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聖剣スロットソード

突然だが、俺は勇者をやっていて、いわゆる勇者の剣も持っている。

ただ、この勇者の剣というのがなかなかに癖が強い代物で、敵を斬る度に刀身に不思議な紋様が浮かぶのだ。


今もちょうど魔物と戦っているところなので、ちょっと見ていて欲しい。



「おら!」



緑の肌を持つ小さな鬼一一一いわゆるゴブリンを、肩から腰まで一気に袈裟斬りにする。 上半身が綺麗に裂けたゴブリンは、そのまま即座に息絶えた。


その瞬間、聖剣は”ドゥルン!”という軽快な音を上げ、”ドゥルルルルルル…”という、聞いててなんだかワクワクする不思議な音を鳴らしながら、奇妙な紋様を刀身に浮かび上がらせる。


ゴブリンはまだ2匹いるが、何が起きるのかと警戒をしてるのか、恐ろしげに刀身の紋様に見入っていた。

何かの図柄がグルグルと回転するような、不思議な紋様が3つ。 これは俺からすれば見慣れたものだが、それでもこの光景は、最後まで見守らなければならない。



『ライム!』

「お?」

『ライム! ライム! 体力回復!』



聖剣がひとりでに喋るのと同時に、刀身には3つの青い果物の絵が浮かび上がり、同時に俺の身体にあった少しの傷が癒える。

ゴブリン2匹は不思議そうに互いの顔を見合わせ、結局何も起きそうにないと判断したのか、すぐに俺に向かって飛びかかってきた。


軽く後ろに飛びながら、まずは空中で迫る1匹を斬り伏せ、再び”ドゥルン! ドゥルルルルルル…”と軽妙な音と共に紋様を浮かび上がらせる聖剣の刀身を見る。

この現象が始まっても何も起きはしないと判断しているのか、残り1匹のゴブリンはそのまま俺にしがみつき、鎧や顔を引っ掻いてきた。



『7! 7! 7! ボーナス突入!』

「む! よし…来いッ!」



刀身に7の数字が3つ並んだ瞬間、俺は剣を天空へと掲げる。

同時に、快晴の空を突き破って凄まじい雷が俺めがけて降り注ぎ、俺にしがみついていたゴブリンは消し炭になった。


雷を帯びた俺の全身は黄金の輝きを放つようになり、手にした聖剣の紋様はまた新たな変化を始めている。


何を隠そう、この聖剣は刀身でダメージを感知する度、その刃に不思議な紋様を浮かび上がらせて何かの抽選を開始する。

抽選の終わりにその紋様が揃った時、不思議な恩恵を俺に与えてくれるという、なんとも言い難い運任せな奇跡を宿しているのだ。


その上、紋様が揃わなかった時、むしろ心身にそれなりのダメージを受けるというデメリットもある。

それに今のように1度ボーナスに入ってしまうと、何回か抽選に挑戦してボーナスが終わるまで、俺はこうして延々と輝きを放ち続ける事になってしまう。


おかげで魔物の大群に見つかってしまったり、夜に眠れないと元仲間達に責められたり、なんやかんやあって一人で旅をすることになった訳だ。


賢者ちゃん、好きだったんだけどな…。



「とにかく手頃な魔物の群れを見つけて、ボーナスを終わらせないと…。 ん?」



周りをキョロキョロと見回すと、ゼリーという名で駆け出し冒険者の初陣相手として重宝される、半透明でプニプニした魔物の群れを発見できた。

ゼリーがあんな風に大きな群れで行動しているのは初めて見たが、今はちょうどいい。



「恨みは無いが、倒させてもらうッ!」



すかさずゼリーの群れに斬り込む。



『ライム! ライム! ライム!』



一体倒して聖剣の紋様が揃い、ゴブリンに引っ掻かれた傷が癒える。

この調子でBARやチェリーやスイカが狙えれば、パワーアップや金稼ぎも出来そうだ…なんて思っていると、ゼリーの群れはおもむろに身を寄せ合い、さらにピラミッドのように重なり始めた。



「な、なんだ…?」



呆気に取られる俺の前で、ゼリー達は眩い輝きを放つ。

光が消えると、そこには王冠を被った巨大なゼリーが降臨していた。


今まで見てきたゼリーとは格が違う。 それがひと目でわかる威厳を放ち、愕然とする俺のことを見下ろしている。



「こ、これは…!」

「ゼェ…リィー…!」



見た目とは裏腹に素早く跳ねた巨大ゼリーが、容赦なく俺を押し潰しにかかる。 すかさず聖剣でガードすると、刀身の紋様が回転を始めた。



「何が何だかわからんが、ボーナス中で助かった…!」



巨大なゼリーの押し潰しに必死に抵抗しつつ、刀身の紋様が揃うのを待つ。 しかし、俺は心のうちのどこかでは、微かに嫌な予感があった。



『リプレイ! リプレイ! リプレイ!』

「この展開…まずい! ハズレボーナスか?!」



刀身にREの紋様が3つ揃い、再び紋様が回転を始める。 これはリプレイ…もう一度奇跡の抽選を行う絵柄。

だが、ボーナス中にこれが出ると、なんの恩恵も無いまま、貴重なボーナス中の挑戦回数だけを消費する事を意味する。

ボーナスは何度か絵柄の抽選を行うと、静かに終了してしまうのだ。



『BAR! リプレイ! リプレイ!』

「この流れ、まずい! ぐはっ!」



絵柄が揃わず、俺はその場で血を吐き出す。 ダメージと同時に一瞬だけ脱力してしまい、巨大ゼリーの攻撃を受け止められなくなり、その巨体に押し潰されることになってしまった。


ボーナスにもなんとなくいくつか種類があるようで、ボーナスからのボーナスが継続する嬉しいものもあれば、今のようにボーナスなのに大して良い絵柄が揃わない、ハズレっぽいものもある。



「ゼェリィ…!」

「や、やめろ! クソっ!」



俺を踏みにじり、満足そうにゆらゆらと揺れる巨大ゼリーを見上げ、なんとか剣だけは振ってその柔らかな身体に斬りかかる。


この巨体に反して身体が異常に柔らかいので、潰されたダメージ自体はそこまで無いが、それでも抜け出すことは難しい。

スイカかチェリー…欲を言えばBARくらいの良い絵柄が出てくれれば、強力な一撃で一発逆転も狙えるんだが…!



『リプレイ! リプレイ! リプレイ!』

「くっそぉ!」

『リプレイ! リプレイ! リプレイ!』

「だぁぁあ!」

『リプレイ! リプレイ! リプレイ!』

「ンギギギギギギ!」

『リプレイ! リプレイ! リプレイ!』



なんだよこの運任せな聖剣はッ! ゴミかッ!?

こんなので魔王倒せなんて、勇者の伝説どうかしてるだろ?!

誰だよこんなの作った奴! 出てきて俺の代わりに魔王討伐に挑戦してみろよッ!


真剣な戦いの最中でも陽気な音や声が鳴って緊張感無くなるし、俺の活躍を期待して見守る村人とかも思わず「ダサっ」て漏らしたりするし、俺もそう思うし!!!


せっかく集めた仲間も居なくなって、よくわからんゼリーのでっかいのに殺されかけて、こんなの…!



「もう懲り懲りだこんなの! 勇者なんてやめてやらぁ!!」

『ライム! リプレイ! リプレイ! ボーナス終了!』

「あ…」



俺の全身から光が消えた瞬間、ミシミシッ! と、肋に強い衝撃が生じ、一瞬意識が飛びかける。

凄まじいダメージが肉体を襲い、その瞬間の脱力のせいで、巨大ゼリーの押し潰しの圧力がモロにダメージに上乗せされてしまったのだ。



「まずい…、死……」



思わず聖剣が手から零れ落ちる。 だが、その刀身を見ると、なぜだかひとりでに絵柄の抽選を始めていた。



「え………?」

『7!』



だが、聖剣が勝手に絵柄の抽選を行うこと以上に、俺の目を惹きつけてやまない光景が、その向こうに広がっている。 見覚えのある、3つの人影…。



「お、お前達は…」

『7!』



そう、そこに居たのは、聖剣のダサさ、やかましさ、目障りさを理由に、俺との魔王討伐を辞退した、かつての仲間達。


戦士、賢者、魔法使いの3人だった一一一。



『7! キュインキュインキュイン! 復活!!!』

「待たせたな、勇者!」

「ようやくおぬしに釣り合う力を手に入れたわい!」

「勇者様、再び、この4人で魔王討伐に参りましょう!」

「お前達…!」



その瞬間、空からは無数の雷が降り注ぎ、俺や3人の仲間達を打つ。 巨大ゼリーは何かを察知したのか、咄嗟に俺を押しつぶすのをやめて距離を取り、俺達4人を警戒するように低くひしゃげた。



「これは…、いつもは俺だけに降る雷が、お前達にも?」

「どうやら、聖剣の加護が俺達にも与えられたようだな」

「ぬぉぉ〜! ち、力が漲るぞい!」

「行きましょう、勇者様!」

「よくわからんが…、ああ!」



聖剣を手にして立ち上がり、久しぶりに四人で肩を並べる。

四人全員が眩い輝きを放つ中、巨大なゼリーはその光景に圧倒されているようにも見えた。


戦士が閃光のような素早さで巨大ゼリーに迫り、得意の大斧で真っ二つにする。

二つに分かれた巨大ゼリーはすぐにくっついて再生しようと蠢くが、賢者の不思議な魔法で身体が痺れ、その場で動けなくなった。



「魔法使い様、お願いいたします!」

「むほほほほ! 我が奥義、食らうがよい! そぉい!」



魔法使いが杖から放つ巨大な火球は、麻痺してプルプルと痙攣する巨大ゼリーを容赦なく焼き焦がし、焼け焦げた巨大ゼリーの身体を、俺の聖剣が横薙ぎに一閃する。



「…終わりだ!」

『勇者! 勇者! 勇者! 勇者ボーナス!!!』



聖剣がそんな声を上げると同時に、4等分になっていた巨大なゼリーは光輝く魔法陣とともに空に浮かび上がり、次の瞬間、眩い大爆発を起こした。


その場に居た全員が思わず目を覆うほどの眩い光の中、頭にコツンコツンと何かが当たっていることに気がつき、空を見上げる。


すると一一一。



「うおおおおお?!?! なんだこれは?!?!」



降り注ぐ金貨の雨が、そこにはあった。 まるで俺達を祝福するような光景に、その場に居た全員で子供みたいにはしゃぎ、手を取り合い、突然起きた奇跡を素直に喜ぶ。


相変わらず仕組みはよくわからないが…なんか、とにかく良かった。

こんな感じで本当に魔王が倒せるのかは相変わらず不安だけど、まぁ、やるだけやってみようって、また思える出来事だったな。



「よーし! 俺達の冒険は、これからだ!」



金貨を集め、四人で再び旅路につく。

待ってろ魔王…、必ず倒してやる!





次回! なんと、魔王はスロカスに堕ちてしまった先代勇者だった?!


ダメージを感知すればスロットが回せるから俺を斬れって、そんな、無茶しないで戦士!


このままじゃ戦士が死んじゃう…! どうするの勇者?!


次回! 戦士死す! スロット、スタンバイ!

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