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カルメア②

 カルメアが選んだのは大通りにある店で、大きな窓の外にはテラス席もある若い女性たちに人気の店だった。


 俺にはおしゃれすぎる。


 入り口で店員の女の子が「いらっしゃいませ」と俺たちを迎えて「お2人ですか?」と聞いて来たので、カルメアは「そうよ」と微笑んだ。


「雰囲気の良い席にしてね、今日はデートなの」


 カルメアがウインクすると、女の子は目を見開いてそれから俺をジロジロと見る。


「ラピス……」


 と小さくつぶやくと、再び笑顔を作って「こちらにどうぞ」と案内した。


 窓際の角の席、真四角のテーブルにはそれぞれ4つの面に椅子が置かれていたが、カルメアは俺に席を示して座らせると、自分は俺の隣に座った。


「あのさ、カルメアの姉ちゃん。2人なんだし、普通は向かい合うんじゃないの?」


「なんで? そんなの敵対しているみたいで私は嫌よ。それに……」


 カルメアは「フフッ」と言って「この方が窓の外がよく見えるし、カップルはこう座るのよ」と笑った。


 まあ、逆らっても無駄だと思うので、俺は「そう」とうなずいて、テーブルに置いてあったメニューに目を通すことにした。


「ここのパニーノが絶品よ」


「そうなんだ。じゃあ、それにするよ」


 俺がそう答えるとカルメアは店員の女の子を呼んでパニーノとフルーツジュースを2つずつ頼んだ。そして、俺を見る。


「ラピスが悩んでいるのはウェインとプルのことね」


「まあ、そうだね」


 俺がうなずくとカルメアは「私たち冒険者の仕事にね。情は禁物よ」と言った。


「私たちはあくまでも依頼を受けて、その依頼をこなすことが仕事なの。そこに情を入れてはダメ」


「うん、カルメアの姉ちゃんが言っていることはわかるよ。だけどさ、そんなに割り切れるものなの?」


「割り切らないとダメなのよ」


 カルメアはうなずく。


「例えば山奥に綺麗な羽を持った魔物が静かに暮らしていたとするでしょ?」


「うん」


「その素材が欲しいと誰かが仕事を依頼する。その依頼を受けてその魔物を狩るのが私たちの仕事」


「そうだね」


「じゃあ、その魔物が人を襲わない優しい魔物だったら? そして、もしその魔物が人族の言葉を話せる魔物だったら、ラピスはどうするの?」


 カルメアは俺を覗き込むので、俺は「うーん」とうなった。


「確かに僕には狩れないかもしれないね」


「そうでしょ? でもお金をもらって依頼を受けるなら私たちは情を捨てて狩らなくてはならない。それが冒険者の仕事だからね」


「なるほどね、だからカルメア姉ちゃんはエルフをさらっているんだね」


「そうよ、それが依頼だし、それで私はお金をもらっているからね」


 なるほど言っていることはわかる。


「だから、私はエルフが泣いたとしても、叫んだとしても迷わない者を使っているの。あいつらはお金のためならためらわずにエルフをさらうわ」


「わかるよ。だけどさ、なんでエルフなの? カルメア姉ちゃんの腕ならほかの魔物を狩っても充分に稼げるだろ?」


 俺が聞くとカルメアは「そうね」と小さく言って、窓の外を見た。


「ラピス、オークがしゃべったらどうするの? ゴブリンが言葉を覚えたら見逃すの? それにね、冒険者ギルドの仕事の中には人族の犯罪者を捕らえる、なんて仕事もあるのよ」


「そうだね」


 俺がそう言ったときに、店員の女の子が料理を運んできた。俺たちの前にパニーノとフルーツジュースが置かれる。


「ごゆっくり」


「「ありがとう」」


 俺とカルメアはそう答えて、目を合わせた。


「まずはいただきましょうか?」


「そうだね。いただきます」


「いただきます」


 俺はパニーノの頬張る。モチモチとした歯応えの硬いバンにチーズとレタスと薄切りのハムが挟まれていて少し酸味の効いたマヨネーズがおいしい。


 思わず、俺がパニーノを見ると、カルメアは「驚くほどにおいしいでしょ?」と笑う。

 

「うん、おいしいよ」


「そんな顔してくれるなら、勧めて良かったわ」


 微笑んだカルメアは「ラピス」と真顔になって俺を見た。


「うん? どうしたの?」


「私の仲間にならない? 報酬は他の者の倍出すわ」


「倍? そんなに出して大丈夫なの?」


「大丈夫よ、お金に余裕があれば3倍出したいぐらいだわ」


「でも、あの人たちもとんでもない額もらっているでしょ?」


 俺は首をかしげた。 


 だって、あの服装に装備、それから毎日酒飲んで遊んでいるし、泊まっている宿も大通りにある一番高い高級宿だ。俺の泊まっている『金の鶏亭』の3倍は高い。


「そうね。普通の冒険者では考えられない額だわ」


「そんな額を提示するほどではないよ、僕は……」


「なにを言ってるの?」


 カルメアは目を見開いた。


「王都の貴族たちならもっと出してもラピスのことを欲しがるわよ」


「じゃあ、カルメアの姉ちゃんは僕が同じ額を出したら僕の仲間になってくれる?」


「えっ?!」


 カルメアは信じられないという顔をした。


「私は平気で人を裏切る銀狐のカルメアよ。わかって言っているの?」


「わかってるよ。だけど、カルメアの姉ちゃんは冒険者の仕事をお金のためと割り切っているだけなんだろ?」


 カルメアはギュッと顔をしかめて、それから俺を見た。


「ごめんなさい。私はラピスの仲間にはなれないわ」


 カルメアはそう言うとフルーツジュースをひと口飲んだ。

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