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エルフ②

「うん、エレナ、久しぶり」


 俺はそう答えてから「僕は今ラピスと名乗っているんだ」と言う。


「そっか、ごめんね、ラピス」


「ううん、大丈夫だよ。それよりも今日は来てくれてありがとう」


 俺が礼を言うとエレナは「なに言ってるの?」と笑ったが、エランたちは顔をしかめた。


「命の恩人であるラピスのお願いだもん。来るに決まってるでしょ?」


「うん」


 俺がうなずくとエレナはエランを見た。


「これはなんの真似?」


「エレナ様……」


「私はラピスの願いを叶えてって言ったよね?」


「ですが、奴らは同胞をさらっていた者たちです。その者たちを助けるなどと……」


 エランがそう言うとエルドが「馬鹿げていますよ、エレナ様!」と言った。


 するとエレナがエルドを見る。


「それは私が馬鹿ってこと?」


「いや、そのようなことは……」


「なぜ先を見ることが出来ないの? ここでラピスと争えば、我らは居場所を無くすことになるのよ」


 エレナはそう言って「はぁ」とため息を吐いた。


「森を焼かれたら? 木をすべて切り倒されたら? 人族の王国騎士団が本気になれば、私たちを殺し尽くすことなんて容易いのよ」


「我らも一丸となって人族どもを根絶やしにしてやれば良いのです」


「そうやって罪のない人たちを殺すの? エルド、あなたは昔の過ちをまた繰り返すの?」


「それは……」


 エルドが言い淀むとエレナはカルメアを見た。


「ウィスからの手紙にはその子のことが書かれていたわ。西の辺境の村、私たちエルフに寄り添ってくれた村をあなたたちが滅ぼしたのよね?」


 エレナがそう言うとカルメアが「あんたはあの時逃げたエルフか?!」と叫んだ。


 カルメアがものすごく険しい表情をしているのでエルドが「ヒィ」と声をもらす。するとエレナがカルメアに頭を下げた。


「本当にごめんなさい」


「あなたもあの場にいたの?」


「いえ、いなかったわ」


 エレナがそう答えると、カルメアは「あなたが居てくれたら良かったのに」と呟いた。


「そうだね。居たら止められたかもしれないね」


 エレナが優しくそう言って。「あの子のことは私に任せてもらえない?」と聞いた。するとカルメアは自分の手を見て、それから俺を見た。


「すみません。私……ラピスの願いに答えたいと思ってたのに……」


「良いのよ。それが生き物なの、人もエルフも心があるから頭で考えたようには動けないのよ」


「エレナ様……」


 エレナが微笑んでから再び「ごめんなさい」と頭を下げると、カルメアが「ごっ、ごめんなさい」と崩れ落ちた。俺はしゃがみ込んでカルメアを抱き寄せる。


 するとエレナはそれを確認して、エランを見た。


「あなたはどうするの?」


「エレナ様?」


「私の命に背いたわね」


 エレナはそう言うと「エラン」と優しく呼びかける。


「最後のお願いよ、ラピスの手伝いをして」


「エレナ様、それは……」


 エランが目を見開いた。


「今まで世話になったわね。ラピスの手伝いをしてくれるなら希望する里に手紙は書いてあげるわ」


「エレナ様、お待ちください、それは、それだけは」


 エランが駆け寄って、エレナの腕に縋りつくと、エレナはそれを見下ろした。


「あなたは私の命を無視して里を危険にさらしたの。悪いけどもう側には置いておけないわ。エルドと一緒に消えて」


 そう言ってエランを振り解くと、エレナはエルフたちに呼びかけた。


「直ちに武装を解除しなさい。まだ続けるなら、その子たちもエランたちと一緒に追放するわよ。それからエルドは拘束して!」


 すぐにエルフたちによってエルドが拘束されるとエルドが暴れた。


「エレナ! きさま、覚えておけ! 必ずお前にも復讐してやるからな。追放などと生やさしい処罰にした事を後悔させてやる」


 そこで仲間のエルフに殴られてエルドが気絶すると、エレナは「はぁ」とため息を吐いた。


「なんでこんな子に育ってしまったの? やっぱり長く生きるのは嫌なことね」


 首をかしげたエレナがこちらを見たとき、エランが俺に覆い被さって来たけど「危ない!」とカルメアに突き飛ばされた。


 エランの剣がカルメアの胸に突き刺さる。


「ラピス、良かった」


 口の端から血を垂らしたカルメアが俺を見て少し微笑むと、その場に崩れ落ちながら目を閉じた。俺はその瞬間に腰のナイフを引き抜いて、エランの首を切り裂いていた。


「ルシア!?」


 すぐにルシアが駆け寄ってきて、胸の前で手を合わせる。


「女神よ、我は願い、我は祈る……」


 そう呟いた声は少し震えていた。それからひざまずくと足元に魔法陣が浮かぶ。


「聖なる翼をもつ天の女神よ。我が呼びかけに答え、聖なる神の光で身体を癒したまえ」


 ルシアがカルメアに手をかざす。


「『サナティオ・パーゲェション』」


 だけど、いつまで経っても光は降りて来ない。


 再びルシアは「女神よ、我は願い、我は祈るって言ってんでしょ!」と怒鳴ってひざまずくと足元に魔法陣が浮かんだ。


「聖なる翼をもつ天の女神よ。我が呼びかけに答え、聖なる神の光で身体を癒したまえ」


 ルシアがカルメアに手をかざす。


「『サナティオ・パーゲェション!!』」


 だけど、光は降りて来なかった。


 ルシアがなんども地面を叩く。


「なにが癒しの力よ! なにが聖女よ! いつだって大事な者は救えやしないじゃない!」


 そう言って泣くと、エレナがルシアに近づいた。

 

「そんな悲しい事を言っちゃダメだよ」


 エレナがルシアを抱きしめて、そして、カルメアを見た。


「ラピス、この子の首輪を外して、剣も引き抜いてくれる?」


「エレナ?」


 俺が聞くとエレナが微笑む。


「世界樹の実を使うわ」


「だけど、首輪は……」


「残念ながらこの子はもう死んでるから、無理に解錠しても作動しないわよ」


 エレナがそう言うので胸が締め付けられた。


 死んでる……。


「ラピス、早くして!」


「うん」


 俺はうなずくとパックスが土魔法の岩壁を解除した。


「フィニ、カルメアの首輪を外してくれる?」


「えっ?」


 状況がわからないフィニは少し戸惑ったけど「わかったわ」とすぐに俺の側に来てカルメアの首に付いている首輪を外す。


 そして、俺がカルメアの胸から剣を引き抜くと、エレナはカルメアの側にしゃがみ込んだ。

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