お茶会①
ひとしきり笑い終えたウィスが「他にはあるのか?」と聞いたので、俺は「とりあえずは以上だよ」とうなずく。
するとウィスがルイラに目配せをした。
うん?
目配せを受けたルイラは俺の後ろにまわり込むと自然な流れでさも当たり前のように俺の後ろ襟をつかんだ。
「なにこれ?」
「あぁ、あんまりにもお前が遊びに来ないからティアがお冠じゃ。とりあえずティアのところにも寄って行け」
「あのさ、別にこんなことしなくても口で言われれば寄っていくし、僕は逃げたりしないよ?」
俺がそう言ったが、ウィスは「諦めるのじゃ」と首を横に振った。するとルイラがグィッと俺を立ち上がらせる。
「ルイラ姉ちゃん?」
「ラピス、お前には前科があるからな」
「いやいや、あのときとは状況が違うよね?」
俺がそう聞いたけど、ルイラは鼻で「ふん」と答えた。
「自分の胸に聞いてみろ、お前はあれから一度でもティア様に会いに来たのか?」
「あのさ、僕だっていろいろ忙しかったんだよ」
「イーナ様とは食事出来るのにか?」
俺が「あっ」と声をもらすとルイラが「お前なぁ」と続ける。
「私はティア様に毎日、毎日、ラピスはいつ来てくれるのかなぁって上目遣いで聞かれているんだぞ」
ルイラはそう言ったあとで「はぁ」とため息を吐いた。
「だいたいな、我らはラピスがイーナ様やルシア様と楽しげにされている事がティア様の耳に入るのではないかとヒヤヒヤしているのだぞ」
「いや、あれは冒険者同士として……」
そこまで俺が言って、俺とルイラは「あっ」とシンクロした。なぜなら入り口でティアがうつむきながらプルプルしているからだ。
まずいよ、これは……。
「ルイラ姉ちゃんが悪いんだからなんとかして」
「はぁ、私ではないだろ? お前がフラフラとしているからだ」
すると「2人ともうるさい!」とティアが怒ったので、俺とルイラは「はい」と答える。
「ルイラ、とりあえずラピスを連れてきて」
「はい、ティア様」
ルイラがそう答えて俺を引っ張るので、俺はウィスを見たが、ウィスはゆっくりと首を横に振った。
そうだよね……。
そして、俺はティアとお茶会をする小さい方の応接間に連行された。
もちろん俺は床に座る。太古の昔からの謝罪スタイルである土下座の前段階である正座だ。そして、ティアは俺を見下ろして首をかしげた。
「ラピスはなんで会いに来ってくれなかったの?」
「えっと、このところ忙しかったからね」
「でもイーナ様とは食事に行っているんでしょ?」
「いや、あれは、その、冒険者同士の懇親会だよ」
俺がそう言うと、ティアは「婚約者のところに顔も出せないのに、仲間同士の懇親会は出来るのね」とうつむいた。
「なんか、ごめんね、ティア」
小さく「うん」とうなずいたティアがまだうつむいているので、俺は「これからはなるべく会いに来るから」と言う。するとティアはうつむいたままで「本当に?」と聞いた。
「本当だよ」
「ほんとに、本当?」
「ほんとに、本当!」
俺がそう言うとティアはやっと顔をあげてニンマリしながら「ラピス!」と抱きついてきた。
うん、忘れないようにしよう。次は無い気がする。
とりあえずティアの背中をなでていると、満足したティアに手を引かれて、ソファに座る。
ルイラがうなずいて、メイドたちが入って来るとテーブルにはお茶セットが用意されて、お茶会が始まった。
ウルフの話やウェインやプルの話、それから魔法道具のこととルガドルとイスティ、それとルシアと教会の話、さらにはメソルとフィニと板の魔法道具の話をした。
ティアはときにキラキラと目を輝かせながら、ときにむくれながら、そして、ウェインとプルの話を聞いて顔を曇らせた。
「ティア?」
「うん、ラピスは本当はイーナ様とトリアス様と仲良くしたいんだよね?」
「そうだね」
俺がうなずくとティアは「ごめんなさい」と頭を下げた。
「なんでティアが謝るのさ」
「だって、エルフの味方をして欲しいってお爺様が頼んだから悩んでいるのでしょ?」
「違うよ」
「えっ?」
「エルフを守ろうと思っているのは僕の意思だ」
俺はそう言ってうつむいているティアに「ティア」と呼びかけた。
「なに?」
ティアが顔をあげるので、しっかりと目を見た。
「僕は森の中でエルフに救われたことがある。だからエルフを救いたいのは僕の意思だ」
俺がそう言うとティアは「その子を救いたいのね」とうなずく。
「うん」
「かっ、かわいい子なの?」
ティアが俺の顔を覗き込むので、俺は笑った。
「まあ、かわいいけど、そういうのではないよ」
「じゃあ、どういうの?」
「うーん、なんて言えば良いのかなぁ」
俺は困った。たぶん俺とエレナは秘密を共有する仲間みたいなものだ。
「命の恩人だから大きな借りを返したいだけだよ」
「本当に?」
ティアがそう聞くので、俺は思わず「フフフッ」と笑ってしまった。
「なに?」
「ごめんね。すごく可愛かったから」
俺がそう言うとティアは赤くなった。
ティアは本当にかわいい。こんな風に真っ直ぐに好意を寄せられることなんてないから戸惑ってしまうほどだ。
もちろん中身は20歳も違うのだから、なんとなく父親にでもなった気分だけどね。
「本当だよ、間違いなく」
「わかった」
ティアが嬉しそうにうなずく。俺はそこで初めて自分からティアをギュッと抱きしめた。




