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カルメア③

「ラピス、昔ね、西の辺境にエルフと寄り添いながら暮らす小さな村があったの」


「うん」


「その村にね、ごく普通の木こりと裁縫と料理が得意なだけの奥さんが仲良く暮らしていたわ。だけど、その2人のあいだに、ちょっと変わった魔法と膨大な魔力を持った女の子が生まれた」


 カルメアはそこまで話して、少し間を置いてから続ける。


「村の人たちは誰も気付かなかったのよ。女の子も、両親も、村長もね。でもね、エルフは魔力を見ることが出来るから、村を訪れたエルフによってその子がちょっと変わった魔法と膨大な魔力を持っていることがわかったの」


「うん」


「それでもね、その子はお母さんみたいな裁縫と料理が得意な美人になって、幼なじみの男の子と結婚することを夢見るただの女の子だったのよ。その夜が来るまでは……」


 カルメアはギュッと顔をしかめた。


「目が覚めたとき、もう血の匂いと煙の匂いが充満していたわ。それでも、父さんと母さんに連れられて家を飛び出して、襲撃者に抵抗せずに広場に行った。広場までの道には村の男の人たちが転がっていたらしいけど、私は怖くて見ることが出来ずに母さんのスカートに顔をずっと押し当ててた」


 カルメアが歯を食いしばってから続ける。


「父さんは何度も『抵抗しなければ大丈夫だ』って言ってたけど、広場に集められた村人はみんな、私の前で殺されたの。エルフは私に言ったわ『お前さえ生まれて来なければ、我らは友好的に暮らして行けたのだ』とね」


 カルメアは泣いていた。ギュッと顔をしかめて、それから「その日、私は初めてエルフを殺したの、20人のエルフたちをこの手でね」と目を閉じた。


 そんなことがあれば、エルフを恨んでも仕方ないね。


「私もね、私がさらったエルフたちのほとんどが悪い人たちじゃないってわかっているわ。きっと、ラピスがあったエルフは良い子だったのよね?」


「えっ?!」


 俺が驚いてカルメアを見るとカルメアは涙を拭いながら舌を出した。


「やっぱり会ったことがあるのね。エルフに」


 カルメアがそう言って「うふふ」と笑うので、俺は「うん」と答えた。


「その子はね、俺の膨大な魔力とちょっと変わった魔法を知っても救ってくれたよ。仲間たちは『殺してしまえ』って言ってたけどね」


 カルメアは「そう」とうなずく。


「その子が治める里だったなら、私はその子と友達になれたのかもしれないわね」


 カルメアはそう言って再びフルーツジュースを飲んだ。


「カルメアの姉ちゃんはまだエルフを恨んでいるの?」


「わからないわ。どうなのかしらね」


 カルメアはそう言って自分の手を見た。


「だけど、いまさら許されないでしょうね。村のみんなにも、たくさんのエルフたちにも……」


 そう呟くと「湿っぽくなったわね」と俺をみて笑い。店員の女の子を呼んだカルメアは明るく振る舞ってデザートを頼んだ。


 だけどさ「かしこまりました」と言った女の子がキッと俺をにらんでから行ったけど、完全に勘違いだからね、それ?!


 そして、デザートを満足げに食べたカルメアは「さっきの話、もう一度考えてくれる?」と首をかしげて「それから」と言った。


「わかっていると思うけど、エルフは良い奴ばかりじゃないし、保護されるべき弱者でもないからね」


「うん、わかっているよ」


 俺がうなずくとカルメアは「わかっているなら良いのよ」と俺の頭をなでようとして一度戸惑って、それからなでた。


「今日は市場のお姉さんを助けてくれてありがとう、カルメアの姉ちゃん」


 俺がそう言うとカルメアは「フフッ」と笑う。


「デート、湿っぽくなったけど楽しかったわ」


「うん、そうだね」


「また、誘っても良いかしら?」


 カルメアが俺の顔を覗き込みので、俺は「うーん」と言って「カルメアの姉ちゃんが僕の仲間になってくれるならね」と続けた。


「ラピス……」


 カルメアはそう言い淀んで、それからしばらく戸惑ってから自分の首に巻いていたストールを外した。


 えっ?!


「それは……」


「従属の首輪よ。私はエルフを殺したあとで彷徨っているところを西の辺境伯イルゲミニス家に拾われたの。そして、この首輪をつけられて訓練を受けた」


 カルメアがそこで首輪をなでたので、俺は「エルフを狩る者になるための?」と聞いた。


「そうよ」


「それがある限り逆らえないの?」


「そうね」


 カルメアはそう言って首にストールを戻した。


「ラピス、私が欲しいならイルゲミニス家と話をつけてちょうだいね」


「うん、わかった」


 俺がうなずくとカルメアは「ダメよ!」と慌てた。


「ラピス、今のは忘れて、絶対にイルゲミニス家には関わらないで! 良いわね?」


「うん? 嫌だよ」


 俺が即答すると「なんでよ」とカルメアは頭を抱えた。


「僕に話してしまったカルメアの姉ちゃんが悪いね」


 俺がそう言って笑うと、カルメアは頭を抱えたままでもう一度と「なんでよ」と呟いた。


「それから、今朝、教会に火の魔法道具が投げ込まれたんだけど、カルメアの姉ちゃんは関係ないよね?」


 俺が聞くとカルメアは一度俺を見て「はあ」とため息を吐いた。


「あいつら、本当に馬鹿ね。私は関係ないわ。そんなのバレたら国際問題になるから私のバックにいる辺境伯にも、もっと言えばその上の侯爵夫人にも手に負えないわ。私たちは簡単に切られるでしょうね」


「えっ?!」


 俺が驚くと、カルメアが「ラピス、教会はどこ所属なの?」と聞く。


「あぁ、皇国……」


「そうよ。森の中で襲ってきた聖女を返り討ちにしたのなら問題ないけど、教会を襲撃したなんてことがバレたら私たちは終わりよ」


 そう言ったカルメアは「まったく」と呟きながら頭を抱えた。

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