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報告とお願い②

 俺はルガドルにお礼を言って今度はメソルの工房に来た。もうすっかり暗くなっていたが、まだ工房内ではみんな作業をしていた。


 俺がのぞくとすぐにフィニが「ラピスさん、おかえりなさい」と寄ってくる。


「ただいま」


「早かったですね」


「うん、ちょっとトラブルがあってね」


 俺がそう言うとフィニが「大丈夫ですか?」と慌てるので「うん、大丈夫だよ」と笑って答えておく。


「それでさ、メソルさんに渡したいものがあるんだけど」


「親方ですか? ちょっと待ってくださいね」


 フィニが「親方!」と呼ぶと、メソルが自分の作業場の入り口からひょっこりと顔を出した。


「ラピスさん、早かったっすね。新しい武器はまだ出来てないっすよ」


「うん、ただいま。それでなんだけどさ、ちょっとチタンアントを狩って来たから使ってもらおうと思って」


 俺がそう言って笑うと、メソルは「チタン? 今、チタンって言ったんっすか?!」と走って来た。俺は勢いに押されながら「うん」とうなずく。


「どこっすか? どこにあるんっすか?」


 と言ったメソルが目を見開いて俺のリュックから飛び出した足をつかむ。そして、顔を近づけた。


「間違いないっす。チタンっす」


 もちろん「これだけっすか?」と聞かれたので「うん、そんな貴重だなんて知らないから冒険者ギルドに置いて来た」と答える。


 その言葉にメソルはうなだれた。


「どうしたの?」


「はい、キテオさんはがめついっすから吹っかけられて終わりっすね」


「そうなの?」


「そうっすよ。だって、こんな辺境の冒険者ギルドを切り盛りしているんっすからちょっとがめついぐらいじゃないと無理っす」


 確かにそうかもね。


「なんか、ごめんね」


「いや、1本だけでも持ってきてくれたんすから文句はないっす」


「そっか、じゃあさ。弾と武器に使ってあとはメソルさんが使って良いよ」


「なっ、本当っすか?」


「うん、そのかわりある程度の数の弾は作ってね」


 メソルはすぐに「もちろんっす」と笑った。


「それで、進み具合はどう?」


「そうっすね。もう少しで形にはなりそうっす。だけど試してみないとなんとも言えないっすね」


「そうだよね」


 なにせ磁力魔法で飛ばすから俺じゃないと試せない。なのに、頭で計算して形にしちゃうんだから、やっぱりメソルは優秀だ。


 チタンアントの足をメソルに渡して「じゃあ、また来るから」と俺が言うとメソルはチタンアントの足を大事に抱えながら「わかったっす」とうなずく。


「武器の出来上がりを楽しみにしていて欲しいっす」


「うん、楽しみにしとく」


 俺が帰ろうとするとフィニが「もう帰るんですか?」と言うので「うん、もう疲れたから宿でゆっくりするよ」と答えた。


「そうでしたね。お疲れさまです」


「うん、フィニもおつかれ。またね」


 俺がそう言って「はい、また」と微笑んだフィニに見送られて、俺はメソルの工房を出て『金の鶏亭』に帰る。


 荷物を置いてから銭湯に行って汗を流して、それから『金の鶏亭』の食堂で夕食を楽しむ。


 夜も更けてきて、食堂内にはお酒を楽しむ大人たちも含めて多くの客がいた。老夫婦はゆっくりと食事を楽しみ、豪奢な服を着た男の人が綺麗な女の子とお酒を飲んでいる。それに若いカップルもいたりして、今日も食堂の客席は満席だ。


 やっぱりミゲムの作る料理は美味しいね。


 俺はそんな風に思いながら端の方の席で料理を楽しんでいたのだが、なんとなく視線を感じて振り返る。すると、後ろの席でこちらを見ていたカップルがあからさまに視線を外した。


 うん?


 まあ、いいか。


 再び食事を楽しんでいるとピエルが寄ってきた。


「おい、ラピス」


「うん? どうしたの?」


「『どうしたの?』じゃねぇ、お前のせいでこっちは大忙しだ」


 ピエルがうんざりと言う顔で食堂を見回す。


「なんの話?」


 俺が首をかしげると、ピエルは「コホン」と小さく咳払いしてから俺の耳に顔を寄せてきた。


「お前目当ての客が増えたせいで、うちは大忙しなんだよ」


「えっと……」


 俺とピエルは見合う。


「それは『僕のおかげで宿が繁盛して助かるよ』って話?」


「お前は、アホか! 『お前のせいで俺が馬車馬のように働かされてかわいそうだね』って話だろうが」


 ピエルがそう言うので俺は「なるほど」と大きくうなずく。そして、忙しく食堂内を歩き回っているサリヤを見ながら「それは僕によその宿に行けってこと?」と聞いた。


 するとにこやかな笑顔で他のお客にワインを出していたサリヤがぐるっとこちらを向いた。


 でもピエルからは死角になっているのでピエルは「まあ、お前は嫌いじゃないが……」と続けたところでサリヤの手がピエルの頭を鷲づかみにする。


 ピエルが「へっ?」と言ったあとで「いたたた」と言いながらサリヤにバックヤードへと連行されて行った。


 うん、ご愁傷さま。


 そんなピエルとサリヤを見送った俺が気にせずに料理を楽しんでいると、周りから「クスクス」と抑えた笑い声が聞こえる。


 みんな無理に笑いを我慢しなくても良いんだよ。ピエルは自業自得だからね。

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