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ゴーグル③

 ゴーグルの調整が終わり、まだ日も高かったので俺とメソルとフィニはルガドル商会まで来た。


 店舗スペースの女の子に声をかけるとすぐにルガドルとイスティが出て来たが、イスティはすでに板を小脇に抱えている。


「遅いですよ、メソル」


「姉さん、そりゃないっすよ。こっちは特急の早さでしあげたんっすよ」


 そう言ってメソルが俺の頭を指さす。


「おぉ、良い感じですね。ではテストに行きましょうか?」


 ワクワクした表情でイスティが言ってメソルは「リアクションが薄いっす」と苦笑いを浮かべた。


 そして、またフォレスティアの北にある街道で魔法道具の板とゴーグルのテストが行われる。


 結果はいい感じ。


 速度は抑えられて体感で馬の3倍以上の速さだけどゴーグルのおかげで前は見えるし、イスティが魔法陣の修正をしてくれたおかげで取り回しが楽になって曲がりやすくなった。


 これならなんの問題ないね。


 俺はそう思っていたのだが、メソルは眉を寄せた。


「視界が確保されている場所なら問題ないみたいっすけど、森の中とか視界が確保されてない状況でいきなり目の前に魔物とか人とかが出てきたらやばいっすね」


 確かにそうかもしれないけど……。


「解決策はあるの?」


「いや、ないっすね」


 メソルは首を横に振り、イスティもそれに続く。


「強いて言えば遅くすることでしょうけど……」


 イスティはそこまで言うと眉間にシワを寄せた。


「これ以上ランクの低い魔石にすると加速はあんまり期待できないですね」


「そっか、魔石のランクもあるのか……」


 俺がうなずく。


 そうだよね。こちらの都合の良い魔石があれば良いがそうとは限らないのだろう。


 それにどうせ加速するならさっきぐらいの速さが欲しいね。それこそ馬や狼などの魔物とこの板に乗りながら戦闘することになったときに、速さが足りなくて遅れを取りたくない。


 うーん。


「視界の良いところでは加速して、他は普通で進めば良いっすね」


「そうだね。それに試してみたいことがあったからその魔法で視界を補ってみるよ」


「視界を補うってどうやるんすか?」


「うん」


 俺はうなずいてから腰に下げた布袋の口を開いた。そして、砂鉄を出して浮遊させる。バラバラと散らばせると、一粒一粒を視界では捉えられないほどに広がった。


「さっきの砂鉄には僕の魔力を通してあるから触れた物を感知出来るんだ」


「なるほど、それを前方に広げておけば障害物がわかるっすね」


 メソルが笑ったが、イスティは口の中でぶつぶつ言い出した。


 うん?


 そして、その場の地面に術式を書き出し始める。それをメソルと並んで黙って見ていたら、フィニが「もしかして感知の視覚化ですか?」と言い出した。


「感知の視覚化?」


「そうです。登録した魔力の感知を視覚化して表示してくれる魔法道具があります」


「あぁ、なるほど、姉さんはそれをラピスさんの魔力で出来ないのか、考えているんすね」


「でもさ、魔法道具を見ながらなんてとてもじゃないけど加速したら無理だよ」


 俺が言うとメソルが「そこはあるじゃないですか? ちょうどいいのが」と俺の頭を指さした。


「ゴーグル!」


「そうっす。姉さんが書いているのを見ると、レンズに表示するつもりらしいっすね」


 まだぶつぶつ言いながら書いているイスティを見ていたら、それまで黙っていたルガドルが頭をかいた。


「すみません。こうなると周りの音が聞こえなくなるみたいで、しばらくすると戻って来ますんでしばらくお待ちください」


「うん、大丈夫だよ」


 俺が答えるとメソルは「姉さんの集中力は半端ないですからね」と笑って、フィニは目を輝かせながらその様子を見ていた。


 まあ、このモードのイスティは確かにカッコいいね。


 しばらくしてニヤリと口角を上げたイスティは「出来ますね」と呟く。


 そして、グルリと顔だけこちらに向けて俺を見た。


「ラピス君、今晩は寝かせませんよ」


「あのさ、そういう誤解を招くような言い方はやめてくれる?」


 俺はそう抗議の声を上げたのだがイスティが「なんですか?」と首をかしげるのでルガドルを見ると『諦めろ』って顔をして首を横に振った。


 えっと?


 そして、メソルを見ればメソルは苦笑い、その隣のフィニはイスティのように首をかしげる始末。


 おいおい、職人系の女の子たちはやばいな。


 俺が「あはは」と笑うとイスティに腕をつかまれてルガドル商会まで連行される。途中でメソルが「自分たちはこれで失礼するっす」と言い出した。


「おい、メソルさん、それは無いんじゃないの?」


「いや、ラピスさん、自分たちだって他にも仕事はあるし、遊んでられないんすよ」


 俺が「そうだよね」とうなずくとフィニが「親方はしばらく……」と言ったところで「やめるっすよ、フィニ!」とメソルが慌てる。


 だけどフィニは「ラピスさんの仕事に専念するからって他の仕事を全部弟子に振ったじゃないですか?」と暴露した。


 なるほど、だから弟子たちのメソルに対するあたりが強くなってたんだね。


 俺がうなずくとメソルは「フィニの分を手伝おうかと思っていたけど手伝いはいらないんすね」と笑う。


「フィニはずいぶんと遊んでいましたが納期は間に合うんすか?」


 おいおい。


「親方、すみませんでした。頼みます、少し手伝ってください。本当に無理です! お願いします!」


 フィニがそう叫びながらメソルにすがりついて、2人は帰って行った。


 フィニ、そいつが師匠で本当に大丈夫なのか?


 俺はそんな風に思いながらイスティに連行されて遅くまでゴーグルの魔法道具化に付き合った。完成したときにはずいぶんと遅い時間になっていて『金の鶏亭』ではサリヤが仁王立ちで待っていた。

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