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聖女③

 俺がルシアと一緒に歩いていたらルシアが「ねぇ」と声をかけて来た。


「本当に良かったの?」


「うん?」


 俺はルシアを見て「僕とルシアは友達だよね?」と聞いた。


「そっ、そうね。ラピスが『どうしても』って言うなら友達になってあげても良いわよ」


 ルシアが赤くなってそう言うので、俺は「じゃあ、どうしても」と答えた。


「なんか、投げやりじゃない?」


「そんなことないよ」


 俺はそう言ってから「続けて良い?」と聞くとルシアは少し膨れてから「良いわよ」と答える。


「例えば、僕が『向こう側に付くからルシアも来てくれ』って言ったら来てくれるの?」


「無理ね」


「そういうことだよ」


 俺がうなずくと、ルシアは少し間をあけて「そうね」と答えた。


 ルシアの気持ちもわかる。これは理屈だ。そして、友達関係は理屈ではない。だけど、そう考えないと俺は迷ってしまう。


「俺が迷ってたらルシアも背中を預けられないだろ?」


「そうね……だけど、まったく迷わないやつも信用できないわ」


「そうだね」


 まったく世の中は難儀だ。全てのことが白と黒に塗り分けられていたらよかったのに……。


 俺がそう思ったときに「きゃあぁぁぁ」と悲鳴が聞こえた。すぐに俺とルシアが走り出すと教会の方から火の手が上がっていた。


「クッ」


 そういえば、今回の騒ぎにエルフを狩る者たちは来ていなかった。


 くそっ!


 俺たちが教会の門に駆け込むと、庭に子供たちとシスターたちがいた。子供たちは泣いているし、シスターたちはオロオロしている。


「どうかしたのですか?」


 俺が呼びかけると、こちらを見た教会のみんなはルシアを見て「聖女様」とひざまづいた。


「皆さん、楽にしてください。なにがあったのですか?」


 ルシアが聞くとひざまづいたままでシスターが「教会に火の魔法道具を投げ込まれました」と答えた。


「そうでしたか、怪我をされた方はいらっしゃいますか?」


 ルシアがそう聞くと「いえ、大丈夫です」と答えたので「それは良かった」とルシアは微笑んだ。そして、泣いている子供たちに近付いて「怖い思いをさせてしまってごめんなさいね」と1人づつ抱きしめる。


 するとマーテルが中から出て来た。


「聖女様、ご無事で何よりです」


「マーテル、大丈夫ですか?」


「はい、少し物が燃えた程度で火もすぐに消し止めましたし、私たちは大丈夫です」


 ルシアは「そう」と答えると顔をしかめた。そして、ルシアが『私のせいで』という前に、マーテルが「聖女様のせいではございません」と微笑む。


「聖女様は教会の方針に従っていらっしゃるだけではありませんか? そして、私どもに戦う力はございませんが、私どもも教会の人間の端くれですから同じ志の下、気持ちは戦っているのです」


 マーテルがそう言うとひざまずいているシスターの何人かが「そうでございます」とうなずく。


 この人たちはルシアのやっていることを知っているんだね。


 ギュッと胸が締め付けられた。


 俺とは覚悟が違うのだ。力が無くとも暴力に屈しないという覚悟がこの人たちにはある。それは、エルフが可哀想とかそんな話ではない。


 自分が信じる道を生きるという覚悟。


 俺にはそれが足りない。


「ありがとう、皆さん。私は卑劣な警告などに屈したりせずにこれからも神が導いてくださる道を歩み続けると誓いましょう。そして、皆さんに神の光とたくさんの幸福が降り注ぎますように」


 ルシアがそう言って胸の前で手を組んでひざまずく。


「聖なる翼をもつ天の女神よ。我が呼びかけに答え、恐怖に支配されし心と身体を癒したまえ『メトゥス・パーゲェション』」


 空から光がゆっくりと降りて来て、シスターと子供たちを包んだ。すると、泣いていた子供たちも落ち着き、シスターたちもどこかほっとしたように見える。


「「聖女様」」


「神はいつでも私たちを見ておられますし、私たちの心に寄り添ってくださっています。信仰の心を持ち、祈りを忘れずに参りましょう」


「「はい」」


 みんなの返事にうなずくと少し青い顔をしたルシアは立ち上がる。


 今の魔法はすごかったから、かなりごっそりと魔力を持っていかれただろうね。


「では、皆さん、片付けを始めますよ」


「「はい、聖女様」」


 みんなが立ち上がって教会に入っていくのを見守って、それから帰ろうと振り返ろうとしたらマーテルに「ラピス君」と声をかけられた。


「マーテル様、どうしたの?」


「ありがとうございます」


「うん? なにが?」


 俺が首をかしげると、マーテルは「聖女様の手伝いをしてくださっているのでしょ?」と笑う。


「違うよ。どちらかと言えば助けられているのは僕の方だよ」


「そうですか? だけど、聖女様はラピス君と会ってからよく笑われるようになられました」


「どうせ、馬鹿、バカ、言っているんでしょ?」


 俺が聞くとマーテルは「はい」と笑う。


 まあ、そうだろうね。今さっき見た姿はまるで別人だ。


「じゃあ、僕は邪魔になるから帰るよ。それとも魔法で何か動かす?」


「いえ、大丈夫です。ありがとうございます」


 マーテルはうなずくと「これからも聖女様をよろしくお願いします」と頭を下げた。


「わかったよ。じゃあ、失礼するね」


「はい、また来てくださいね」


「うん、ありがとう、マーテル様」


 俺が振り返ると、マーテルがまた「ラピス君の道が光多きことをお祈りしております」と言ってくれた。


 俺の道はどうなるのだろうか?


 だけど、俺だけは自分の選んだ道を信じてあげなくちゃならないって思い直して、いつもより踏みしめながら『金の鶏亭』に帰った。

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