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従属の首輪②

 カルメアのことはルシアに任せて、俺はルガドル商会に来た。入り口で店を閉めていた女の子が俺を見て目を見開く。


「ラピスさん? 大丈夫ですか?」


「うん? あぁ、これは僕の血じゃないから大丈夫だよ」


 俺はそう笑った。


 だけどさ、大丈夫じゃないね。これ?


 全身カルメアの血と土や埃でドロドロだ。


 俺がそれに苦笑いをしていると店からルガドルが出てきた。


「ラピス君?」


 首をかしげてから「中にどうぞ」と手招きする。


「だけど、汚れちゃうよ?」


「そんなの掃除すれば済みますから、入ってください」


 ルガドルはそう言ったが俺が戸惑っているとルガドルは「じゃあ、中庭にまわりなさい」と言ったので、俺はそれに従って中庭にまわる。


 中庭で待っていると、タライと魔法道具を持ったルガドルが来て「さっさと服を脱いで」と言うので、俺はそれに従って服を脱ぐ。そして、そのあいだにルガドルがタライに張ってくれたお湯に浸かった。


 温まるね。


「少しは緊張がとけたみたいだな。まったく」


 ルガドルはそう言うとタオルとそれから服を用意してくれた。


「ありがとう、ルガドルさん」


「気にしなくて良い。だが、焦っているときほど冷静でいなさい。さっきの格好で歩き回るのは良くない。わかるね」


 そう言ったルガドルが微笑んだので、俺は「うん」と返事をしてから体を拭いてその子供服を着た。


 サイズはちょうど良い。それにオーソドックスな白いシャツとカーキのズボンだけど仕立ても良い。サスペンダーでズボンを吊り、靴も履くとちょうど中庭に入ってきたイスティが「オストル?!」と言って走って来た。


 えっ?


 イスティが俺をギュッと抱きしめた。


 そして、肩を震わせる。


「イスティ、悪いな。ラピス君があまりにもドロドロだったからこれを使ってもらった……」


 ルガドルが頭をかくと、しばらくの沈黙のあとで、イスティは「うん」とうなずく。そして、俺を解放すると「今日はどうしたの?」と聞いた。


「うん、イスティさんに聞きたいことがあって」


「なに?」


「従属の首輪を外す方法ってある?」


 俺がそう言うとイスティは驚いた顔をして、ルガドルが「それは」と聞く。


「首輪の主人の意思に反してということか?」


「うん」


 俺がうなずくとルガドルは眉間にシワを寄せた。


「それは難しいだろうな、そもそも主人の意思に反して外すことは出来ないように設計されているんだ」


 ルガドルがそう言うとイスティも「そうね」と呟いた。


「外すことが出来たという話は聞いたことがないわ」


 そう言ったイスティが腕を組んで、それからいつものようにブツブツと言い始めたので、ルガドルが「誰の首輪を外したいんだ?」と言った。


「うん、カメリアの姉ちゃんなんだけどね」


 俺がそう答えると「銀狐のカメリアか」と呟いて、ルガドルも腕を組む。


「なるほどな、あの子は首輪で操られていたのか……だから聞いていたうわさと行動がチグハグだったんだな」


 ルガドルがギュッと再び眉を寄せた。


「イルゲミニス家は首輪で縛った冒険者を使ってエルフたちを奴隷にしていたというわけか……」


 そう言うので、俺は「たぶん」とうなずく。すると、イスティが「出来ないこともないと思う」と呟く。


「「えっ?!」」


 俺とルガドルがイスティを見るとイスティは「あのね」と俺を見た。


「ラピスの魔法で首輪に組み込まれている刃が動かないように固定して、そのあいだに魔石を取り替えて闇魔法で主従契約の上書きをしてから外せば出来ると思うわ」


「だが、鍵も複雑で首輪自体も簡単には外せないだろ?」


「それは大丈夫よ、フィニがいるもの」


 イスティがそう言うとルガドルは「そうだったな」と頭をかいた。


「それよりも闇魔法が使える人を探さないといけないわね」


「あてはあるのか?」


「ごめん、ない……」


 イスティが言うと「そうだよな」とうなずいたルガドルが俺を見る。


「闇魔法もかなりレアだから、見つけるのは至難の技かもしれないぞ、ラピス」


「うん。でも光が見えたよ、ありがとう。とりあえず冒険者ギルドで聞いてみる」


 俺がうなずくとルガドルは「わかった」と言ったあとで「わかりました」と言い直した。


「その格好だから、ついつい敬語を忘れてしまいました」


 ルガドルは笑ったが、俺が「敬語なんていらないよ」と言うと「そういうわけにも」と頭をかいた。


「そっか、そうだよね」


 俺が微笑むと、イスティがギュッと顔をしかめる。


「ラピスがそう言っているんだから、良いんじゃない?」


「だがな……」


 ルガドルは「あぁ」と言ってガシガシと頭をかくと、俺をまっすぐに見た。


「ラピス、簡単に死なないって誓ってくれるか?」


「うん?」


 俺が首を傾げるとイスティが「それを着ていたのわね」と言った。


「オストルって冒険者だったの、将来を有望視されていた人懐っこい子でね。子供の出来ない私たちは子供のように可愛がっていたの……」


「だけど、あるときオストルは依頼に出たままで帰って来なかった」


 ルガドルがそういうと「イスティに武器を作らせたくなかったほんとの理由は、イスティがオストルを思い出してしまうからなんだ」と言った。


「弓が一つ目って説明したけどな、本当はオストルにも作ってやってたんだ」


「私がもっと強い武器を作っていたら……」


 イスティがそう言ったので、俺は「それは違うよ」と言う。


「イスティのせいじゃない。冒険者はそもそもそういう稼業なんだ」


「わかってるわ」


「わかってないだろ?」


「ラピス……」


 俺はニッと笑って見せた。


「だけど、僕は簡単に死んだりしないよ。最近は勝手に死んだら怒る人が増えたんだ」


 俺が肩をすくめて「2人もだろ」と言うとルガドルが目を見開いて、イスティは泣いていた。なので、今度は俺がイスティをギュッとする。


「オストルの代わりにはなれないだろうけどね」


「わかってるわ」


「本当に?」


 俺がそう聞くとイスティは「ルガ、ラピスが意地悪するわ」ともう一度、泣いた。

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