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勇者

「ティアはラピスが聖典にも書かれている地母神が招いたと言われている勇者だと言いたいのよ」


 ルシアがそう言うとティアが「そうよ」とウェインを見たままで一度うなずく。


「勇者の名前はエータ。トリアス様も知っているでしょ? 彼は鉄を操る力で銃と呼ばれる武器を生み出して何万という魔物の群れを退けたと言われているわ」


「あぁ、大勇者エータの冒険なら母様に読んでもらったことがある」


 ウェインはうなずくと「銃……」と呟きながら、俺を見た。


「しかし、エータは過去の人だろ? ラピスはエータではない」


 ティアは「そうね」とうなずいて「だけど、きっと生まれ変わりよ」と続けた。


 いやいや、俺はそんな大層な者ではないと思うよ。


「生まれ変わり? 馬鹿な」


 ウェインがそういうと、ルシアは「馬鹿とも言い切れないわね」とうなずく。


「はあ? 本気で言っているのか?」


「言っているわよ。知らないでしょうけど、聖典にはね、ナンバーリングされていない1巻があるの」


 ルシアはそう言ってウェインに「あんたは聖典が33巻だと思っているわよね?」と聞いた。


「あぁ、そうだ」


「そうよね。一般的には聖典は現在33巻で1018章と言われている。だけどね、本当はナンバーリングされていない1巻があるから章は全部で1050章あるのよ」


 ルシアが胸を張ると、ウェインが「はぁ?!」と眉間にシワを寄せた。


「なにを言っている。聖典には過去が書き記されているし、33巻の1018章には昨年のことが書かれているのだぞ」


「そうね、だけど、聖典のナンバーリングされていないその1巻には未来のことが書かれているのよ」


 ルシアがそう言うとウェインは「未来だと……」と目を見開いた。


「書いたのは、先読みの魔法を持っていたとされる初代の聖女様か?」


「そうよ」


 ルシアはうなずいて、俺を見た。


「それにはね『魔の力が強まって再び大地に魔物が溢れしとき、地母神の子が現れて鉄を操りし力にて万の魔物の群れを討ち滅ぼすであろう』という記実があるわ」


「それでは、まるで……」


「そうね、初代様は勇者エータと同じような力を持った者がが再びこの世界に現れると予言しているわ」


「なるほどな、その予言の年が2年半後、俺たちがラインに配属される年ってことか?」


「そういうことよ」


 ルシアがうなずくとカメリアが「ラピスは勇者なのね」と笑う。


「だけど、それはどこまで信憑性があるんだ?」


「それはわからないわ。初代様の予言は言葉が抽象的な上に、見えていたのは起こる未来の1つらしいから……」


「あのな、それじゃあ。当てずっぽうじゃないか」


 ウェインはそう笑ったが、まったくだ、それならなんとでも予言できるだろうな。


「だけどね、私が今ここにいるのも予言に従ったからなのよ」


「えっ?」


「今までも予言に従って各地の魔の森に行って、そこでカルメアたちの邪魔をして来たから、予言は当てずっぽうではないと思うわ」


 ルシアがそこまで言って頬をかいた。


「初代様がどんな思惑で私にエルフを狩る者を追うように予言を残されたのかはわからないけどね。なにせ『撃退はしても殺生はするな』と読み取れるような予言だったから」


 カルメアが「そうだったのね」と言うとウィスが「なるほどのぅ」とうなずく。


「今日皆がここで集まるように初代様が導いたのかもしれんな」


 ウィスが俺を見る。


「すべてはラピスに出会わせるためじゃ」


 みんながそれにうなずいて俺を見るので、俺は「ちょっと待ってよ」と止める。


「あのさ、僕はそんな大層な者じゃないよ」


「なにを言っておる? オークの群れは誰が倒したのじゃ?」


「それは……みんなで倒した」


 俺がそう答えるとウェインが「あのな」と笑う。


「あんなデタラメな魔法を使ってクレーターを作ったのは誰だ?」


「そうだよ、メソルさんに頼んで『銃』みたいな武器を作らせたのは誰?」


「何もないところに鉄の壁を築いていたらしいわね」


「言っておくけど、たぶん私はラピスがいなかったら助けに入ってなかったかもしれないわよ」


「「ルシア?!」」


 みんながルシアを見るとルシアは「仕方ないじゃない。エルフを狩る者たちが動かなかったから迷ったんだもん」と小さくなった。


 おいおい。


「やっぱりラピスは勇者なのよ」


 ティアがそう言って俺の腕に抱きつき直して「むふぅ」と笑うとみんなが苦笑いを浮かべた。


「まあ、僕は勇者じゃないと思うけど、これまで通り出来ることは精一杯するよ」


 俺がそう言うとみんなは「それでいいんじゃない」と笑った。


 そうだよね。俺は俺の出来ることをするだけだし、楽しく生きるためにはもっともっと強くならなきゃならない。


 その前に、っと。


「それでウィス様、話はだいぶ逸れていたんだけど、闇魔法の使い手に心当たりない?」


「闇魔法、それは首輪を外すために必要なんじゃな」


「うん」


「ふむ、思い当たる者はいるにはいるが貴族だからのぉ、首輪の主の意思に反して首輪を外す手助けをしてもらうのは無理じゃろうな」


「やっぱりそうだよね。あと8日で闇魔法の使い手を見つけないと……」


 俺がうつむくと、ティアが「いるじゃない」と言った。


「うん?」


「ラピスは魔の森であったんでしょ?」


「エルフたちの中にいるってこと?」


 俺が聞くとティアは「そうよ」と笑う。


「ラピスはエレナ様に助けてもらったんでしょ?」


「えっ?」


 俺が驚いてティアを見るとティアは舌を出した。


「だって、この間『その子はかわいいの?』って聞いたらラピスは『かわいい』って答えたじゃない。魔の森のエルフたちの中で私たちと同じ歳ぐらいの見た目なのはエレナ様ぐらいよ」


「そうだったのか」


 俺がそう言うとティアは「それでね」と続ける。


「エレナ様の側近であるエランさんは闇魔法の使い手だよ」

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