オーク①
「グモオオオオオオ!」
夜中、寝静まったフォレスティアの街に魔の森から上がったオークの雄叫びが響いた。その後でドドドッと地面を揺らす足音が迫ってくる。
俺はベッドから飛び起きて、支度をした。
嫌な予感はあった。
魔の森のオークたちはだいぶフォレスティアの近くまで来ていたし、それに最近は近くの森でゴブリンを見かけなかった。
当たって欲しくはなかったが、仕方がない。
服を着替えて胴当てをつけて、腰にナイフと砂鉄の入った布袋を下げる。そして、部屋を出るとミゲムとサリヤがいた。
「どうしたの?」
「ラピス、大丈夫なのか?」
「うん、もうキテオさんには話してあったし、領主様にも話は行っている。もちろん僕も今から手助けに行くし、それに……」
「それに?」
「いまフォレスティアには王国騎士団の2人もいるからね」
俺がそう言って笑顔を作ると、ミゲムは「そんな顔するな」と俺をにらむ。
「まだ仲直り出来てないのか?」
「悪いけど、今は急いでいるから後にしてくれる?」
俺がそう言うとミゲムは「そうか」と呟く。
「どちらにしても自分で選んだ道を後悔するな」
俺は「うん」とうなずいて見せてから2人に「気をつけろ」「気をつけてね」と見送られて『金の鶏亭』を出た。
あれから俺は2人と話をしてない。だから正直どんな気持ちで2人が俺を監視していたのかなんて俺にはわからない。
それに…….わかりたくないんだ。
『友達だと思ってなかった』と突き付けられるのも怖いし『友達だと思ってた』と言われて本格的に敵対しなくてはならなくなったときに迷いたくない。
残念ながらウェインとプルはエルフを狩る者たち側の人間、それだけはもう確定なのだから……。
俺は『コンデンセイション』をかけて、板に乗ると磁力魔法で走り出した。
もう少しで門と言うところで鉄で補強された門の扉が兵士たちもろとも吹っ飛んで、兵士たちが地面に転がる。
俺は腰に下げた布袋の口を開いて砂鉄を出した。
ギュッと固めて先の尖った円柱型の砂鉄玉を10個作って、それを飛ばす。
ヒュン! と飛んでいった玉たちが、棍棒を振り上げていたオークの胸を突き破った。さらに門から入ってきた奴らも次々に貫く。
俺が門のところまで来ると、飛ばされて転がっていた兵士たちは立ち上がった。
「ラピス!」
「大丈夫、イコブのおじちゃん」
「あぁ、みんな怪我はしているが大丈夫だ」
「じゃあ、僕が時間を稼ぐから立て直して」
「悪いな、頼んだぞ」
イコブがそう言うので、俺はうなずく。
俺は板を横に置いておいて、再び引き寄せた砂鉄玉を飛ばして次に入ってきた奴らを撃ち抜いた。
門のところにオークの山ができると、ブォンブォンブォンと空から降ってきた何かを俺は地面を磁力で蹴りながら下がってよける。
すると俺がいた場所の地面に棍棒が突き刺さった。
「クッ」
俺はそうもらしながら横に飛ぶ。さらに後ろへ。
次々に降って来る棍棒をよけていると、入り口のオークの山を押しのけてオークが入ってきた。
もちろん俺は砂鉄玉でそいつらを撃ち抜くが、その撃ち抜かれた仲間を盾にしながらオークたちがドンドン雪崩混んでくる。
くそっ、多すぎる。
俺がそう思ったとき、風が吹いて空から降ってきていた棍棒が全て吹き飛ばされた。そして、入り口から入ってきたはずのオークたちも全て固まったように動かなくなった。
「ラピス、大丈夫?」
「うん」
ウェインとプルが俺の横に並ぶので、俺は小さな声で「ありがとう」と言った。
「無事なら良い」
「そうだね」
2人が「フフッ」と笑ったところで入り口で固まっていたオークたちが後ろからきたオークたちに粉々にされた。
ウェインが「来るぞ」と言うので、俺は「わかってる」と答える。するとプルは「うん」とうなずく。
そこからは3人で連携しながらオークが街に侵入するのを防いだ。そこにイコブたちも参加して、さらに駆けつけて来た冒険者たちが続く。
少しずつ俺たちがオークたちを押し込んで門の外に出ると、門の外ではルイラたちが戦っていた。ギールたちは一団になりながら戦っていたが、剣に火をまとわせたルイラは1人でオークたちを次々に切り倒していた。
「やるな、ルイラ」
「そうだね」
ウェインとプルがそう言ったが、ルイラは確かにすごい。
だけど、1匹のオークチーフの斧をルイラが剣で受け止めたところで、もう1匹の斧がルイラに迫る。
俺がグッとその斧を引き寄せた。
振り下ろそうとしていたオークチーフが斧に引っ張られてその場に尻餅をつくと、ルイラは受け止めていた斧を横にさばきながら流して、水平切りで尻餅をついているオークチーフの首を切り落とした。
ルイラの方はこれで大丈夫そうなので、とりあえず普通のオークはウェインたちに任せて、まだ戦いに参加していないオークチーフの斧を順番に空に打ち上げた。
急に斧を奪われて「グモォ?」と首をかしげながら空を見上げたオークチーフに急落下して来た斧が次々に突き刺さる。
もちろん俺が磁力魔法でオークチーフに向かうように引き寄せたから落下にその勢いが上乗せされた一撃なので、オークチーフたちは頭を砕かれたり、肩から深く斬られたりしてみんな倒れた。
「えげつないな」
近くでオークと戦っていたウェインが呟くので、俺は「どっちがだよ」と言っておく。
片っ端から首を切り落とされているオークたちだってえげつないことになっているからね。
そんな感じで少し大勢がこちらにかたむいて来たとき、そいつらが魔の森から出てきた。




