プルとウェイン②
「というか、ドグスは捕まえたし、カルメアはラピス側になったんだろ? だったらもう俺たちとラピスが敵対する意味ないだろ?」
「えっと……」
俺が言い淀むとウェインは「まだなにあるのか?」と聞いたので、俺は「うん」とうなずく。
「おい!」
「だって、みんなの首から首輪を外すつもりだから」
「それは、勝手にってことか?」
俺が「うん」とうなずくとウェインが「マジかよ」と言って、プルが「外せるの?」と続く。
「闇魔法の使い手がいればね」
「そっか。でもそんなことしたらイルゲミニス家が黙ってないんじゃないの?」
「それは大丈夫だって、ウィス様が」
「そうなんだ」
プルがうなずくとウェインが「バレないようにやるってことか?」と聞いたので、俺は「まあ、そうなるね」とうなずく。
「あちらも冒険者を従属の首輪で縛って働かせていた負い目があるからとやかく言っては来ないだろうって話だけど、出来ることならなるべくならバレないようにこっそりとやりたい」
俺はそこまで言うと「手始めに」と言ってから地面に転がるドグスを見た。するとドグスは俺を見て「やめろ」と言った。
「なにをやめるの?」
「俺はなにも知らないし、絶対にしゃべったりしない」
「うん?」
俺がニヤリと笑うとドグスが「ヒィ」と悲鳴をあげる。
「ドグスさんは、なにをそんなに怖がっているの?」
「頼む、ラピス、お願いだ。なんでもする、本当だ、絶対に服従する。そうだ、契約魔法で契約しても良い」
「本当になんでもしてくれるの?」
俺が聞くと地面に転がったままのドグスが「あぁ、本当だ。俺が馬鹿だった」とうなずく。
「うーん、どうしよう」
俺が腕を組むとプルが「ラピスはなにしてるの?」と聞いて来た。
「うん、ドグスさんに仲間になってもらおうかと」
「「えっ?!」」
みんなが驚くとパックスが「なに言ってんだ!」と怒る。
「こいつはカルメアさんを裏切ったんだぞ」
「そうだけどさ、カルメアの姉ちゃんは裏切りもある程度は覚悟してたみたいだし、それにここでの話を全部聞かれているからドグスさんは殺すか、仲間にするしかないんだよ」
まあ、本当はここでの話をしゃべらないって契約魔法で契約するやり方もあるけど、ドグスに協力して欲しいから言わない方が良いね。
すると『殺す』という言葉に反応したドグスが「頼む、パックス、もう裏切らないし、必ず役に立つ。本当だ。ちょっと魔がさしただけなんだ」と泣き始めた。
うん、なんか、申し訳なくなって来たね。
「たぶんだけど、ドグスさんはカルメアの姉ちゃんが好きだったけどあんまりにも相手にされないし、ウェインとプルというカルメアの姉ちゃんに対抗できる2人が来たことで、ここしかないと思ったんだと思うよ」
「そうなんだ。お前たちだって俺がいくら頑張っても相手にされなかったことは知っているだろ? それなのにカルメアのやつ、ラピスとはデートしやがって、くそっ」
すると『デート』という単語に反応したプルが「デートってなに?」と俺を見た。
「うん? ちょっとランチをしただけだよ」
俺がそう答えて、プルが「ランチ?」「2人で?」「なんで?」と詰め寄ってくるのに全てうなずく。
「だから、なんで?」
「いや、カルメアの姉ちゃんがなぜエルフを狩るのか聞きたかったんだ。だって、そんなに悪い人ではないだろ?」
プルが「そうね」とうなずくとウェインが「あとにしろ、プル」と言って、それから俺を見た。
「殺すのはダメだ」
「わかっているよ、だから契約魔法でもう裏切らないと契約してもらって仲間になってもらう。カルメアの姉ちゃんたちが今回の件を訴え出なければ、ドグスさんも罪には問われないだろ?」
「そうか、わかった」
ウェインがうなずくとパックスが「しかしなぁ」と渋るので、マヤが「良いじゃない」と笑った。
「カルメアさんは、ラピスに助けられて無事なんでしょ? だったら良いんじゃない」
「無事じゃねぇだろ? 俺だってお前だって、他の奴らがイルゲミニス家に嘘を言いに行けば、終わりだ」
パックスがそう言って首にはめられた首輪を触るので、俺は「大丈夫でしょ?」とドグスを見た。
「まだ近くにいるんじゃない?」
「へっ?」
「ドグスさんは1人で残るタイプじゃないでしょ?」
俺がそう聞くとドグスは「魔の森を抜けた先、隣のテュザァーン辺境伯領の領都で待っててもらっている」と小さくうなずいて、パックスは「マジか」としゃがみこんだ。
まあ、覚悟していただろうから、そうなるのも仕方ないね。
するとそれを見たドグスが「すまない」と言った。
「先に斥候が報告に行ってるから、カルメアは救えない」
「そう、その斥候はイルゲミニス辺境伯の屋敷までどれぐらいで着くと思う」
「普通は2週間はかかるが、あいつなら10日もあれば着く」
「となると、僕はあと9日で闇魔法を持っている人を探さないといけないね。だから、ウェインとプルとパックスさんたちにはエルフを狩る者たちの処理をお願いして良い?」
「あぁ、拘束した上でドグスと同じ処置で良いのか?」
「うん、そうだね。契約魔法でもう裏切らないと契約してもらってから仲間になってもらえば良いんじゃない? ちょっと強引だけど、犯罪奴隷になるよりはマシでしょ?」
「そうだな。まあカルメアを裏切って街中で危害を加えた犯罪者なのだから、そこは気にしなくても良いだろ」
「あとはパックスさんたちだね」
俺が2人に話を振るとパックスもマヤも「なにを今さら」と言った。
「俺はカルメアさんについて行く」
「私も」
「そっか、わかった。それで、ウェインとプルは闇魔法を持っている人を知ってる?」
俺が聞くとウェインが「あぁ」とうなずいた。
「知っているが、ここまで来てもらうのは無理だぞ」
「そうね。それに騎士団の人だから従属の首輪を勝手に外す手伝いも頼めないと思う」
「そっか。でもさ、従属の首輪を使って無理矢理従わせるのも犯罪だと思うんだけどね」
「そうなのだが、王国法にそのような記述はない」
「いや、そこは書いておこうよ」
「しかし、犯罪奴隷や奴隷には普通につける物だからな」
なるほどね。そもそも冒険者たちには逆らうことが出来ないし、イルゲミニス家に『奴隷だ』と言い張られてしまえば、それ以上の追求は難しいのだろう。なにせ、バックには侯爵夫人もいる。
でもさ、なんで侯爵夫人がこんなことに首を突っ込んでいるのかな。




