憂鬱な日
朝、突然話しかけてきた美人は、どうやら弟の知り合いだったらしい。
愛称で呼び合うくらいだから
大切な友人かもしくは、それ以上の関係だったんだろう。
HRが始まったので、周りからはさっきの事を聞かれていないが
視線が集まってる感じがする。
こりゃ休み時間の度になにか聞かれそうだな。
「おい。りゅーくんや。さっきのはどういう事だ?」
「カオリン? の事は、本名も知らないよ。さっきの通りだ。
っていうか、りゅーくんって呼ぶな。気持ち悪い」
「あれは、篠崎 香織さんだな。
学校でも美人で有名だぜ?」
へぇ。晴彦でも知ってるんだ。
「興味なさそうな顔だな・・・まぁお前には先輩が居たしな」
「まぁね。今は会えないけど大学に行ったら・・・寄りを戻せないか聞くつもり」
「っていうかなんで、先輩と別れたんだ?
遠距離恋愛になったからって、みんな駄目になるわけじゃないだろ?」
そう。僕には付き合っていた先輩がいた。
1年の始めにバイト先で知り合って、同じ学校だって後から知ったんだけど
一目惚れだった。そこから告白して付き合えたのは良いんだけれど
先輩はその時3年生で、
卒業と共に振られてしまった。
今でもたまに連絡を取り合ってはいて
将来お互いにフリーだったらまた付き合おうと言ってくれている。
なんのことはない、都合の良いキープ君扱いかもしれないけれど
正直期待してしまっている自分がいる。
「お互いに今のままだと幸せになれない。って言われたけど
よくわかんない。でも、連絡は今でも取ってるよ」
「なんかよくわかんねー、関係だけど。復縁したいのか?」
「したい。と思ってるけど
少なくとも大学生になってからじゃないと駄目って言われてさ。
だからとりあえず志望校は先輩と同じところ」
興味深げな視線を送られても困る。
男にそんなに見つめられたくなんてない。
「なるほどな。それより今は香織さんの事だな。
どうすんだ?」
「どうするも何も人違いだから。
でも、朝の感じだと僕の言ってる事聞いてくれる感じはしないな・・・」
「・・・・まぁ正直危ない感じはしたな・・・明るいのに、病んでる感じがすると言うか・・・」
「だよなー。でも話しかけられて無視し続けるにもいかないし・・・
バイト中とかなら、適当対応すればいいだけなんだけど・・・」
その後もクラスメイトから声を掛けられたけれど
『いや、他の人にも言ってるんだけど
今日話したのが初めてだよ。
どうも、僕を誰かと勘違いしているらしい。
ちゃんと本人に違うと言うつもり』
と言い続けるはめになった。
面倒くさい。こんな変な事で目立ちたくない。
早く卒業して先輩に会いたい。
こうして、僕はその日
香織の事に気を取られ憂鬱に思いながら過ごした。