武器①
翌日、俺は再びメソルの工房を訪ねた。
朝早くから工房では若い子たちがみんな作業をしている。俺が入り口から中を覗くとすぐにフィニが気づいて「おはようございます」と寄って来た。
「おはよう、フィニ」
「どうしたんですか?」
「うん、もう1つ頼みたい物があるんだけど、メソルさんは忙しいよね?」
俺がそう聞くとフィニは「大丈夫だと思いますよ」と笑った。
「本当に?」
「はい、ちょっと待ってて下さいね」
フィニがそう言ってメソルを呼びに行くと、メソルは奥の作業場から顔を出した。
「どうしたっすか?」
「うん、もう1つお願いしたい物があるんだ」
「良いっすよ、どうぞ」
メソルがそう言って手招きしながら呼ぶので、俺は弟子たちの作業場を通ってメソルの部屋に入った。勧められるままに作業台の椅子に座り、向かい合う。
「それでどんな物っすか?」
「うん、まずはね、丈夫な矢尻を作って欲しいんだ」
俺は腰に下げている布袋から砂鉄を出して矢尻の形を作った。
「今は魔法で砂鉄を固めているんだけどさ、まだ魔法の精度が甘いから強度が出ないんだ。だから、硬い物を作ってもらおうかと思って」
「なるほど、硬い物……繰り返し使うならただ硬いだけじゃなく少し粘りのある魔銀が良いと思うっすけど」
「魔銀はダメなんだよね。僕の魔法に反応しないから弾けないんだ」
俺がそう言うとメソルは「そうっすか」とうなずく。
「じゃあ、先の方だけ魔銀にして、他は魔鉄で作ったらどうっすか? 魔鉄が弾ければ撃ち出せるっすよね?」
「うん、それなら弾けると思う」
「それに魔銀ならアンデッドに特攻の効果があるっすから矢尻にするなら良いと思うっすよ」
俺は「うん」とうなずいた後で、今度は砂鉄で筒を作った。
「あともう1つはさ。こんな感じの筒を作って欲しいんだ」
「これは何に使うんですか?」
「うん、いま僕は磁力を矢尻の周りに螺旋に展開してそれに矢尻を反発させながら加速して撃ち出しているんだけどね」
「それを鉄の筒で行うわけっすね?」
「うん、あらかじめ筒があればそれに魔力を通して反発させるだけで済むかと思って」
俺がうなずくとメソルは腕を組んで「うーん」と考え始めた。
「正直作ってみないとわからないっすね。やってみるっすか?」
メソルがそう言うとちょうどお茶を持って入ってきたフィニが「手伝います」と言う。
「そうっすね。じゃあ、お願いするっす」
メソルがそう答えて、フィニは嬉しそうに「はい」と返事した。
だけどさ……。
「あのさ、頼みに来といてなんだし、2人がやる気になってくれるのはうれしいんだけどさ、他の仕事は大丈夫なの?」
「大丈夫ですよ。このまえラピスさんから教えてもらった魔法のメモを見せる代わりにみんながやってくれてますから」
なるほど、そう言うことか。今日はやたらと弟子の人たちが静かだと思ったら、そんな取り引きが行われていたからなのか。
「大丈夫なら良いけどね」
俺がうなずくと、そこからメソルとフィニがすぐに矢尻と筒を完成させて、俺たちは試し撃ちのために裏庭に移動した。
筒に矢尻をセットして、磁力魔法で加速させながら撃ち出す。磁力で加速した矢尻はなかなかの速さで飛んでいって、パン! と的を破壊したが、何発か繰り返して試し撃ちをしているうちにメソルは「うーん」と腕を組んだ。
わかるよ、矢尻を安定して撃ち出せずに速かったり遅かったりしてしまっているもんね。
「見せてもらった感じだと矢尻型よりも弾は円柱形の方がいいかもしれないっすね」
「円柱形?」
「そうっす。円柱形の方が筒からの魔力が均一に伝わるっす」
そう言ってメソルが地面に書いた先が尖った円柱形を真似して砂鉄で作ってみた。そして、それを撃ち出すと速度が安定した。砂鉄で作ったから脆いけど、確かに矢尻型より良い。
「良さそうっすね」
「うん」
俺がうなずくとメソルは笑った。
「物足りないみたいっすね」
「正直に言うとね」
「フィニは何か気がついたっすか?」
メソルが聞くとフィニは「物理的にも押したらどうですか?」と答えた。
「弓やスリングみたいに物理的に押し出しながら魔法で加速したらもっと速くなるんじゃないですか?」
「そうっすね」
メソルはそう言いながら俺を見て、それからうなずく。
なに?
「ちょっと待ってもらえるっすか?」
メソルはそう言うと部屋に戻って小さなハンドボーガンを持ってきた。全て金属で出来ていて、小さな金属の矢をセットすると俺に渡す。
「これに魔法をかけて撃ってみてほしいっす」
「わかったよ」
俺はうなずくと磁力魔法をかけてから引き金を引いた。放たれた矢が勢いよく的に突き刺さる。
「魔法で加速はしたっすね……」
そう呟いたメソルはしばらく的をにらんだままでブツブツと口の中で何かを呟いて、それから俺を見た。
「ちょっと弾を撃ち出せる物を作ってみるっす」
そう言ったメソルは作業場に戻ると、筒にハンドルを付けて、さらにバネを使った発射装置をつけた。ハンドルを握って人差し指で引き金を引くとバネで弾が押し出される仕掛けだ。
磁力魔法をかけないと少し飛び出す程度だけど、それでも勢いはつきそうだ。
メソルがそれを作っているあいだにフィニはメソルの指示通りに円柱形の弾を作った。尖った部分は魔銀で作り円柱の部分は魔鉄だ。
そして、俺たちは再び裏庭に出た。
筒の先から逆向きに弾を入れて、ハンドルを握って構えると磁力魔法をかけてからスイッチを引く。
弾が撃ち出された。
ひゅん! と加速して、分厚い鉄の的を射抜いた。
「うん、近づいた」
「そうっすね」
メソルが「あとは……」と腕を組んでしばらく考えたあとで俺を見た。
「すまないっす。2、3日もらえるっすか?」
「うん、忙しいのにごめんね。お願い」
「お互い様っすよね? ラピスさんがグリシュアから戻って来たときには、試してもらえるレベルにしておくっす」
俺は「ありがとう」と言ってメソルの作業場を出る。
さてと、じゃあ、行くとしますか?




