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メソルとフィニ

 ルサヴェガス家での話し合いのあとで、ウェインとプルはパックスたちと出かけて行ったので、俺はそれを見送ってからメソルの工房に来た。


 入り口でのぞいているとフィニがいつも通りにすぐに気がついて「ラピスさん、いらっしゃい」と笑う。


「こんにちは、フィニ」


「親方ですか?」


「うん、今日はフィニにお願いがあるんだ」


「わっ、私にですか?」


 俺が「うん」とうなずくとフィニは「とりあえず、どうぞ」と言いながら奥に行くので、俺はついて行った。


 奥のメソルの作業場ではメソルが例の武器の調整を行っていた。急に入ってきた俺たちに気がついて作業をしながら「ちょっと、待ってて欲しいっす」と言う。


「うん、作業中にごめんね」


「大丈夫っす。キリのいいところまでやっちゃうっすから」


 そう言ったメソルが作業に戻るとフィニは俺を見てそれからソワソワとした。俺はとりあえずいつもの椅子に腰掛けてメソルを待つ。


「「……」」


 俺たちが話もせずにメソルを待っているとメソルが「どうしたんっすか?」と言いながらテーブルに近付いて「うん?」と首をかしげた。


「ラピスさんはもしかしてフィニに用があるんっすか?」


「うん、鍵を開けて」


「ダメっす」


「えっ?」


「姉さんたちが話したんっすね。だけど、その仕事は受けられないっす」


 決意のこもった目でメソルが俺を見るので、俺は「わかったよ」とうなずく。すると今度はフィニが「えっ?」と驚いた。


「ラピスさんがそんなことを言い出すなんてなにか事情があるのではないのですか?」


「うん、そうだけど、無理強いは出来ないからね」


 俺がうなずくとフィニはメソルを見た。


「親方……」


「フィニ、忘れたんっすか? もう鍵開けはやらない約束っす」


 メソルがそう言うとフィニが「だけど」と食い下がるので、メソルは眉間にシワを寄せた。


「絶対にダメっす」


「うん、もう良いから。フィニ、変なことをお願いしてごめんね」


 俺がそう言うとフィニはまた困った顔をしてメソルを見て、メソルは腕を組んで目を閉じた。


「俺はフィニを弟子にすると決めたときに守ると誓ったっす。だからもう鍵開けだけはやらせられないっす」


「親方?」


 フィニが驚いた顔でメソルを見るとメソルは目を開けて恥ずかしそうに頭をかいた。


「余計なお世話かもしれないっすけど」


 そう言ったメソルがそっぽを向くので俺はついつい「フフッ」と笑ってしまった。


「なんっすか?」


「いや、メソルさんがフィニを好きだったなんて思わなかったから、なんかうれしくて」


「「はぁ?」」


 2人がシンクロするので、俺は「違うの?」と聞いた。メソルは慌てて「違っ」と言ってフィニを見て止まる。


「あぁ、もう」


 メソルはそう言って頭をかくと「そうっすね」と笑った。


「フィニを大事に思っているっす」


「親方?」


 フィニが再び驚くと、メソルは棚まで歩いて行って小箱を持ってきた。それをテーブルに置いて、座っているフィニに対してひざまずく。


「フィニ、ずっと側にいて欲しい」


「えっと、あの……」


 フィニが困ったように小箱とメソルを見た。


「ダメか?」


「いや、ダメではないんですけど……」


 そう言って俺を見るので、俺は再び「フフッ」と笑ってから立ち上がる。


「早く済ませてね」


 俺がそう言って部屋を出ると、弟子たちがみんなこっちを見ていたので、俺は肩をすくめて見せた。


 なにやら呪いの言葉をブツブツと呟いている人もいるけど……。


 うん、あの2人のあいだに割り込むのは無理じゃない? 諦めなよ。


 しばらくして赤い顔をしたフィニが「お待たせしました」と呼びに来て、俺は部屋に戻る。


「ラピスさん、無理っすからね」


「うん、わかったよ。それでさ、ほかに従属の首輪の鍵を開けられるような人って知ってる?」


 俺がそう聞くとメソルは「それは主人の意思に反してってことっすか?」と聞いた。


「うん」


「なんでまたそんな無謀なことを……あの首輪はそれが出来ないように設計されているっすよ」


 メソルが眉間にシワを寄せるとフィニは「ラピスさんの魔法を使えば出来るってことですか?」と聞いてきた。


「うん、やってみないとわからないけど、挑戦するつもり」


「なにを言っているっすか? 失敗したらその人は死ぬことになるっす」


「わかってるよ」


「わかってるって……」


 メソルは目を見開いた。


「なにがあったんすか?」


「いや、それは話せない」


「なんで?」


 メソルが首をかしげる。


「聞いたらメソルさんが迷ってしまうと思うからね」


 俺はニッコリとしてから、もう一度「ほかに誰か知らない?」と聞いた。すると、メソルが俺の胸ぐらをつかむ。フィニが「メソル?」と言うとメソルは一度フィニを見て、それから俺を見た。


「馬鹿にしてんのか?」


「メソルさん?」


「ラピスは俺をなんだと思ってんだ?」


 メソルはギュッと顔をしかめるので、俺は「大事な友達だと思ってるよ」と答える。


「なら……」


「思っているからだよ。メソルとフィニに幸せになって欲しいからやっぱり厄介ごとに巻き込みたくない」


 俺が微笑むとメソルは「なんでだよ……」と言う。


「ラピスはなんでいつもそんな顔してられるんだ……」


「うん?」


「今、ピンチなんだろ?」


「そうだね。だけどさ、ルガドルさんが言ってたよ『慌てているときこそ冷静でいろ』ってね」


「兄さんが敬語をやめたってことはあのことも話したのか?」


「うん?」


「とぼけんな、オストルの話をしたんだろ?」


 俺が「うん」と答えると、メソルは俺の胸ぐらをつかむ手に力をいれた。


「今すぐに話せ、さっさと話せ、良いから話せ」


 俺が「いやぁ」とフィニを見るとフィニは「フフッ」と笑う。


「ラピス、もう話しちゃいなよ。そうなるとメソルは話すまで離してくれないと思うよ」


「なんでそうなるの?」


「ラピスが首輪の話なんかするからよ」


 俺は「うー」と唸ったあとで、メソルとフィニに首輪の話を全てした。


 そして……。


 なんでこうなった?


 俺は全て話し合えると、なぜか泣いているメソルに抱きしめられていた。フィニはなんとも言えない顔をして俺を見て「なんか、ごめんね」と謝る。


「なんで、フィニが謝るの?」


「うん、ちょっと我慢してね。少ししたら落ち着くと思うから」


 俺はそれに「うん」とうなずいて仕方ないので泣いているメソルの背中をなでる。しばらくして落ち着いたメソルが俺から離れるとフィニを見た。


「人助けだから……」


「うん、今回だけだよね。わかってる」


 フィニがそう微笑むとメソルは頭をかいた。


「守るとか言っといて、格好つかないな」


「ううん、そんなことないよ」


 微笑んだフィニは「それこそ、この話を聞いてそれでもメソルに止められてたら幻滅してたと思う」と言うとメソルは「えっ?」と驚いた。


「だけど、惚れ直したよ。やっぱりメソルは最高」


 うん?


「あのさ、また外に出てようか?」


「いや、大丈夫だ」


「そうよ、気を使わないで」


 いやいや、絶対邪魔だったよね?


「それで、その鍵開けはいつやるの?」


「うん、まずはエルフから連絡を待つけど、8日以内にやるつもりだから」


「そう、わかったわ。ちゃんと勘を取り戻しておくから」


 フィニがそう言うので、俺は「お願い」と答えた。

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