事をしながら室内用のサンダルに足を通して立ち上がった。


 ドアを開けると小柄な中国人オーナーが立っており、「ブレーカー!」と叫んで親のかたきでも見るような目で睨みつけてきた。ブレーカーが何なのだ。


「ブレーカー、ワット?」


「プット・ザ・ブレーカー・バック!」


 電気を消していたので気がつかなかったが、どうやらブレーカーが落ちているので戻せということらしい。そんなに大声で怒鳴らなくとも聴こえている。


 私は「オーケー」とだけ言ってさっさとドアを閉めて視界から不快な男を追い出したあと、スマホのライトを点けてベッドの上に立ち、壁面に設置されたブレーカーの落ちていたスイッチを元に戻した。


 この国では個人の部屋にブレーカーがあるのは割と一般的で特に驚くことではない。問題はその部屋を他人に貸し出してしまうオーナー側の感覚の方だ。


 それにしても、最近になってやたらとブレーカーが落ちるようになった原因は何なのだ。原因を究明することは叶わなくとも、何かしら対策を講じねばならないだろう。またさっきのように安眠を妨害されたのでは堪らない。




「ファッキン、ストューピッ!」


 ブレーカーのことで怒鳴り込まれて一週間も経った頃、パソコンに向かって執筆をしていた出勤前の私の耳に、再び中国人オーナーの口汚い罵り声が聴こえてきた。画面右上のデジタル時計には以前と同じく十六時十三分の表示が出ている。


「マザーファッキン、アスホゥ!」


 仲介人へ苦情のショートメッセージを送ると、を置かずにすぐさま返信があった。


 これで二度目なので強気の文面を打ってみたのだが、予想に反して仲介人からの返事は素っ気ないもので、嫌なら出ていけといった突き放すような言葉が並んでいた。


 今すぐ引っ越せるような金銭的な余裕は私にはない。だからといって、ここで引いてしまっては相手を増長させるだけである。


 若い時分であれば簡単に折れていたものの、社会の荒波にまれ続けたせいで幾分いくぶんたくましさや図々しさが増してしまった私は、こっちだって安くはない家賃を払っているのだと追撃のメールを送ってみた。


 強制的に退去させられたりはしないだろうと思っていると、仲介人から意外な内容の返信があった。


 メールには、十分な収入のないオーナーが地下階をシェアハウスとして貸し出し、我々から支払われた家賃で年老いた母親の生活費をまかなっているというようなことが書かれてあった。


 ならば、私たちとオーナーは持ちつ持たれつのフェアな関係ではないか。この時期に新しい入居者が見つからないだろうことは彼もわかっているはずで、今いる私たちの誰かが欠けて家賃収入が減ってしまった場合、オーナーの母親は生活が立ちいかなくなって路頭に迷うこととなるのだから。


 そのことに言及したメールを仲介人に送ってみると、もう一度オーナーに言っておくといった内容の返事が届いた。


 相手の弱みにつけ込んだようであまり気分のいいやり方ではなかったが、そもそもこれは私に情報を漏らした仲介人のミスである。それに、金を払っている相手からストレスのお返しを受けるなんて私はまっぴらごめんだ。

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