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ここにいる意味

 数日後、俺たちは魔の森の中に来ていた。


 ウィスがエレナたちと連絡を取ってくれたので、ぞろぞろとみんなで来たのだが、ゴブリンがいない、さらに言うとオークもいない。


 ウェインが「本当に魔の森なのか?」と言うと「確かに疑いたくなるぐらいに魔物がいないね」とプルが答えた。


「やっぱりこの前のオークの群れの影響なのか?」


「そうだね。それにしてもここまで魔物がいないと返って気持ち悪いね」


 プルがそう言うとエルフを狩る者たちも周りをキョロキョロと見ていた。


 みんなはあらかじめ契約魔法で、ルサヴェガス家の者とエルフに一方的に危害を加えることは出来ない契約がなされた。


 もちろん反撃は許される。


 この契約のせいでエルフを狩る者たちのみんなが、一方的にエルフに殺されるのは嫌だからね。


 意外にもこの条件を提案したのはウィスだった。


『こちらとしては隣人として良い関係を続けていくつもりでおるが、エルフの恨みは計り知れん。我らにとってはほとんどのことが昔の話でも、長命なエルフにとってはついこの前の話じゃし、実際に友を、恋人を、家族を奪われておる。いつ敵になってもおかしくないのじゃ。だから反撃は出来るようにしておく』


 そう言ってウィスは顔をしかめた。


 本当は心からエルフを友として信じたいけど、歴史がそれを許さないんだね。


 俺だってエレナのことは信じているが、他のエルフを信じれるか? と聞かれたら首を縦には振れないと思う。


 俺が「はぁ」と息をはくと、ルシアが「どうしたのよ?」と聞いてきた。


「うん、エランは協力してくれるかな?」


「そうね、正直に言えば厳しいわね」


 ルシアがそう言うと、カルメアが「そもそも来てくれるのかしら?」と笑う。


 というのも、エランたちが指定した場所が魔の森の中でも比較的浅く、フォレスティアに近い場所なのだ。もちろんルガドルやイスティ、メソルにフィニという非戦闘員がいるので、こちらとしては助かるのだが……。


「エルフの里の場所はわからないけど、ずいぶんと浅い場所なのが気になるね」


 俺がそう呟くと、ルシアは「本当に近すぎよね」と同意して、カルメアは顔をしかめた。


「ラピス、油断しないで」


「えっ?」


「なんか嫌な予感がするわ」


 カルメアはそう言うとルガドルたちを見た。


「ラピスにルシア、ウェインとプルがいるから大丈夫だとは思うけど、いざとなったらラピスたちは彼らを守りながら引いて」


 それを聞いたルシアが「カルメア、あんたがしんがりを務めるつもり?」と聞くとカルメアが「そうよ、私が務めるわ」と答える。


「はぁ?! あんた馬鹿? しんがりは私に決まってるじゃない」


「なぜかしら?」


「しんがりってのは、大将からの信頼が厚い者が務めるって昔から決まっているの。だったらラピスからの信頼が一番厚い私に決まっているじゃない」


 そう言ったルシアが胸を張ると、プルが横から「なんで、そうなるの?」と聞く。


「だって、ラピスはあんたたちじゃなくて私を選んだし、泣きそうなほど困ったときだって私を頼って来たじゃない」


 まあ、確かに見方によってはそうなるね。ルシアというよりエルフを助ける方を選んだわけだけど、俺がウェインやプルではなくルシアの手を取ったことに間違いはない。


 俺がそう思いながらルシアを見ていたら、カルメアが「ダメよ」と言った。


「なんでよ」


「ルシアが聖女だからよ」


「はぁ?!」


 ルシアが目をむくと、エルフを狩る者たちがビクッと驚いた。だけど、カルメアは微笑んだままでルシアを見ていた。


「人を癒すことの出来るルシアの力は特別よ。私みたいに人を傷つけることしか出来ない力とは違うの」


 そこまで言って、俺を見る。


「残念ながら私ではダメなのよ。ルシアがラピスの側にいてあげて」


「なっ、なに言ってんのよ。らっ、ラピスにはティアが居るじゃない」


 ルシアが慌てると、カルメアは「そうね」とうなずく。


「だけど、ティアの魔力量では戦場には立てないでしょ? 戦場でなら私たちはラピスの隣に立てるのよ」


 そう言ったカルメアが「フフッ」と笑ったあとで「本当なら私が立ちたいのだけどね」と小さく呟くので、ルシアは「カルメア?」と聞いた。


「癒しの力を持ったあなたならラピスの背中を守ることが出来る。私も光は無理でもいろんな事が出来る闇が欲しかったわ」


 カルメアがそう言うとルシアが「魔法は神から与えられたギフトよ、きっとカルメアの魔法にも意味があるわ」と答えて、カルメアは「そうね」と微笑んだ。


「私はこの魔法のせいで全てを奪われたけど、この魔法のおかげで今日まで生き残ることが出来た。私の人生にはどんな意味があったのかしらね」


 カルメアがそう言ったので、俺は「まだわかるわけないよ」と言う。


「人生なんて終わるまでわからないだろ?」


「あら、私の人生はもう数日で終わりかもしれないのよ」


「終わらないよ」


 そうだ、まだ終わらせない。


「ウィス様が言ってただろ? 僕たちは初代聖女様に導かれたんだ。だとしたら、きっと今日にも意味があるし、僕がここにいる意味も、みんながここにいる意味も絶対なにかあるはずだよ」


 俺がそう言うとカルメアは驚いて、それから「本当に私たちの小さな勇者様は厄介ね」と言った。


「それにカルメアの姉ちゃんはまだ生きたいように生きてないだろ?」


 俺が聞くとカルメアがうなずく。


「楽しいことも知らないのに、死ぬのはまだ早いよ」


「そうね。出来れば私もラピスの側でラピスみたいに笑っていたいわ」


 それを聞いたルシアが「馬鹿ね」と言って「生き残って笑えば良いのよ」と「ニシシ」と笑う。

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