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ゴーグル②

 炉に火が入れられている。俺は師匠と弟子が作業する様を少し離れたところから見ていた。


 うん、かっこいいな。


 正直なんの作業をしているのかはわからないけど、それでも職人が真剣に作業している姿は見ていられるし、魅入られる。


 だけど、時間がないからね。俺は俺のやるべきことをするべきだ。


 なので『コープス・サプリメント』で身体強化の練習をした。プルに教わってからは暇さえあればこれをやっている。魔法陣を頭に描きながら詠唱して身体強化が出来たら一度解いて、また同じように思い描きながら詠唱する。


 俺に欠けている基本の反復練習。


 ありがたいことに魔力量はありえない量らしいからいくらでも練習出来る。何度も繰り返し練習していて気がついたらフィニが近くで見ていて口をあんぐりと開けていた。


 うん?


「どうしたの?」


「ラピスさんはなんの練習をしているのですか?」


「身体強化って言って魔法で体のアシストする前の下準備だよ」


「下準備……」


 そう呟いたフィニは「それは誰でも出来ることですか?」と聞いて来た。


「どうだろうね。ある程度魔力量がないとダメらしいけど」


 俺が首をかしげると「教えてもらえますか?」と言った。


「構わないけど、何するつもり?」


「えっと、槌を振るのに使えないかと思いまして」


「なるほどね、良いよ」


 俺がそう言うとフィニは「良いんですか?」と驚く。


 うん、俺もプルがあっさり『良いよ』と言ったときは驚いたからね。だけどさ、俺もプルにあっさり教わったんだから、フィニにもあっさりと教えてあげた方が良いよね。

 

「とりあえず教えるからやってみたら?」


「はい、ありがとうございます」


「ところでゴーグルの方は良いの?」


「大丈夫です。あとは親方がやるそうですから」


 フィニはそう言って笑った。


 まあ、フィニが良いなら良いね。


 俺はメソルから紙をもらって、そこに魔法陣と呪文を書く。そして、やってみせた。


「どう?」


「わかったと思います」


 そう言ったフィニが試しにやってみたけど、やっぱり出来なかった。詠唱の滑舌や魔法陣の正確性の問題ではなく、そもそも魔法として発動していないようだ。


「魔力量が足りてないのかぁ」


「そうですね。だけど、ラピスさんはこれを連発しているんですよね?」


「そうだよ」


 俺がうなずくとフィニは呆れ顔になった。


「残念だけど仕方ないですね。出来ないことは出来ませんから」


「そう……だね」


 俺はニッコリ笑ってみせた。そして、フィニがメソルのところまで歩いて行くのを見ながらまた身体強化の練習を繰り返す。


 出来ないことは出来ない。確かにそうだと思うのだが、諦められないこともある。フィニにとって身体強化がそれではなかったというだけの話だね。


 俺が手を見ていると出来上がったゴーグルを持ってメソルが歩いて来た。


「どうしたっすか?」


「メソルさんはさ、出来ないことがあったときどうする?」


「うーん、それは出来るやつに頼むってのは無しっすよね?」


「うん、出来たら自分でなんとかしたいんだけど」


「そうっすね。じゃあ、道具を使うっすね」


 俺が顔を上げてメソルを見るとメソルはニッと笑った。


「自分では出来ない。人にも頼めない。それなら道具を使って実現するっす。とりあえず出来れば良いんですから手段はなんでも良いっすよね?」


「そうだね!」


 俺は勘違いしていた。手合わせで勝てなくても、実戦はそうじゃない。いろんな要素もあるもんね。道具を使ったら卑怯とかそういう話ではない。


「道具かぁ。ありがとう、メソルさん」


「いえ、力になれたなら嬉しいっす」


 メソルはそう言って頬をかいた。


「弟子に、その……魔法を教えてくれてありっす」


「でも、出来なかったから無駄だったよね」


「無駄じゃないっすよ。少なくとも出来ないってことを知れたし、あとは出来ないと諦めるか、なんとか出来ないかと工夫するかは彼女次第っす」


「確かに」


 俺はうなずく。


「メソルさんはやってみないの?」


「あぁ、俺は2人がやるのを見てたっすから、あとで紙を見せてもらってやってみるっすよ」


 メソルはそう言って頭をかいた。


 俺は出来上がったゴーグルをかけてみて、それから微調整が行われた。


 隙間ができると風が入って来ちゃうもんね。


 何度も合わせてみてはメソルが細かい調整を行なって、少しずつ俺の顔に合わせていく。


「メソルさん、これも魔法道具にすることって出来るの?」


「魔法道具ですか?」


「うん、あの板にやったみたいに」


「あぁ、魔法道具には出来ると思うっすよ。それでどんな効果が欲しいんっすか?」


「うん、例えば『コンデンセイション』だね。これをかけると集中力が上がるみたいな」


 俺がそういうとメソルは「うーん」とうなる。


「そんな魔法道具はちょっと聞いたことないっすね。その魔法の属性と合う魔石、魔法陣があれば理論上は出来るはずっすけど」


「ないってことは無理ってことかな?」


「どうっすかね? あとで姉さんに聞いてみたらどうっすか?」


 メソルはそう言って「それから」と続ける。


「姉さんが前にあまりにも魔法が複雑だったり、魔法の属性がレアだったり、必要となる魔石の大きさがありえない大きさや数だったりすると実現は不可能って言っていたっす」


「そっか、ありがとう」


 確かになんでもかんでも魔法道具に出来るのであれば、ほとんどの魔法が魔法道具化されていてもおかしくないもんね。


 きっと集中も身体強化と一緒で必要とする魔力量が多いんだね。


 俺がそんなことを思っているうちにゴーグルの調整が終わった。

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