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ギルドの選択

 叫んだキテオは兵士たちの担いでいる布袋を見て「チタンはどれだ?」と聞く。


 兵士の1人がカウンターにドスンと置くと、キテオはその口を開いて中を確認した。


「確かにチタンだな」


 そう言ってなんどかうなずくと俺を見た。


「これを売ってもらえるのか?」


「うん、まあ、もちろん査定次第だけどね」


「そうだな」


「それから足2本だけは持って帰るから」


 キテオが「あぁ、わかった」とうなずいた後で、兵士たちは持ってきてくれた布袋はキテオの指示に従って、カウンターの中に運び込んだ。


 全部カウンター置くのは無理だもんね。


 兵士たちがチタンアントとアイアンアントの残骸をすべて運び込むと、その袋の中身をチラッと見たキテオが「査定は明日でも良いか?」と聞いてきたので、俺は「うん、それで良いよ」と答えた。


 帰っていく兵士たちを「ありがとう」と見送ると、キテオがカウンターから「それで、これはどこで狩って来たんだ?」と聞いてきた。


 俺はカウンター内のキテオに視線を戻す。


「それなんだけどさ、早めに解体と素材の回収のクエストを出して欲しいんだけど」


「数はどのぐらいだ」


「たぶんビックアントが1000匹以上」


 俺がそう言うとキテオは驚きもせずに「そうか」とうなずく。


「それで場所は?」


「カティウム山」


「なっ! グリシュア村は無事なのか?!」


 キテオがカッと目を見開くので俺は「うん、無事だよ」と笑う。


「だけど村の人たちだけではあの量の解体と素材の回収は難しいから冒険者たちにクエストを出して欲しい」


「そうか、報酬は?」


「売却額の3割」


「はぁ?! 馬鹿野郎、解体と回収とグリシュアからの運搬だけでそんな額は」


 眉間にシワを寄せてそこまで言ったキテオが今は誰も居なくなっていた酒場を見ながら「そう言うことか」とうなずく。


「エルフを狩る者たちのせいで、報酬を高額にしないと冒険者たちがクエストを受けてくれないと考えての事か?」


「うん、だってグリシュア村からのクエストも冒険者が誰も受けてくれなくて困ってたよ」


 キテオが「そうか」とうなずくので、俺は「あのさ」と眉間にシワを寄せた。


「いい加減あいつらはなんとかならないの? 今回のことだって冒険者が依頼を受けてグリシュア村に行っていれば、もっと早くビックアントの大発生に気がついていたと思うよ」


「そうなのだが……」


 キテオが苦々しく酒場をにらむので俺は続けた。


「僕がグリシュアの村に着いたら村の人たちにブラックベアの件を頼まれて、偵察に行ったらすぐにブラックベアとぶつかったビックアントのスタンピードが始まったよ」


 俺がそう言うとキテオは少し青ざめた。


「村の人たちには言わなかったけど、あのままだとグリシュア村は無くなってたと思う」


「ラピス……」


「言いたくないけどさ、エルフを狩るのと周りの村の安全を守るのと冒険者ギルドにとってどっちが大事なの?」


 もう夜になるのでギルドに併設された酒場にはいないが、きっと今日もエルフを狩る者たちはあそこで騒いでいたに違いない。


 キテオはギュッと歯を食いしばって「そうだな」とうなずく。


「お前の言う通りだ。冒険者は自由な仕事だけど」


 キテオはガシガシと頭をかく。


「自由だからって街や村を守らないのは違うよな」


「街や村がなければ、冒険者も面白おかしく生きれないもんね」


 俺が笑うとキテオも「フフッ」と笑った。


「わかった。周辺の村のクエストを優先にこなすように冒険者たちに勧告をだす」


 真剣な顔でキテオがそう言ってそれから顔をしかめた。


「だが、うちのギルドだけでは決められない。王都にある本部に願い出るから少し時間をくれ」


「うん、だけどさ、自由な冒険者たちを強制するのは少し無理があるね」


「そうだな……従わないで去る者もいるだろうな」


「騎士団に頼んだら?」


 俺がそう言うとキテオは目を閉じた。


「王国騎士団は被害が出てからでないと動いてくれない。それにルサヴェガス家の騎士団の騎士は3人しかいないし、まともに戦えるのはルイラ殿ぐらいだ」


「なるほどね」


 確かに魔の森の中の街道であったとき、ギールはまだ未熟な印象だったし、年配も騎士もギールを守ったからとはいえ、ゴブリンたちに遅れを取っていた。


 あれではとてもじゃないが兵士たちを率いても今回のビックアントの群れに対応できたとは思えない。


「ルイラ姉ちゃんは強いの?」


「あぁ、かなりの使い手だ」


「そっか」


 たぶん魔力はあまりないのだろうがイコブたち門の兵士たちも強いと思う。でもフォレスティアの街の守りにはルイラが必要だ。


 となるとやっぱり周りの村の安全を守るのは冒険者頼りってことになるね。


 騎士は簡単に増やせない。そもそも魔力の多い者が少ないから身体強化や集中を扱えるものが少ないし、扱えないと騎士とは呼べないからね。


 逆にウェインやプルみたいに魔力が多ければ幼くても騎士になれるが、どんなに鍛錬を重ねても魔力が少ないと判断されれば、前の俺みたいに騎士にはなれない……。


 そもそも身体強化してから魔法によるアシストで身体を動かしてくる騎士に、身体強化が出来ない者が真っ向勝負で勝つのは無理だ。


 からめ手や道具を使ったり、それこそ罠に落とせばまだわからないけどね。


 俺がそんなことを思いながらニヤニヤしているとキテオが「大丈夫か?」と聞いてきた。


「うん、大丈夫だよ。じゃあ、とりあえずは僕も頑張らないといけないね」


「あぁ、すまないな」


 キテオが頭をかく。


「イコブおじちゃんに言われたんだよ『力を何のために使うのか、考えながら生きていけ』ってね」


 俺がそう言って微笑むとキテオは「そうか」と顔をしかめた。


「お前にばかり頼ってすまないな」


 俺は「大丈夫だよ」とうなずく。


 うん、頑張らないといけないね。

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