相談①
メソルとイスティとフィニの3人がテーブルに置いてある武器を見ながら話を始めた。
だけど、ルガドルはまだ浮かない顔をしている。
「ルガドルさん?」
「あぁ、すみません。なにせ、イスティは今回もあれほど言ったのにまだ恐ろしいことになる魔石を取り付けていましたからね。本当に大丈夫なのか、心配で……」
「そうだよね」
俺がうなずくとルガドルは「なんとなくですが、イスティのやつ、ラピス君なら多少無理しても怒られないと思っている感じがあるんですよね」と呟いた。
「なにそれ?」
「ラピス君はなんだかんだと言いながらも最後は許してくれるじゃないですか?」
「そうかなぁ」
「そうですよ。他のお客はあれやこれや言ってイスティがその通りにしても、ダメだったときは理由なんて関係なく一方的に怒ってきますよ」
ルガドルは「それに板の魔法道具であれだけ派手に吹っ飛んで手や足を折ったのに、まだ乗ろうとする正気じゃない客はラピス君だけですよ」と笑う。
「あのさ、それって褒めてくれているんだよね?」
「いいえ」
ルガドルは首を激しく横に振る。
「呆れているんです。そのうちに死んでも知りませんよ」
ルガドルが真面目な顔で俺を見るので、俺は「またまた」と言う。
「大袈裟だよ、ルガドルさん」
だけど、ルガドルは「大袈裟ではありません」と断言した。
あのさ、そうやって断言されると怖いよ。
そんな風に思いながらメソルたちを見ると、イスティが武器の外装を指差して「外装は作り直す?」とメソルに聞いた。
「いや、このままでグリップの方を改良します」
「どうするの?」
「魔鉄で中を空洞になるように作って、その代わりに筒と同じように硬化の魔法陣を入れた後で、チタンでコーティングします」
「なるほどね、それなら中が空洞でも強度が保てるわね」
イスティはそこまで言うとアゴに手を当てながら宙を見て口の中でブツブツと言い出した。そして、テーブルに置いてあった武器を手に取る。
「グリップの中に弾を入れる場所を作って、撃つと次の弾が下からバネで押されて上がって来るようにするの?」
「そうっす。魔銀ならラピス君の魔法の影響を受けないっすから魔銀で作ったカートリッジにするつもりっす」
「なるほどね」
メソルとイスティはそう言いながら紙にどんどんメモを書きながら、アイデアをまとめていく。そしてそれをスラスラとフィニが図面にしていった。
「やっぱり職人はすごいね」
俺がそう独り言を言うと、隣で一緒に見ていたルガドルは「そうですね」と笑う。
「本当は私も混ざりたいのですが、いくらイスティに教わってもダメで、私に出来ることと言えばイスティの暴走を止めることと、商売の計算と書類に決済の判子を押すことぐらいですよ」
「あれだけの商会を回しているんだから充分だよ。僕には魔法を使って魔物を倒すことしか出来ないし」
「それこそ、すごいことじゃないですか?」
ルガドルはそう言ったあとで「ないものねだりなのですね」と再び笑うので、俺も「そうだね」と笑う。
「それでね、ルガドルさんに相談があるんだけど?」
「なんですか?」
「まだ先の話なんだけどね、そのうちに魔の森を通る街道に壁を築きたいと思っているんだけど」
「なるほど、ルサヴェガス家の公共事業として壁を築く際には、我らに資金提供をしてもらいたいと言うことですね?」
「えっ?」
俺が驚くとルガドルは「ラピス君がルサヴェガス家に婿入りされることは存じております」と笑う。
「なんで?」
俺が聞くとルガドルは「耳が早くないと商人など出来ませんよ」とうなずく。
すごいね。
「あのさ、まだウィス様にも相談してないんだけど、もしやるとしたらフォレスティアに所属している商会の方々から資金提供をしてもらえると思う?」
「そうですね。それなりの見返りがあればフォレスティアの五大商会と呼ばれている者たちならよろこんで協力すると思いますよ」
「見返り?」
「はい、ルサヴェガス家の出入り商人にしてもらうことです。そして、ルサヴェガスが陞爵されたときなどのパーティで、出入り商人として他の貴族家への口利きをお願いしたい」
なるほどね。出入り商人の話はこちらとしても悪い話ではないと思う。だけどさ……。
「陞爵はしないかもしれないよ」
「それはないですよ」
ルガドルは「フフッ」と笑った。
「ウィス様も根回しを初めているはずですよ。なにせ、ラピス君はラインの英雄となられるわけですから」
俺が「あのさ」と苦笑いを浮かべるとルガドルは「なってもらわないと困ります。絶対に帰って来てください」と言った。
なるほど、そういうことね。
「わかったよ。なんとか帰ってくるから」
俺の言葉にルガドルは「はい」とうなずいて、俺たちがそんな話をしているうちに図面が出来上がった。
「どうっすか?」
メソルが図面を俺に見せながら説明した。
「うん、すごいよ。弾を1発1発いちいち入れなくて良いのがとても良い。よく思いついたね、こんな仕組み」
俺が笑うとメソルは「そうっすね」と頭をかいた。
「これにはモデルがあるっす」
「モデル?」
「そうっす。ラピスさんは『エータの大冒険』を知っているっすか?」
「うん、小さい頃に母さんから聞いたよ。魔物の群れと戦った勇者のおとぎ話だよね?」
俺がそう聞くと「小さい頃っていつっすか?」とメソルが苦笑いしたので俺は「あはは」と笑っておく。
「その『エータの大冒険』に『銃』と呼ばれる武器が出て来るっす」
「あぁ、あったね。引き金を引くとバン! と弾が飛び出す……ってあれ?」
「そうっす。これはその中の『拳銃』をモデルにしているっす」
「でもさ、モデルって話を聞いただけでそれを再現するなんてさすがだよ、メソルさん」
俺がそう言うと、メソルとイスティが首を横に振った。
「かなり前の建国祭のときに一度だけ1000年前の物とされる『拳銃』が展示されたことがあったっす」
「えっ?! その『拳銃』って実在するの?」
「はい、実在するっす」
メソルがそう言うとイスティが続く。
「研究者がそれを元に再現を試みたんですけど、再現は無理だったらしいですよ」
「それをメソルさんが再現したの? すごいね!」
俺がそう言うとメソルは頭をかきながら「違うんすよ」と苦笑いを浮かべた。
「まあ、細かいことは良いすね。では、これで改良を進めるっす」
「うん、よろしくね」
俺がそう言うとメソルたちは「わかりました」とうなずいた。




