ルサヴェガスの騎士②
ティアの口からまた知り合いの名前が出て、俺はゴクリと唾を飲み込んだ。
「エランさんは闇魔法の使い手だったんだね。でもさ、協力してもらおうにも、連絡のしようがないよね?」
俺は一度運ばれているが、帰りは目隠しをしていたし、エルフたちの里が魔の森のどの辺にあるのか? 見当もつかない。
「連絡手段はあるよ」
「あるの?」
俺が聞くとティアはウィスを見た。
「そりゃあ、あるじゃろ? 危険が近づいても警告すらできないでは困るからのぉ」
すると、ウィスの言葉にカルメアは顔をしかめた。
「それって、よその魔の森も一緒なのかしら?」
「そうじゃ」
ウィスが片方の眉を上げる。
「だからいつもこちらが後手にまわっていたのね」
「そう言うことじゃ、それなのにさらってくるお主らも大概じゃがな」
「仕方ないでしょ? こっちだって必死なのよ」
「それはやはり過去のことがあるからか?」
ウィスの言葉に一度驚いたカルメアは「うーん、どうかしらね」と腕を組んでそれから俺を見た。
「そうね、もし生き延びることが出来たならもう復讐はやめるわ。小さな勇者様が望んでないものね」
「そうじゃな。ラピスは望んでおらん。お主をその呪縛から解き放ちたいと願っておる」
「呪縛……」
「そうじゃ。お主を過去へと縛りつけておる物から解き放つ。その証としての首輪から解放はするが、そのあとのことはお主に任せるそうだ」
ウィスが言い終わるとカルメアは「フフッ」と笑う。
「ずいぶんと勝手な勇者様だこと。でももう遅いわ」
カルメアはそう言ってうなずく。
「責任を取ってもらわないとね」
「そうじゃのぅ。首輪から解放されたなら我が家で面倒を見よう、ラピスがな」
「ありがとう、ウィス様」
「なに礼はいらんよ。儂はお主の働きに期待しておるからのぉ」
「あらやだ、ルイラに嫉妬されそうだわ」
カルメアがルイラを見ると、ルイラは頭をかいた。
「私には苦手なことがある。お前にカバーして欲しい」
「それは私にあなたの隣に立って欲しいってこと?」
「あぁ、そうだ」
ルイラが真っ直ぐにカルメアを見るとカルメアは浮かべていた笑いをやめた。
「私は銀狐のカルメアよ」
「あぁ、知っている」
「あなたとあなたの主人を裏切るかもしれないのよ」
その言葉にルイラは「わかってる!」と怒った。
「だけど……」
「同情かしら?」
そう言われたルイラは泣きそうな顔をして「わからない」と答えた。
「まったく、騎士が情に流されてどうするのよ」
カルメアが「はぁ」とため息を吐くとルイラは「すまない」と言った。そして、うなだれたルイラを見て、カルメアは少し笑うと立ち上がった。
ゆっくりとルイラに近づいて、そして「ありがとう」と抱きしめる。
「カルメア?」
「今だけよ、少しだけ……」
ルイラがギュッと抱きしめ返すと、カルメアの肩が揺れていた。
ウィスがコホンと咳払いすると年配の騎士が入ってきて俺に頭を下げてルイラたちに部屋の隅に行くように促してからウィスの後ろに立った。
うん?
「市場のおじちゃん?」
俺が首をかしげるとウィスが「ガハハ」と笑う。
「やっと気付きおったか、ラピス」
「えっと? なに?」
「お前が気付かんから、ギニアスはずっと市場からお主を見張っておったのじゃぞ」
「いや、街道で一度しか会ってないし、いきなりティアと2人きりにされてそれどころじゃなかったし、格好も違うんだから普通わからないでしょ?」
俺が首をかしげると「親方様の悪ふざけだから気にしなくて良い」とギニアスは言った。
「だが、キテオには謝ってやってくれ、私が不在で全ての仕事をしてくれていたからな」
「えっと、なんで?」
「私が冒険者ギルドのマスターだからだよ」
「えっ?」
俺がウィスを見るとウィスは頭をかいた。
「うちは騎士が足りなくてな。引退してギルドマスターをしているギニアスに手伝ってもらっておる」
「あのさ」
「なんじゃ?」
「人手が足りないのに、悪ふざけはするの?」
ウィスは「なっ、なにを言っておる?!」と大袈裟に驚いてからコホンと咳払いした。
「お主の人柄を知ることこそが、我が家の最優先事項じゃった。だから、ギニアスの仕事は必要な仕事じゃったのじゃ」
俺が「そう」とうなずくと、ウィスは「なんじゃ、その薄いリアクションは?」と言う。
「わかったよ、それでエルフに連絡を入れてくれる?」
「あぁ、こちらからお願いしよう。全員の首輪を外すのか?」
「そうだね。とりあえず全員の首輪を外す」
「約30人かぁ、それで全てうちに迎えるつもりなのか? 魔力の強い者たちは騎士に、他は兵士というところじゃろうな」
「いや、ルサヴェガス家の騎士にするのは、カルメアの姉ちゃんとあと2人。あとのメンバーはエルフを狩る者たちを続けてもらう」
「「はぁ?!」」
みんなが驚いた。
「エルフを狩る者たちを続けるって、どういうことじゃ?」
「うん、ドグスって男の人にリーダーをやってもらって、表向きは続けてもらう。そこにウェインとプルも派遣されると思うから、ルシアに邪魔している振りをしてもらいながら各地の魔の森の魔物を間引いてもらおうかと」
「つまりあれか? エルフを狩る者たちを偽装して各地の安全を確保するってことか?」
「うん、バレるまでね」
俺はうなずいて「バレたら速やかに撤退してもらってルサヴェガスで働いてもらおうよ」と笑った。
「首輪は外してあるから、逃げる事は出来るってことか?」
「うん、最悪はウェインとプルが協力できない状況になっても、こっちにはルシアがいるんだし逃げてくることは大丈夫でしょ?」
俺が首をかしげるとウィスは「なるほどのぅ」と言ったが、ウェインが「なに言ってんだ?」と言った。




