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相談②

 翌日、俺は朝からルサヴェガス家を訪れた。


 昨日の夕方に連絡しておいたので、着くとルイラが待っていた。


「おはよう、ルイラ姉ちゃん」


「あぁ、おはよう、ラピス」


 ルイラはそう言ったあとで「助けてくれてありがとな」と笑う。


「うん、出来ることをしただけだよ」


「いや、正直言ってラピスがいなければとんでもないことになっていただろう」


「でも僕ひとりの力じゃどうにもならなかったし、まあ、みんなの勝利ってことで」


 俺は笑うとルイラは「そうか」と微笑んだ。


 ルイラに応接間に通されると、ウィスはすでにソファにドカンと座っていて、俺に向かえに座るように促した。


 俺が座る。


「ウィス様、おはよう」


「あぁ、おはよう、ラピス。それで儂に頼みたいことってなんだ?」


「うん、まずはカルメアの姉ちゃんのことなんだけど」


「カルメア……銀狐のカルメアか? なんじゃ?」


「イルゲミニス家からなんとかしてもらったりって出来ない?」


 俺が聞くとウィスは目を細めた。


「ほう、もう側室かぁ。やりおるな、ラピス」


「あのね、そういう冗談は良いから」


 俺が呆れ顔になると、ウィスは「つまらんのぉ」と笑う。


「では、何のためにもらい受ける?」


「ルサヴェガス家の騎士として」


 俺がそういうとウィスは「なるほどのぅ」と小さくうなずいたが、ルイラが目を見開いた。


「なにを言っている、相手は人を裏切ることも、踏み台にすることもなんとも思わない銀狐だぞ」


「ルイラ姉ちゃんからはそう見えるの?」


「どういうことだ?」


「確かに噂はそうだね。だけど、カルメアの姉ちゃんは少なくとも人に迷惑をかけて良いと思っている人じゃないよ」


 俺が言うとウィスは「そうじゃな」と言ってルイラを見た。


「ルイラ、噂などに踊らされずに相手をきちんと見るのじゃ。少なくともフォレスティアに来てからのカルメアの振る舞いは噂とはちぃと違うのぉ」


 ウィスは顎をさすりながら「ラピス、なにかあるのじゃろ?」と首をかしげた。


「うん、カルメア姉ちゃんの首には従属の首輪がはまっている」


 俺がそういうとウィスはカッと目を見開いた。


「イルゲミニス、いや、ペリペトゥスの魔女のやりそうなことじゃ」


 ウィスは顔をしかめると「逆らえぬからエルフをさらっておるのか?」と聞いた。


「いや、もちろんそれもあると思うけど、カルメアの姉ちゃんにも理由はあるんだ」


 俺はそこから昨日カルメアから聞いた話と、話したことをすべて話した。


 しばらくの沈黙のあと、ウィスは「なるほどのぅ」と呟いた。


「それで、ラピスはカルメアを従属の首輪の呪縛から解放すれば、こちらの仲間になってくれると思うのか?」


 俺は「うん」とうなずいたが、ルイラが「馬鹿な」と言う。


「カルメアの過去の話を聞いただけでもエルフの味方などしてくれるはずない! ラピスはちゃんとわかっているのか、目の前で己の全てを殺されたのだぞ」


「うん、わかっているよ。だけどね、カルメアの姉ちゃんからは恨みや怒りは感じないんだ。あるのは後悔と悲しみだよ」


 俺はそう言ってから小さくうなずく。


「自分を責め続けて生きてきたんだと思う。だからさ、もう解放してあげたいんだ。たとえ、仲間になってくれなくても……」


「騙されているかもしれないことも、分かって言っているのだな」


「うん、僕は馬鹿だからね。カルメアの姉ちゃんに騙されているだけかもしれない」


 俺がそう言うとルイラは「そうか」とうなずいて「人というのはどうしてこうも傷つけあうのだ」と言ってギュッと顔をしかめた。


「他者が怖いからじゃ。そして、どうしようもないほどに小さい存在だからじゃな」


 ウィスがそう言うとルイラはグゥと歯を食いしばって自分の手で自分の太ももを叩いた。


「ルイラ、すまぬがちょっと席を外してくれるか?」


「ウィス様……」


 ルイラが真っ赤な目をしながらウィスを見た。


「なに、ちょっとラピスと男同士の話じゃ」


 そう言ったウィスが「大丈夫じゃ」とうなずくと、ルイラは「すみません」と部屋を出て行った。俺とウィスはそれを見送ってから顔を見合わせてうなずく。


「カルメアの件はなんとか儂のほうで動いてみるが、正直に言って難しい。カルメアは冒険者だから従属の首輪さえ外せれば騎士にするのは問題ないのだがな」


「えっ?!」


 俺は驚いて「イルゲミニス家は大丈夫なの?」と聞いた。


「あぁ、大丈夫じゃ。あちらだって従属の首輪で冒険者を縛り付けていた負い目もあるはずじゃ。それにもし騒がれても、カルメアはあくまでも冒険者だからな、なんとでもなるわい」


「魔女って、これは僕が言ったらまずいか、ペリペトゥス侯爵夫人は?」


「冒険者1人程度のことであやつは出ては来ぬ。むしろ出て来るとしたらお主がラインで活躍したあとじゃろうな」


 ウィスが「せいぜい気をつけるのじゃぞ」とニヤニヤ笑うので、俺は「せいぜい生き残って帰ってくるよ」と言う。


「なにを言っておるのじゃ? お主は万の魔物を薙ぎ倒して英雄となるのじゃ」


 ウィスがわけの分からないことを言い出したので、俺は「はいはい」と言っておくとなぜかウィスが「わかっておらぬな」と呟く。


 するとルイラが戻ってきたので、ウィスがルイラにうなずいてから「して、ラピス、次の相談はなんじゃ?」と俺に聞いた。


「うん、魔の森なんだけどね。街道に城壁を築きたいんだ」


「なるほどな、街道を通る者たちは安全になり、街道から森に入る者が減ればエルフたちを守ることも出来ると言うことか?」


「うん」


「ほぉ、なかなか考えおったな。それで? 儂はなにをすれば良いのじゃ?」


「まずはフォレスティアの五大商会をルサヴェガス家の出入り商人にして欲しいんだ」


「出入り商人とな、それで?」


「うん、パーティーとかで他の貴族に口利きして欲しいんだって」


 ウィスは「ほぉ」とうなずくと「誰の入れ知恵じゃ?」と聞いた。


「ルガドルさん」


「ルガドル、なるほどイスティの魔法道具で今一番勢いがあると言われる商会か……そやつが、出入り商人にすれば街道に築く城壁の建築費を出すと言ったのだな」


「うん、ルガドル商会だけじゃなくて、たぶんフォレスティアの五大商会と言われている5つの商会が話に乗ってくれると思うって」


 ウィスが「うむ」とうなずくとルイラを見た。


「どうじゃ?」


「申し分のない話です。街道を安全に通れるようになれば流通が盛んとなり、出入り商人の商会が潤えばルサヴェガス家も豊かになります。心配なのは人流が増えたあとの治安ですね。お金が集まってくれば良からぬ輩も増えますから」


 ルイラの回答に満足げにうなずいたウィスは俺を見て「そのための」と言う。


「銀狐なのだろ? ラピス」


「うん、ルイラ姉ちゃんは腕っ節はすごいけど、そういう人の裏を探るような仕事とかは無理でしょ?」


 俺が首をかしげるとウィスは「ガハハ」と笑う。


「そうじゃのぉ」


 するとルイラが「ラピスだけではなく、ウィス様までひどい」とうなだれた。

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