帰還と謝罪
その日は村で宴が模様されて、遅くまでどんちゃん騒ぎになった。
もちろん子供の俺は飲めないが、代わりに村の大人たちが楽しそうに飲んでくれたから良いね。
このやろう。
ときどき酔ったおじさんたちに肩を組まれて絡まれたが、それと同じぐらい女の子たちにも絡まれたのでトントンということにしておく。
夜遅くまで宴会は続き、酔っ払いたちが村長の家で雑魚寝をしていたので心配になったが、みんな翌日はシャキリと起きて準備を始めたからさすがだ。
翌日は村のみんなで山に入り、朝早くから解体が始まった。
俺もアイアンアントとチタンアイアンの残骸を磁力魔法で引き寄せて運んだり、クイーンアントの解体を手伝うために同行したのだが、山に点々と出来上がったクレーターを見て村人たちは全員引いていた。
いつのまにか、みんなが俺のことを『ラピス様』と呼ぶようになったが恐怖からではないと思いたい。
全員で解体を行ったがもちろん終わるわけない。なにせビックアントが1000匹近くだし、巣から出て転がっているものはまだ良いが巣穴の中にもたくさんいる。
なので、俺はその日の昼過ぎにクイーンアントやチタンアントたち上位種の魔石とファイヤーラットの魔石150個、それからチタンアントとアイアンアントの残骸だけを持ってひと足先にフォレスティアに帰ることにした。
やっぱり村人だけでは終わらないから冒険者ギルドにクエストを出す。報酬は奮発しているし、若い冒険者たちには良い小遣い稼ぎになるから来てくれると期待はしている。
やって来た冒険者たちと協力してビックアントの素材などは少しずつ冒険者ギルドへ運んでもらい。ファイヤーラットの魔石350個はあとで狩りを行って集めてルガドル商会の方に届けてもらうことにした。
「本当にありがとうございました。ラピス様」
「うん、じゃあ、少しずつで構わないから後のことはよろしくね」
「はい、お任せください」
村長が頭を下げると見送りに来てくれた村人たち全員が「ありがとうございました」と頭を下げてくれた。
「うん、元気でね」
俺はそう言って村を出た。
あの板と磁力魔法を使った移動方法で高速で移動するのだが、磁力魔法で浮かせて引っ張っている布袋に入ったチタンアントたちの残骸が俺の後ろをついてくる。
砂埃を上げながら疾走していたら、たまに遭遇する人たちはみんな腰を抜かしていた。
うん、今度は魔物の群れに見えるもんね。
そして、フォレスティアの門が見えてきた。やばいので一旦離れたところで止まって、板を小脇に抱えながら俺が門に到着すると、イコブたちがぞろぞろと待っていた。
「うん?」
「やっぱり、ラピスか!」
「えっと、どうかしたの?」
俺が首をかしげるとイコブは「『どうかしたの?』じゃねぇ!」と怒鳴る。
「お前なぁ、街道でそういう新しい移動方法を使うときは報告ぐらいしとけ、新種の魔物騒ぎになってるぞ」
「あぁ、ごめんね」
俺が頭をかくと、イコブは苦笑いになった。
「それで、それはなんだ?」
イコブが、俺の後ろを指さす。
「これはチタンアントとアイアンアントの残骸。カティウム山にビックアントの大きな巣が出来ていたんだ」
「うん? お前は昨日出たばかりだよな? それでもう帰ってきたのか?」
「うん、あんまりにも巣が大きくて素材回収が村の人たちだけでは無理だから冒険者ギルドに素材回収のクエストを出そうと思って」
「いや、そうじゃねぇだろ? もう全部倒してきたのかって聞いてんだ」
「うん」
俺がうなずくとイコブは「チタンアントがいる巣ってどんな規模だよ」と呟く。
「ビックアントが1000匹以上か?」
「まあ、そんぐらいだと思う」
俺がそう答えると、イコブは「あはは」と笑ったが、あからさまに周りの人たちが俺から離れた。
兵士たちまで後ずさってるけど大丈夫?
「わかった、すぐにクエストを出してやれ」
「うん、わかったよ」
俺がうなずいて歩き出すとイコブが「待て、待て」と止める。
「どうしたの?」
「どうし……もう良い。その残骸はうちの奴らに運ばせるからそこにおろせ。そんな状態で街に入られたらパニックになるだろうが」
そこまで言ったイコブが「まったく」と笑うので、俺は「そうだね」とチタンアントとアイアンアントの残骸を下ろした。
若い兵士たちに残骸を運んでもらいながら俺が冒険者ギルドに入ると、冒険者ギルドはいつになくガヤガヤとしていた。
カウンターまで行く前にキテオが走ってくる。
「良かった、ラピス。頼みがある」
「なに?」
「街道に新種の魔物が出たらしい、まだ被害は出ていないが、放置はできん。お前にクエストを出すから討伐して来てくれないか?」
「あぁ、なるほどね」
俺が笑うとキテオは「笑い事ではないぞ」と言ったが、残骸を運んで来てくれた若い兵士たちもクスクスと笑い始めた。
「あのさ、キテオさん。それ、僕」
「はぁ?」
小脇に抱えていた板を見せて「これで移動してた」と笑うとキテオは「はぁ!?」と驚いた。
「では、本当にお前なのか?」
キテオがそう聞くので俺が「うん」と答えると、キテオはその場にへたり込んだ。
「なんか、ごめんね」
俺がそう言うと涙目のキテオが俺をにらむ。
「頼むからそういうことはあらかじめ相談しておいてくれ」
「うん、わかった」
俺がそう言うとキテオは怒りを押し込めるように「ふぅ」と息を吐いて、それからカウンターに向かい、職員たちに指示を出した。
「新種の魔物などいない。ラピスの悪ふざけだ。問題ない」
「悪ふざけ……」
「魔法ですか?」
「もはや、魔物なのではないですか?」
そう言った職員たちが俺を見るけど、まあ、仕方ないよね。
「まあ、そうかもしれんがとりあえず大丈夫だから、各所にそれを通達して来い。商業ギルドはパニックになっているだろうから、最優先だ」
キテオがそう言うと職員たちは慌てて出て行った。
うん、本当にごめんね。
俺がそう思いながらカウンターに向かうとキテオは珍しく仏頂面で「それで、その後ろの兵士たちが持っている物はなんだ?」と聞いてきた。
「うん、チタンアントとアイアンアントの残骸」
俺がそう答える。
「ちっ、ちっ、チタンアントだと!?」
キテオの叫び声が冒険者ギルド内に響き渡った。




