冒険者ギルド
冒険者ギルドに来ると、やはりその場にいた冒険者たちがみんな俺を見た。そして、ひそひそとなにか話している。
まあ、そうなるよね。
なので気にせずにカウンターまで来た。夕方の冒険者ギルドのカウンターなんだから、そりゃあ混んでいる。長い列が出来ているので、俺も列の後ろに並んだ。
だけど列の進みは意外と速い。
あっという間に俺の番になると、カウンターの女の子が「いらっしゃい」と笑った。
「ぼくぅ、今日はどうしたのかなぁ?」
「あの、冒険者登録と、魔石と錆びた武器の買い取り、それから討伐の褒賞金を受け取りたいんだけど」
「あら? ずいぶんと詳しいのね。それにゴブリンを倒すなんてすごいわ」
女の子が笑うととなりのカウンターで買取を受けていた冒険者が笑う。
「そのガキには気をつけた方がいいぜ。その歳でオークも倒してやがる」
「えっ? 嘘……」
女の子が目を見開くので、俺がその冒険者を見るとダゴルだった。ダゴルはニヤリと笑う。
「魔法が得意なのか?」
「うん、少しだけ」
ダゴルは「そうか」とうなずいて、自分の買い取りを終えると去って行った。
「えっと、名前はなんと言うのですか?」
「ラピス、登録料は銅貨3枚だよね?」
俺がカウンターに銅貨3枚を置くと、女の子はそれを受け取って、板にラピスと記した。
「それでは魔力を登録しますので、こちらの板に手を置いてください」
「うん」
俺がその板に手を置くと板が発光した。
「はい、結構です。では、少々お待ち下さい」
女の子が板を持っていき、しばらくするとカードを持ってきた。
「では、こちらがギルドカードです。初めはFランクからですが、ギルドへの貢献度でランクが上がり、受けられる仕事の幅が広がったり、特権が受けられたりしますので、是非頑張って冒険者ギルドに貢献して下さい」
「わかったよ。ありがとう、お姉ちゃん」
俺は満面の笑みでカードを受け取ったけど、女の子は少し笑顔が引きつっている。
わかるよ、自分でやってて気持ち悪いから……。
カードには冒険者ギルドのマークとラピスの名前、それから、大きくFの字が描かれていた。
確かランクが上がると指名依頼とか出来る様になるらしいけど、俺は別にそんなクエスト受けるつもりはない。
ぷっちゃけ買い取りと討伐の褒賞金がもらえて、街に入るときに門での通行料が免除されるだけで充分だ。
うん、無茶な指名依頼なんてごめんだよね?
という事で、さっそく魔石と錆びた武器の買い取りをお願いするためにカウンターに魔石の入った布袋と、背負っていた武器の入った布袋を置く。
「えっと、こんなにですか?」
「うん」
俺がうなずくとなぜか女の子が後ろを振り返る、するとすぐに男の人が歩いて来た。
「どうした?」
「この子、今日ギルド登録なんですけど、買い取りがこんなに……」
男の人は「なるほどな」とうなずいた。
「これはどうした?」
「えっと、どうしたとは?」
「こんな量をどうやって手に入れたのかと聞いている」
「普通に魔物を倒してだけど、ほかに手に入れる方法があるの?」
俺が首をかしげると、男の人は「フン」と鼻を鳴らした。
「お前のような小僧にこんなにたくさんの魔物を倒せるわけないだろ?」
「なんで?」
俺はうんざりという顔をしてみせた。
正直、めんどくさい。
だって、王国騎士団だって8歳の天才魔術師や、10歳の天才騎士だっている。この世界では魔法に少し恵まれていれば、子供でもゴブリンやオークを倒すやつはざらにいるのだ。
だからいちいち絡まれるのは面倒だよね?
「他の人たちも待っているし、さっさと買い取ってもらえる? 証拠ならここにあるから」
俺はそう言って、ゴブリンの耳と、オークの鼻が入った布袋を置いた。
その中身を見て男の人は「これは」と驚いた。
「わかった」
男の人はうなずいて、女の人に指示を出した。2人で手分けして、魔石と錆びた武器の確認を行い、買い取りはゴブリンの魔石は1つ銅貨7枚、オークの魔石は1つ金貨2枚、錆びた武器が1つ鉄貨5枚。
それから討伐報酬がゴブリン1匹が銅貨3枚、オークが金貨1枚だった。
ゴブリンが40匹分以上、オークが6匹分だから……うーん、一気にお金持ちになったね。
上級兵の日給が1日銀貨1枚と銅貨1枚、週1回休んで月に25日働いたとしても金貨2枚と銀貨7枚と銅貨5枚だから、数日で上級兵の1ヶ月分の給料の何十倍も稼いだことになる。
おいおい、マジかよ。
これは女の子がひいて、男の人にからまれるのも当然かもしれないね。
なんか、ごめん。
「全部貯金でよろしいですか?」
「そうだね。金貨3枚だけ手渡しでもらえる?」
「はい、わかりました」
女の子が俺の前に置いた書類にラピスとサインして、金貨3枚とギルドカードと空になった布袋を受け取る。すると、男の人がコホンと咳払いした。
「ラピスはしばらくフォレスティアに滞在するのか?」
「うーん、わかんない」
「そうか、もし滞在するならクエストもいくつかこなしてくれると助かる」
男の人が壁際の掲示板を示すので、俺は首をかしげた。
「僕はFランクだから受けられるクエストなんてたかが知れているんじゃないの?」
「そうなのだが、そこは俺がなんとかしよう」
「そんなこと、出来るの?」
「あぁ、俺はギルドマスターの補佐をしているからな。キテオだ、よろしくな」
俺は「わかったよ。キテオさん」といってキテオが差し出して来た手を握る。
クエストを受けるのは面倒だけど、腕を見込んでくれたのなら出来るだけ期待には応えたいよね?
ということで買い取りを終えた俺はギルドを出た。