エルフ①
俺たちが待ち合わせた辺りに来ると、すでにエランは待っていた。そして、俺の姿を確認したエランが眉間にシワを寄せる。
「もう会うことはないと言ったはずなのだがな」
「うん、ごめんね。エランさん」
俺がそう言うとエランは「ふん」と鼻を鳴らす。
「それで、こいつらか? 首輪を外して欲しいと言うのは?」
エランがエルフを狩る者たちを見渡しながら言うので俺は「うん、そうだよ」とうなずく。
「本当に協力してくれるの?」
カルメアがそう言うと、エランはキッとカルメアを見た。
「お前が我が同胞をさらっていた奴らのリーダーか?」
「そうよ」
「ふん、どれほど面の皮が厚いのか見に来てやったが、やはり面の皮の厚そうな女だな」
うん?
俺が「エランさん?」と聞くとエランは俺をにらむ。
「俺が素直に協力すると思うのか?」
「そうだね。思わないけど、僕たちにはお願いする道しかないんだ」
「なるほどな。だが、お前は頼み方も知らんのか?」
エランがそう言うので、俺とカルメアはその場で並んで土下座した。
「カルメアの姉ちゃんがエルフのみんなにやってきたことは許せないと思うけど、助けてもらえない? お願いします」
そう言って頭を下げるとエランは「ふん」と鼻を鳴らす。
「お前になにがわかる? 仲間を、親友を、恋人を、妻を、娘を奪われた我らの気持ちなど、お前なんぞにわかるわけない」
エランが俺の頭を足を乗せると、ウェインが「おい」と声を掛けた。
「頭を下げて頼んでいるやつに、その仕打ちはないんじゃないか?」
「ふん、俺の力が必要なのだろ? そんな態度を取って良いのか? お前も頭を下げろ」
ウェインが「クッ」と歯を食いしばると、カルメアが「もういいわ」と言った。
すると次の瞬間、俺の頭に乗せていたエランの足が吹っ飛んだ。
「なっ!?」
「グァァァァァァ」
エランが転げ回ると、近くの木の影からエルフたちが飛び出してきた。100人近くは居そうだ。
「やってくれたな」
エルフの1人がそう言うとカルメアが睨みつけた。
「礼儀を知らないクズに礼儀を教えただけよ。死にたいやつは前に出なさい。どうせ私は数日で死ぬの。だから1人でも多くのエルフを道連れにしてやるわ」
カルメアが凄んだあとでエルフたちに向けて手をかざす。
「烙印を受け冥府に落とされし女神よ。我が呼びかけに答え、愚かなる者どもからその血の全てを奪い取れ『サングイス・オーガー』」
さっき『やってくれたな』と言ったエルフが苦しみ出すと、みるみる干からびていく。俺は立ち上がって「カルメア!」と腕をつかんで止めた。
「ラピス?」
「お願いだから待って! もう一度、話し合おう」
「無駄よ。奴らは初めから協力するつもりなんてないわ」
「そうだね」
俺がうなずくとカルメアは驚いた顔をして、俺を見た。
「それでも、話をしたいんだ」
俺はそう言ってエランに近づくと、ポーションを飲ませた。血は止まったが、ハイポーションではないので足は生えなかった。
「ルシア……」
「わかったわよ」
ルシアがうなずくと身体回復魔法である『サナティオ・パーゲェション』を唱える。
天から光が降りてきてエランの足が生えた。
それを見てエルフたちの中から「聖女様」と言う声が聞こえた。そして、俺が干からびかけたエルフも抱え上げてポーションを飲ませるとエルフは回復した。
「きさま!」
回復したエルフが怒鳴りながらカルメアをにらみつけると、カルメアは「フフッ」と笑う。
「エルフがここまで滑稽な生き物だとは知らなかったわ」
「なんだと!」
「あんたは誰に救われたの?」
カルメアがそう言うとそのエルフは俺を見て、それから「離せ!」と言う。なので、俺が「わかったよ」と言いながら離してあげると、エルフは立ち上がって、俺から少し離れた。
そのエルフがサッと手をあげる。すると木の上にいたエルフが弓を構えた。
「どうしても話し合うことは出来ないの?」
「奴らがエルフにしてきたことを考えればわかるだろ?」
「エレナなら話は聞いてくれると思うよ」
「きさまが、エレナ様の名を気安く呼ぶな!」
そう叫んだ、エルフが「まずは後ろのやつらを狙え」と言った。
「ルガドルさんたちは非戦闘員だよ?」
「そうか、ならばちょうど良い。奴らを殺してお前に自分の無力さを味わってもらうとしようか? 我らのようにな」
エルフがそう言うとウェインが「諦めろ、ラピス」と声をかけて来た。そして、プルも「残念ながらわかりあうなんて無理だよ」と言う。
そうかもしれないね。
俺がそう思うとルシアが「私が守って来たのはこんなクズどもだったの?」と言った。するとエルフの中の1人が「エルド、聖女様に刃を向けるのか?」と聞いた。
「しかもあの坊主はエレナ様の命の恩人なんだろ?」
「そうだ、エレナ様はあの坊主の願いを聞き入れると言っていたではないか」
2人のエルフが続くと、エルドは「忘れたのか?」と聞く。
「あの女たちがして来たことを忘れたのか?! 泣き叫びなが連れ去られた者たちのことを、お前らは忘れたのか!?」
ギュッとエルドが顔をしかめると、弓矢が飛んできた。
俺はそれを砂鉄で薙ぎ払ったけど、次々に飛んでくる。とっさにウェインが風の壁で、プルが氷の壁で防いでくれた。さらにパックスが地面に手を置いた。
「大地に眠りし土の女神よ。我が呼びかけに答え、荒き波をも跳ね返す堅固なる岩壁を立ち上げよ『スコプルス・デフェンシオ』」
すると、ルガドルたちの周りに城壁のような岩の壁が築かれた。
ウェインが「やるじゃねぇか」と笑うと、パックスが「上空はお願いします」とウェインに言う。もちろんサムズアップしたウェインが「任せろ」と返した。
君はいちいちイケメンだね。
そして、弓矢が止むと「こんなことだろうと思った」と言う声が聞こえた。
そして、森から出てきたエレナが「久しぶりね、アルブ」と笑った。




