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オーク③

 笑った俺の目の前から不意にオークジェネラルが消えた。大きな木のような生き物に体当たりされてジェネラルは一緒に取っ組み合いながら近くにいたオークを蹴散らし、地面をゴロゴロと転がる。


 トレントか?


「ラピスの馬鹿者が! わしに断りもなく勝手に死ぬでないわ!」


 俺にそう叫んだウィスが街の中からこちらを見て「ガハハ」と笑う。

 

 目の前ではトレントがジェネラルと取っ組み合い。バキバキと音を立てながら押さえつけていた。


 もしかして、これが樹木魔法?! すごいな。


「ラピス、長くは持たんぞ! なんとかせい!」


「あのさ、なんで僕なの?!」


 俺が叫びながら答えて首をかしげると、ウィスは「ラピスだからじゃ!」と笑う。


「なにそれ?!」


 理由になってないよ、まったく。


 俺がジェネラルを見ながら頭をかいていたら、バキッとトレントの腕が片方折れる。


「みんなの前に壁を作る!」


 俺がそう呼びかけると、ルシアが「ラピスが壁を作るわ。合図と同時に下がって!」と声をかけて、遠くにいたルイラたちも返事をよこした。


「じゃあ、行くよ!」


「みんな下がって!」


 ルシアが叫んだのに合わせて、俺が地面に手をつきながら「立ち上がれ!」と唱えると、俺たちの前に分厚い鉄の壁が立ち上がった。


 ルシアは「わぉ」と笑い、ルイラたちも冒険者たちも苦笑いでこちらを見ていた。

 

 ゴン、ゴン、ガン!


 鉄壁に大きな拳の形が浮かび上がる。


 おいおい、あんなので直接殴られたら死ねるな。だけど、とりあえずこれで時間は稼げる。


 俺が「全員、街まで下がってくれる?」と呼びかけるとそれに答えたみんなが街の中に避難する。俺も一度大きく後ろに下がって門の前まで来た。


「じゃあ、行くよ」


「うん、良いわよ」


 近くにいたルシアがそう答えたので、俺はオークジェネラルが着ていた鎧を空高く撃ち上げた。何度も何度も磁力で弾いてかなり高いところまで撃ち上げると、それから一気に壁の向こうのジェネラルに引き寄せる。


 ゴゴゴッと言いながら赤くなった鎧が落下してくる。


 ドッガーン!


 地面が揺れたあとに飛んできた衝撃波で鉄の壁が大きく波打った。そして、ブォン、ブォンと荒れ狂う風が鉄の壁の向こうから押し寄せ続けて、少しずつ鉄壁が上の方から剥がされるように壊れ始めた。


「マジかよ」


 俺がそう呟いたとき、衝撃波で飛ばされてきたオークたちが次々に鉄壁を突き破る。


「まずい」


 俺が言った瞬間に俺の隣に並んだウェインが暴風の壁を築く。さらにプルが、反対側のルシアの隣に並んだ。


「凍てつく氷海を泳ぐ氷の女神よ。我が呼びかけに答え、大気を氷結させ堅固なる氷壁を生み出せ『グラキエル・デフェンシオ』」


 プルが詠唱して氷壁の壁を作り出すと、風の壁と氷の壁が押し寄せてくる全てを防いだ。


「ありがとう、ウェイン、プル」


「何言ってんだ。ありがとうはこっちだろ?」


「そうだよ」


 ウェインとプルが笑うと衝撃波は落ち着いて、土埃が晴れたらあとには大きなクレーターが出来上がっていた。


「やり過ぎじゃ、ラピス!」


 ウィスはそう言ったが、俺とウェインは「あはは」とから笑いをもらす。


「みんなは下がってて」


「そうだな、下がっててくれ」


 俺とウェインがそう言うとみんなその姿を確認したらしく「嘘だよな?」と呟いたり「あれでも倒せないの?」と嘆いた。


 あぁ、俺も同じ気分だよ。


 だって、大きなクレーターの真ん中にオークジェネラルは傷だらけになりながら立っていたからだ。


「ブモォォォォォォ!」


 ジェネラルが雄叫びをあげると、吹き飛ばされて倒れて高く築かれているオークの山からオークたちを払い除けながらのそりとオークリーダー2匹が這い出て来た。


 ウェインが「さてと、どうする?」と聞くので、俺は「どうしようか?」と笑う。


 正直、どうしようもない。


「あれで倒せないとか反則じゃない?」


「あぁ、だが、間違いなく弱っている」


 そうだ。現にジェネラルはリーダー2匹を壁にするように前に出して、こちらをうかがっている。これまでのような余裕はない。それにリーダー2匹もルシアとの戦いもあってボロボロだ。


「雑魚2匹は俺がやる」


「あのさ、リーダーも雑魚じゃないからね」


「ジェネラルに比べたら雑魚だろ?」


 ウェインはそう言いながら笑ったので、俺は「2匹なのに?」と聞く。するとプルが「1匹は私がやるから大丈夫だよ」と笑った。


「大丈夫なの?」


「大丈夫か?」


「もう、2人とも心配しすぎ、マジックポーションも飲んだし、大丈夫だから」


 プルはそう言って笑うと「それからこれ」と俺の手に銀製の何かを置いた。


「メソルさんが『お待たせしてすまないっす』って言ってたよ」

 

 それを見るとどうやら例の武器みたいだ。だけど、中の筒は前と同じように魔鉄で出来ているみたいだが外側には魔銀を使った外装が被せられていて、見た目が武器として洗練された。


 まあ、前はバネとか剥き出しだったもんね。


 それから、外装には魔法陣が刻まれて、魔石が埋め込まれている。


「あのね『姉さんがまたチタンマルマジロの魔石を取り付けたので、威力は折り紙付きっす。だけど、魔石でサポートするとたぶん1発しか撃てないっす』だって」


 そう言ったプルが俺の手に今度は弾を置く。黒光りする玉はチタンが使われているようだけど、チタンほど重くなかった。


 グリップを握るとしっくりとなじむし、正直に言ってカッコいい。だけどさ……。


「あのさ、これはたぶん撃ってはいけないやつだと思うよ」


「でも威力は折り紙付きなんでしょ?」


 プルは首をかしげたが、それはイスティの前科を知らないからだ。


 うん、俺は一度手足の骨を折っているからね。これを撃ったら手も一緒に吹き飛ぶ未来しか見えないよ……でも、やるしかないかぁ。


 俺は仕方ないので武器に弾を込める。


「それじゃあ、リーダーは2人に頼んで良い?」


「あぁ、構わない」


「うん、大丈夫だよ」


 ウェインとプルがそう答えたので、俺たちはその3匹のところに向かう。


「あのさ、私は?」


「うん?」


 俺が一歩歩いて振り返ると、ルシアがモジモジしていた。


「いやいや、ルシアはリーダー2匹を相手にしてたんだから、ボロボロだろ?」


 俺が聞くとルシアはもごもごと「……大丈夫よ」と答えた。


「なんて?」


「大丈夫だって言ったのよ!」


 理不尽にも俺はルシアにバシッと背中を叩かれて、リーダーは1匹ずつウェインとプルが相手をし、傷だらけのジェネラルは俺とルシアが相手をすることになった。


 ジェネラルと俺たちが対峙すると、ジェネラルはニヤリと笑った。そして、グッと体に力を込めてから突進して来る。


 最後を悟ったかのような少し鈍い突進。俺は武器を構えて魔石に魔力を込めて、外さないように近づくまで引きつける。


 うん?


 だけど、ルシアが放った複数の光の刃がジェネラルを襲い。俺が引き金を引くまえにジェネラルがドシーン! と前のめりで倒れた。


 えっと?


 俺がルシアを見ると、ルシアは「あっ」という顔をしている。そして、頬をかいた。


「思ってたより弱ってたみたいね」


「そうだね」


 俺はそううなずいて、手にしていた武器を見たあとで、近くで戦っていたウェインとプルを見た。


「まあ、そういうこともあるな」


「そうだよ。どんまい、ラピス」


 リーダーを倒し終えていた2人がそう言うと、ルシアは「なんか、ごめん」と呟いた。そして、街の方では誰かが「うぉぉぉ」とか「勝ったぞぉぉぉ」とか勝ちどきを上げた。

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