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パックスとマヤ

 ルガドル商会を出たあとで俺は冒険者ギルドに来た。ギルドカウンター側の魔法道具の灯りは消されていたけど、酒場でぼおっと灯った魔法道具の下、キテオが1人で飲んでいた。


「キテオさん」


「うん? ラピス、こんな遅くにどうした?」


「うん、冒険者で闇魔法が使える人っている?」


 キテオは「闇魔法かぁ」と少し考えて「フォレスティアの冒険者にはいないな」と答えた。


「そもそも珍しい魔法を使える者は少ないし、ほとんどが四属性でしかもオーソドックスな物なんだ」


 キテオはそう言って、それから「だから王国内の冒険者にはいないだろうな。珍しい魔法を持つ奴や強い奴らはみんな貴族にとられちまう」と苦笑いを浮かべた。


 キテオが手に持ったグラスをかたむけたので、中の氷がグラスに当たってカランと音を立てた。


「昔、うちのギルドにもな、将来はギルドを代表する冒険者になってくれると期待していた少女がいたんだがその子も貴族に取られちまった」


 そう言って苦笑いを浮かべて俺を見た。


「お前もだろ? ラピス」


 俺は「そうだね」と首肯する。


「でもさ、その少女は立派な騎士になってフォレスティアを守っているじゃないか、きっとキテオさんが面倒を見ていた頃の少女と、なにも変わってないと思うよ」


 俺がそう言うとキテオは目を見開いてから微笑む。


「馬鹿みたいに真っ直ぐで、思っていることが顔に出て……」


「すぐに人に感情移入しちゃうから危なっかしいけどね」


「そうだな、他人のことで泣きやがるしな」


 キテオはそう言ってクシャと顔を歪めた。そして、カリカリと頭をかく。


「ラピス、珍しい魔法を持った人物を当たるならちょうどいるじゃねぇか、王国騎士様が」


 俺が「そうだね」とうなずくと、キテオが「はぁ」とため息を吐いた。


「聞きづらいのか?」


「うん」


 俺がそう言うとキテオは「大事なら頭を下げろ」と言って入り口の方を見た。


「こんな時間に訪ねて来るぐらいだから、あいつらに関わり合いがあることなんだろ?」


 キテオがそう言うので、俺が振り返るとその2人は立っていた。


 1人はガタイが良い男の人、もう1人は華奢な女の人だった。服も防具もなかなかの物を身につけているが必死で戦って来たのだろう、ボロボロだ。


「あの2人はうちの酒場に顔を出したことはないがエルフを狩る者たちだ。なぜかは知らないが、他の者たちは今朝早くに街を出て行ったらしい」


「そう」


 やっぱり他のやつらはイルゲミニス家に知らせに行ったんだね。


 俺が2人に近づくと女の人が「ラピス……」と言った。


「2人はカルメアの姉ちゃんの仲間なの?」


「はい、私はマヤ、彼はパックス。他の仲間は……その……」


「他の奴らはカルメアさんを裏切った」


「止めたのですがイルゲミニス辺境伯に報告に行きました」


 マヤがそう言うとパックスが「報告じゃない、嘘を言いに行った」と眉間にシワを寄せる。


「そっか、2人はなぜ残ったの?」


 俺は首をかしげた。


 だって残れば2人も死ぬことになるんだからね。


「2人の首にもつけられているんでしょ?」


 俺がそう聞くとマヤはクシュと顔を歪めて「はい」と答える。


「カルメアの姉ちゃんについたら2人の命も危ないんじゃないの?」


 パックスがゆっくりうなずく。


「俺とマヤはカルメアさんに命を救われてエルフを狩る者になった。元々、金が目的でも、辺境伯に恩義があるわけでもない」


「カルメアさんと運命を共にする覚悟です」


「だけどさ、カルメアの姉ちゃんはエルフを狩る者たちのメンバーとはお金だけの関係だって言ってたよ」


 俺が聞くとパックスは「ハハッ」と笑って首を横に振った。


「カルメアさんはそう自分に言い聞かせているだけだ」


「普段は悪女みたいな演技をしているけど、本当は情にあつい人よ」


 そんな2人の言葉に俺は思わず「フフッ」と笑ってしまった。


「僕もそう思うよ」


 するとパックスがニヤニヤと笑ってマヤを見た。


「俺が言った通りだろ?」


 驚いた顔をしたマヤは「そうね」とうなずく。


「ラピス、あなた本当に子供なの?」


 えっ?


 俺は顔に出さないように「うん、そうだよ」と答える。


「マヤ姉ちゃんには僕が大人に見えるの?」


「いや、そうじゃないけど、いろいろ信じられなくて……」


 うん、わかるよ。というよりマヤの勘が正しい。俺の中身は大人だからね。


 なので、俺は「あはは」と笑っておく。


「それで、ラピスは何をしていたんだ?」


「うん、闇魔法の使い手を探していたんだ」


「なんのために?」


「カルメアのお姉ちゃんと、それからカルメアの姉ちゃんについて来てしまった人、つまり2人だね。みんなの首輪を外すためだよ」


 2人は俺の言葉に「はぁ?!」と言った後で顔を見合わせて、それから2人して俺を見た。


「外せるのか?」


「やってみないとわからないし、闇魔法の使い手がいないと無理だよ」


「闇魔法かぁ、イルゲミニス家の出入り商人である奴隷商人が闇魔法の使い手だ」


「なるほどね。だけど、その人に頼むわけにはいかないでしょ?」


 パックスが「そうだな」と答えるので、俺が「最終手段はその人を脅すしかないね」と笑うとマヤが「嘘でしょ?」と聞く。


「うん、嘘だよ。そんなことをしようとしたら、逆にカルメア姉ちゃんたちを人質にこちらが脅されるだろうね」


 俺がニッコリと笑うとマヤは苦笑いを浮かべるので、パックスが「かわいい見た目と中身が違うってカルメアさんが言ってた通りだな」と言った。


「カルメアの姉ちゃん、そんなひどいこと言ってたの?」


「あぁ、だが本当のことだからひどいことにはならないだろ?」


「そう?」


「そうだ」


「じゃあ、仕方ないか」


 俺がうなずいて見せると、マヤが苦笑いを浮かべる。


「それで、次はどうするの?」


「うーん、冒険者ギルドは空振りだったからウェインとプルに聞こうかと思うけど……」


「それは無理だな」


「そうね、それは無理よ」


 うん?


「なんで?」


「ウェインもプルも奴らに騙されている。ドグスの野郎がカルメアさんが裏切って仲間が手を切り落とされたと報告したからな」


「ドグス?」


「あぁ、いつも腰巾着のようにカルメアさんに付きまとって、カルメアさんの彼氏でもないのに彼氏みたいな振る舞いをしていた男だ」


 あぁ、と思い出した。俺が初めてここでカルメアと話をしたときに『カルメア、なに遊んでやがる』と怒っていたやつだな。


 おいおい、あいつ、彼氏じゃなかったのか? 


「そいつが裏切ったってこと? でもさ、カルメアの姉ちゃんに執着していたように見えたけど?」


「そうだな。あんまりにも相手にされないのでやけになったのか? それとも……」


「初めからカルメアの姉ちゃんの席を狙っていたのか?」


「そうなるな」


 パックスがうなずくので、俺は「どちらにしても」と言った。


「ウェインとプルを頼れないなら、やっぱりルサヴェガス家に聞くしかないね。帰りに門番さんに言伝をお願いして、明日の朝に伺うしかないだろうね」


 ということで俺はギルドの酒場でまだ飲んでいたキテオに「ありがとう、また来るね」と言って、3人で冒険者ギルドを出た。

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