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グリシュア①

 メソルたちに武器をお願いしたあとで、フォレスティアを出発した俺はフォレスティアの北にある小さな山、カティウム山の麓にあるグリシュア村を目指していた。


 例の板の魔法道具と磁力魔法を使った移動は快適で、俺はありえないほどの高速で街道を移動している。


 ほとんど土の魔石で加速しながら進んでいるが、前方に砂鉄を展開して感知した障害物は魔法道具にしたゴーグルに点として表示されて事前にわかるので問題なくかわすことが出来る。


 問題があるとするなら途中ですれ違う人たちが砂埃を立てながら高速で移動してくる俺に慌てることだけだ。


 意味わからないだろうし、あんまりにも高速だから驚くのは仕方ないね。


 本当は大回りして街道を歩く人たちや馬車を回避できれば良いのだが、そんな都合の良い道はないのでしょうがないよね?


 なんて自分に言い訳したりしているが……なんとなくだけど、後で怒られそうな気もする。

 

 そして、街道を馬鹿みたいなスピードで疾走すること3時間ほどで俺はカティウム山の麓にあるグリシュア村まで来た。


 入り口にはもちろん人だかりが出来た。


 俺は少し手前で止まり板から降りてその板を小脇に抱えながら村の入り口である木の門に近づく。


「すみません。フォレスティアから来ました冒険者です。魔物ではないので安心してください」


 俺は手を上げながらそう言ったが、返事は帰ってこない。なので、俺が「あのぉ」と言うと、周りから押し出されたそのおじさんが「あっ、あなたは、ひっ、人なのですか?」と聞いたので「はい」と元気よく答えたら、なぜかみんなが後ずさった。


 うん、そこから村人たちはガヤガヤと意見が交わしていたが、さまざまな意見はすべて1つの結論に集約される。


『どう考えても怪しい』


 うん、確かにね。


 俺は訳のわからない板を小脇に抱えた子供だし、砂埃を上げながら近づいて来たし、ゴーグルで顔も見えないし……そうだね。


 俺がそこでゴーグルを外すと、1人の男の人が「あっ」と言った。


「あの子は石火のラピス、ウィルッチの英雄だよ」


 すると、時が止まったように村人たちが動きを止めた後で「うぉぉぉぉぉぉ!」と誰かが雄叫びをあげると次々に神に感謝を捧げ始めた。


 うん? 助かった? 神に感謝? 見捨ててなかった? なにそれ?


 俺が首をかしげると寄って来た村人たちにもみくちゃにされながら村長の家まで連行される。


「あのさ、良いんだけど、誰か説明して」


 村人たちの勢いに押されるままに広間へと通されて座らせられて、俺の目の前に村長らしき人が座る。


 えっと、それはわかるんだけどさ。


「なんで僕が上座なの?」


 あからさまに一段高い場所に座らせられて、村長と村の人たちは僕の対面に全員正座で並ぶ。


 いやな予感しかしないよ。


 案の定「お願いします」と村長が床に頭が付くほど頭を下げると村人たちも続いて頭を下げた。


 やっぱりかぁ。


「出来ることなら力になるけど、内容を聞かないと返事できないよ」


 俺が苦笑いを浮かべると村長は顔を上げて「話は聞いて頂けるのですか?」と言う。


「困っているんでしょ? とりあえず困っている内容を教えてくれる?」


 俺が首をかしげると村人から「おぉ」と声が上がった。


「実はカティウム山に住むブラックベアが最近、村の近くまで降りて来ていまして、山に入る者を襲うので山に入ることが出来ずに困っております」


「そっか、ギルドに依頼は出したの?」


「はい、出したのですが冒険者たちはみんな忙しいと言って引き受けてくれなくて」


「忙しい?」


「はい、エルフの件です」


 なるほど、みんな割の良い仕事があるからわざわざここまで来ないのか。


「わかったよ。じゃあ、僕はそのブラックベアを倒せば良いんだね」


「いえ、出来れば山の奥に追い払ってもらいたいのです」


「追い払うだけで良いの?」


 村長は「はい」とうなずく。


「どうしてか、聞いても良い?」


 俺が首をかしげると村長は頭をかいて「ブラックベアはカティウム山の守り神なのです」と言った。


「魔物にも生態系がございます。そして、カティウム山の生態系のトップはブラックベアなのです」


「つまり、ブラックベアがいなくなると他の魔物が増えるってこと?」


「はい、それだけではなく。もっと恐ろしい魔物が住み着く可能性もあります。ブラックベアは強いですが、近づきさえしなければむやみに人を襲いません」


「ブラックベアなら互いに距離さえ取れば、住み分けられるってことだね。でもさ、ならなんで降りて来たのかなぁ?」


 俺が聞くと村長は「わかりません」と顔をしかめた。俺はそれに「そうだよね」とうなずく。


 とりあえず行ってみないとわからない。


「わかった。じゃあ、僕は山に行ってみるからさ、お願いがあるんだけど」


 俺がそう言うと村長は助手のような男の人と顔を見合わせた。


「なんでございますか?」


「ファイヤーラットの魔石を500個集めてくれない?」


「ごっ、500ですか?」


「うん、今回はそのために来たからね」


 俺がそう言うと村長は村人たちを見渡す。すると村人たちは「やろう」とか「ファイヤーラットなら俺でも倒せる」とか言い出した。


「わかりました。我らで集めます」


「うん、じゃあ、ブラックベアを追い返す報酬と相殺で良い?」


 俺が聞くと村長は「えっ?」と驚いた。


「よろしいのですか?」


「良いよ」


 俺は笑ってみせてから「500個を越えたら買い取るからみんなで稼いでね」と言った。それに村人たちは「うぉぉぉ」と盛り上がる。


 うん、ばっちり稼いで欲しい。


 それにたぶんあの魔法道具は売れると思うからこれからも魔石は必要になる。ルガドル商会の仕入れ先として村の産業になったら良いよね?

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