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これから

 エレナにもう一度「ありがとう」と言って、それから「またね」と別れたあとで、俺たちはとりあえずフォレスティアに戻ってきた。


 夕日が傾きかけたころ門まで帰ってくると、ルイラが待っていて、そのままルサヴェガス家の屋敷に連れて行かれた。


 そして、みんなの首輪を外すことにした。


 いつどうなるかわからないし、イルゲミニス家がどんな暴挙に出るかわからないので、パックスから順番に外す。


 まずは俺が磁力魔法で首輪の中の刃を固定して、イスティが石を取り替える。それからカルメアが闇魔法で新しく契約を施して首輪に解放を命じてからフィニが解錠を行った。


 順調に作業が進むとカルメアがウェインとプルに「よく見てどっちが石の取り替えと鍵の解錠を習うか決めといてね」と言った。


「「はぁ?」」


「私がプルの分隊に入って、あなたたちが石の取り替えと鍵の解錠を覚えれば、いずれ不当に各地の貴族たちに捕まっているエルフたちを解放することができるんじゃないかしら?」


「なるほどな」


 ウェインがうなずくと、プルが「いや、ちょっと待って、カルメアはいらないから」と言った。


「あんたね。誰も入ってくれないんでしょ? 私が入ってあげるって言ってんのよ」


 とカルメアが言ってしばらくプルとカルメアの取っ組み合いが始まったが作業が滞るので「あとにして」と言ってやめてもらった。


 まったく。


「だけど、鍵の解錠なんて犯罪でしょ?」


「あんたは本当に頭が硬いわね。力も、技も、要はどんな目的に使うのかが大事なのよ」


「まあ、そうだけど……」


「いやなら鍵の解錠は俺が覚えよう」


 ということで、ウェインが鍵の解錠を、プルが魔石の交換を覚えることになった。


 そこで俺は「あのさ」とみんなに呼びかけた。


「みんなが全然突っ込まないから僕、ってか、俺から話すけど、気付いているよな? 俺も世界樹の実を食べたんだ。それでカルメアみたいに子供になった」


 俺がそう言うとウィスとティアは少し驚いた顔をしたけど、他のみんなは顔色ひとつ変えない。それどころか、ルシアは「それがどうしたって言うのよ」と聞いて来た。


「それでもあんたがラピスなことには変わりはないでしょ?」


「そうだな。ラピスはラピスだ」


「そうだよ、今更って感じだね」


 ウェインとプルも続いたけど。


「違うよな。俺は化け物なのかもしれないんだぞ」


 俺がそう言うとカルメアが「それはないわよ」と言った。


「エレナ様も言ってたじゃない『魔力が澱んでいると魔物になりやすい』って、もしラピスの魔力が澱んでいたならエレナ様は蘇らせたりしないわ」


「だけど……」


 俺が言い淀むと、ウィスが「ラピスが魔物になっていたとしたら何かしらの兆候があるはずじゃ」と言った。


「そうね。だけど、今のところ、その兆候はないわね」


 カルメアはそう言うと「ラピスは死んだとき、なにを願ったの?」と聞いた。


「そうだな『母さんの看病でなにも出来なかったから、自由に生きたかったなぁ』とか思ってたし、あとは魔力が欲しかった。死ぬまえは磁力魔法って知らなくてほとんど魔法が使えないと思ってたから」


 俺がそう答えると、ルシアは「呆れるわね」と言う。するとウェインが「普通はもっとあるだろ?」と聞いて来た。


「例えば?」


「そりゃあ、モテたかったとか、お金持ちになりたかったとか、誰かと変わりたかったとか……」


「ラピスにはそういうのはないの?」


 プルがそう言うので、俺は「あぁ、そんなこと思っても俺は俺だろ? 意味ないだろ、そんなの」と答えた。するとウェインが「答えは出たな」と笑う。


「自分で言ったじゃないか、やっぱりラピスはラピスなんだな」


「あんたは本当に馬鹿ね。せっかく叶えてくれるって言うなら『もっとイケメンにしてください』とでも頼んでおけば良かったじゃない」


「あのな、ルシア。それだと俺は化け物になってたかもしれないんだぞ」


「あっ、そうか」


 おいおい。


 俺が苦笑いを浮かべるとルシア以外みんな苦笑いを浮かべた。そして、プルが「それで」と俺を見た。


「ラピスはこれからどうするの?」


「いや、変わらないよ。形だけでもティアと結婚してプルの分隊に入ってラインに行くさ」


 俺はそう言ってティアを見る。


「本当は親子ほど離れているから気分的には娘みたいなもんだけど、ティアは可愛いからな」


 俺が笑うとティアは「ブゥ」と膨れた。


「私だっていっぱい勉強して、すぐに追いつきますからね」


 そう言ったティアが俺のところまで走って来てギュッと抱きついてくるのでその頭をなでる。すると、ウィスも「そうじゃな」と笑った。


「大人になってしまえば、10歳差も20歳差も大した問題ではない。それに見た目は一緒なんじゃ、問題無かろう?」


「あのさ、ウィス爺はまだどこの馬の骨だかわからない俺を本気で孫の婿にするつもりなの?」


「うん? わかっておるぞ、ラピスはラピスなのじゃろ?」


 ウィスはそう言って首をかしげた。


 正気なのか?


 俺が呆れながらウィスを見ていたらルシアが「ねぇ」とウィスに声をかけた。


「こんなのやめておいた方が良いんじゃない」


 そう言ってなぜかモジモジし始めた。


 うん? なにやってんの?


 案の定、ティアが「ラ〜ピ〜ス〜!」と言いながら俺の横腹をつねる。


 痛いよ。ねぇ、それ、何気に痛いよ。


 そんな風に思って俺たちを見ながら笑っているみんなを見た。あの日、思いがけず蘇ったけど、死に際に俺が願ったことは叶っていると思う。


 みんなと笑い合いながら、今度は人生をちゃんと楽しもう。


 そうして夜は更けていく。


 その日もずいぶんと遅くなって、俺が『金の鶏亭』に帰るとサリヤが仁王立ちで待っていた。


《おわり》

最後までお付き合いくださりありがとうございました。

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