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世界樹の木

 エレナが胸の前で手を合わせて目をつぶる。


「レクイエム ・エテルナム・ドーナ・ルークス・ペルペートゥア ルーチェアト・デチェト・イムヌス・レッデトゥル・ヴォトゥム・エクサウディ・オラツィオーネム ・メーアム」


 そう唱えると、エレナの足元に魔法陣らしい物が浮かび上がったけど、俺たちのそれとはまったく違う形と文字だった。


「アンティークウム・コントラクトゥス・セクイン・メイーアニムス・フラグメントゥム・ディーケレ・オラツィオーネム・イッグドラシール・フルークトゥス・スキエンティア・インヒビトゥス・クーピトール」


 続けてエレナがそう唱えると、魔法陣から光が立ち上ってそれから降りて来た。そして、エレナの胸から光の玉が現れる。


 それをエレナが手で受けると包んでいた光は収まっていき、小さな紫色の石になった。


 それをエレナはカルメアの上に丁寧に置く。


「モルテ・トランシーレ・アド・ヴィータム・インフェルニ・プロフンド・ラク・リベラ・アニマス・デフンクトールム」


 すると小さな紫色の石がカルメアに溶け込むように入っていって、体に紫色の筋が血管のように広がる。そして、眩しい光に包まれた。


 俺たちが目を開くと、カルメアがいた場所には小さな女の子が横たわっていた。


 エレナはその胸に耳を当てて、俺を見た。


「上手くいったみたいよ」


「えっと、その子はカルメアなの?」


 俺が聞くとエレナは「そうよ」とうなずいて、それから周りを見て俺にだけわかるように「あなたと同じね」と笑った。


 おいおい、マジか。もう子供になるのがデフォルトなんじゃないの? その実。


 それからそのまま寝かしておくのはかわいそうなので、俺はカルメアを抱き抱える。


「おい、ラピス。その子はカルメアなのか?」


「うん、エレナが助けてくれたんだ」


「そうか、その、なんだ、ずいぶんとちんちくりんになったが、とりあえず良かったってことで良いんだよな?」


「ちんちくりんって、僕たちと変わらないだろ?」


「そうだけどな、さっきまで大人だったよな?」


「うん、例の効果だと思うよ」


「よっ、欲望ってやつか?」


 ウェインが首をかしげると、俺は「うん」と言ってから眉間にシワを寄せた。


「だから、まだ安心は出来ないよ。世界樹の実は欲望を叶える実だからね。カルメアがものすごい欲望を抱いていたら化け物になっているかもしれない」


「「なっ?!」」


 ウェインとプル、それからルシアが驚くと、カルメアは「うるさくて寝ていられないわ」と片目だけ開けた。


「せっかく王子様に抱き抱えられているのに……」


「あのさ、起きてたの?」


「うん、さっき起きた」


「調子は?」


「最高よ」


 カルメアが笑うので「化け物になってない?」と聞いたら「殴るわよ」と返事が来た。


「私の願いはラピスとずっと一緒にいたかったよ」


 そう言って笑ったカルメアが、俺をギュッと抱きしめる。


「えっと、カルメア?」


「同じ歳ぐらいになったし、もう遠慮はいらないわよね」


「「えっ?!」」


 俺とプルとルシアが驚いて、プルとルシアがふたりがかりで俺からカルメアを引きはがす。


「なにするの? こっちは病み上がりよ」


「それだけ元気なら大丈夫でしょ」


 ルシアが「そうよ、あんただけずるいわよ」と言うと取っ組み合っていた3人は顔を見合わせた。


「順番ね」


「うん、それが良いと思う」


 カルメアの話にプルが乗ると、ルシアが「わっ、私は別に……」と言った。すると2人が「本当に?!」とシンクロして、ルシアが「もう」と言いながら俺に抱きついて来た。


「うん? なにしてんの?」


「なんでも良いのよ、馬鹿」


 そう言ったルシアに抱きつかれていると、エレナが「大人気ね、ラピス」と笑う。


「なんかごめんね、エレナ。それから、ありがとう」


「良いのよ、気にしないで」


 そう言って笑ったあとで、倒れているエランを見下ろしたので、俺は「蘇らせないの?」と聞いた。


「そうね、やめておくわ。蘇らせても魔力がすごく澱んでいるからたぶん魔物に変わると思う」


「えっ?」


 俺が驚くとエレナは舌を出した。


「もしかして世界樹の実を使う前から魔物になるのか、わかるの?」


「ううん、完全にはわからないわ。だけど、ひどく澱んだ魔力だと魔物になりやすいと思う」


 そう言ったエレナはカルメアを見た。


「彼女の魔力は澄んでいたから、大丈夫だと思ったの」


 俺は「そっか」と言いながらカルメアを見て、それからエルフを狩る者たちを見た。


「だけど、僕のせいでみんなを解放してあげられなかったね」


 俺がエランを殺してしまったからね。


 するとパックスが「良いんです」と笑う。


「カルメアさんも無事? だし、俺たちはすぐに死ぬわけじゃないし、またきっとチャンスが来ますよ」


「そうですよ。生きてさえいれば、なんとかなりますよ」


 マヤも笑ってくれたので、なんか視界がにじむ。


 するとカルメアが「それなら大丈夫だと思うわよ」と言った。


「カルメア?」


「たぶん私、死ぬ瞬間にもうひとつ願ったの」


 そう言ったカルメアは手から黒い霧のような物を出した。


「『出来ることならみんなの首輪を外してあげたかった』ってね」

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