オーク②
2匹のオークリーダーを引き連れたオークジェネラルがドシンドシンと地面を踏み鳴らしながらゆっくりと魔の森から出てきた。足を鳴らすたびに一緒にガシャガシャとなる鉄鎧を全身にまとっている。
そして、ジェネラルが俺たちを睨みながら大きく息を吸い込んで「ブモォォォォォォ!」と叫ぶとオークたちがその場でドンドンと足を踏み鳴らしてそれに答える。
ドンドン、ドン! ドンドン、ドン!
するとオークたちの目が赤く染まった。
「スタンピードだ!?」
誰かがそう叫ぶと、オークたちの進軍が始まった。俺が砂鉄玉をオークに飛ばすと、オークの頭にカン! と弾き飛ばされ、ウェインの風の刃も、プルの水の刃も効かない。
俺は思わず「嘘だろ?!」と呟いた。
オークの硬さがさっきまでの比じゃない。攻撃を跳ね返したオークがそのまま体当たりするように突進してくる。
俺たちがそれを大きく飛び下がりながらよけると、後ろから飛んで来た光の刃がオークたちに次々に突き刺さった。
「何やってんのよ、ラピス」
「ルシア?」
俺が振り返りながら聞くとルシアは呆れ顔をしながら歩いてくる。
「ボケっとしてんじゃないわよ。あんた、馬鹿?」
「えっと、ルシア。みんなの前で地が出てるよ」
俺がそう言うとルシアは「非常事態なんだから良いのよ」と苦笑いを浮かべた。
「奴らは土魔法で身体を硬化しているから半端な魔法は効かないわよ」
ルシアがそう言うとウェインが「とりあえず、押し止めるぞ」と言ったあとで詠唱を始めた。
「大空を踊る風の乙女よ。我が呼びかけに答え、吹き荒れる暴風にて迫り来る者どもを押し返せ『プロケッラ・デフェンシオ』」
吹き荒れる風がオークたちを押し返すと、ルシアは「やるじゃない」と笑う。
「奴らは身体強化を使わずに、無理やり魔力で硬化しているみたいだから長くは持たないとは思うけど」
「じゃあ、とりあえずはこのまま持ちこたえれば良いってこと?」
俺が首をかしげたとき、目の前の暴風の壁が戦斧に打ち消されて、俺たちの目の前に迫ったそれをウェインが前に出て受けて吹き飛ばされた。
「ウェイン?!」
「大丈夫だ」
吹き飛ばされて倒れているウェインがそう答えたが、大丈夫とは思えない。
やばいね。
ジェネラルが再び戦斧を振るいながらその場所に居て、俺たちを見てニタリと笑う。
風に足止められていたオークたちが再び突進して来た。すぐにプルがそのオークたちを凍らせたが、その場で膝をつく。
「プル、大丈夫?!」
「大丈夫、ちょっと魔力を使いすぎただけ」
プルはこちらを見るが、その顔はつらそうに歪んでいる。大丈夫なわけないよな。
俺は苦笑う。
「プルは下がって」
「まだ大丈夫だよ」
「いや、とりあえず回復して」
俺がそう言うとルシアも「そうね」とうなずいた。
「ここは私とラピスに任せて、あんたたちは少し休みなさい」
ルシアがアゴでクイクイと倒れているウェインを示すので、プルは「はい」と苦笑いをした。
わかるよ、聖女のイメージが台無しだもんね。
俺はそう思いながらグッと磁力魔法でジェネラルを地面に引き寄せた。
すぐに「ブゥ?」とか「ブモォ?」とか言いながら膝を付き、それから四つん這いになるように手をついて、最後はうつ伏せに倒れた。
よし!
と思ったら、ジェネラルは巻き戻るように手で身体をグッと起こして片足ずつ膝立ちになり、そして、身体を起こした。
嘘だよな……。
さらにニヤリと笑うと、兜を俺の方に投げる。
まずいっと思ったが、兜はルシアの光の刃でオークたちの方に弾かれた。兜がぶつかったオークたちが数匹潰される。
ジェネラルはそれを気にもしないで着ていた鎧をその場で全て外し、グッと身体に力を入れてはち切れんばかりの全身の筋肉に血管が浮かび上がらせた。
そして、両手をあげて「ブモォォォォォォ!」と雄叫びをあげる。
「来るわよ、ラピス」
「わかってる」
俺が答えると、ルシアが「どうするの?」と聞いたので俺は苦笑いしながら「わかんない」と答えた。するとルシアは「ウフフ」と笑う。
「嫌いじゃないわ、そういうところ」
「あっそう、ありがとう」
「リーダー2匹は私がやるわ」
ルシアか飛び出して行ったので、あちらこちらに転がっていたオークチーフの斧を順番に打ち上げて、ジェネラルに向かって引き寄せる。
ジェネラルはそれを見上げて、手で払いのけていたが、斧の数が多いのでさばききれずにバシバシとその身体に当たった。
だけど、ジェネラルも土魔法で皮膚を硬化しているらしく、斧がまるでささらない。全ての斧が身体に弾かれると満足げにブルブルと鼻を鳴らした。
そして、一歩俺に近づきながら拳を俺に振り降ろす。
ものすごい勢いで拳が近づいて来た。
俺はそれを地面を磁力で弾いて後ろに飛んでよけたが、着地するまえに左の拳がすぐに来る。すぐに近くに転がっている斧を引き寄せて壁にしたけど、斧ごとまとめて殴り飛ばされた。
俺は「カハッ」と息を吐きながら着地して、さらにもう一度引き寄せたチーフの斧を全部ジェネラルと俺とのあいだに刺して壁にした。
ルシアも光の刃を駆使してリーダー2匹を相手にしていた。それにルイラとギールと兵士たち、それから冒険者たちもスタンピードしているオークの相手で手一杯だ。なにせ数が多すぎる。
俺が再びジェネラルを見ると、ジェネラルはグッと斧をつかんで斧を引き抜いた。
おいおい。
斧は磁力で地面に目一杯引き寄せているのに、グググッと抵抗を感じながらも引き抜く、そして、ジェネラルが2本目を引き抜いたところで、リーダーに吹き飛ばされたルシアが視界の端に見えた。
もう1匹の戦斧が飛ばされているルシア迫っていたので、俺はそれを引き寄せる。
リーダーはいきなり斧を引っ張られて戸惑い、体制を立て直したルシアの光の刃に切り付けられたが、俺の目の前には斧で作った壁を飛び越えて来たジェネラルが着地した。
「うん、まずいね」
俺はそう言って笑った。




