移動手段③
新しく作った板の試運転は街中では危ないということで、フォレスティアの街の外の街道に来た。
イスティは頑なに「街中でも大丈夫」と繰り返したが、ルガドルが「なにかあったときに責任を取れない」と首を縦に振らなかった。
確かにそうだよね。
なので、フォレスティアの北側にある草原に挟まれた真っ直ぐな街道に来た。この道はあまり使われることもないそうで、見渡す限り人もいないので試運転にはうってつけだと思う。
「ではさっそく、やっちゃいましょう」
イスティがワクワクした顔でそう言って、メソルが「骨は拾ってあげるっすよ」と苦笑いを浮かべた。
あのさ、縁起でもないこと言わないでくれる?
「じゃあ、やってみるね」
俺が『コンデンセイション』をかけてから板に乗り、磁力魔法で浮かせる。庭の時と変わらないのだが、やっぱり魔法陣のおかげで魔法のかかり具合が良い。そして、板を動かすと確かにスピードは庭で試したときの倍ぐらいの速さが出た。
スムーズに進んで、カーブも滑らかだ。
磁力の反発を使えばブレーキも効くし、このままですでに街中を走る馬車ぐらいのスピードが出ている。
おぉ、良いね。
俺がニコニコすると、メソルが「良さそうっすね」と笑い、イスティが「やっちゃってください」と笑う。
それに俺がうなずいて、魔石に魔力を込めると板は加速した。
ぐっ。
「うっ、うぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
板が一気に加速して、体が後ろに持っていかれたまま、景色が線になって流れて行く。
そして、磁力魔法の反発を使って止めたが、板が急に止まったせいで今度はギュンと体が前のめりに吹っ飛んだ。そのまま地面に体から突っ込んで何回かバウンドして、数メートル地面を削ってから止まった。
「あはは、あははは、あはははははは」
変な笑いが出て、空を見上げた。
うん、生きているけど、身体中が痛い。腕も足も折れた。本当に痛い……。
数分後、慌てて走ってきたルガドルが俺を覗きこむ。
「大丈夫ですか? ラピス君」
「うん、大丈夫じゃないけど、生きてる」
俺が笑ってみせると、ルガドルはカバンからポーションを出す。
「これを使ってください」
「うん、ありがとう」
「早く、飲んでください」
「えっとね。手が使えない」
俺がそう言うと「はぁ?!」と驚いたあとで、ルガドルは俺の口にポーションを流し込んだ。
傷がみるみる回復していく。そして、俺が立ち上がると歩いてきたイスティがルガドルに怒られた。
「だから言っただろ? お前はなぁ」
「でもさ、ラピス君なら大丈夫だと思ったんだもん」
「でもじゃねぇ!」
突き抜けるほどに青い空に、ルガドルの怒鳴り声が昇って行く。
でもさ、あの速さで移動できたらすごいよな。
「もう一度、やってみても良い?」
「「えっ?」」
ルガドルとメソルが驚いた後に呆れ顔になって、イスティだけが「良いですよ」と答えた。
「本当にやるんですか?」
「そうっすよ。ラピスさん、今さっき死にかけたんすよ?」
「うん、だけど一度やって速さはわかったから、今度は油断しないよ」
「ってか、油断してたんっすか?」
メソルが呆れてそう言ったが、俺は曖昧に笑っておく。
「やばいっすね、この人」
メソルがそう言ってルガドルを見ると、ルガドルは苦い顔をして「あぁ」と答えた。
「なにせ、この年でゴブリンリーダーがいる巣を1人で壊滅に追いやり、シルバースケルトンにレッドウルフまで狩るような人だからな」
ルガドルがそう言うとメソルは「そうだったっすね」と苦笑いを浮かべた。
俺は板に乗った。
磁力魔法で普通に少し動かしてから中腰になって重心を下げる。そして、少し前傾になって魔石に魔力を込めた。
ぐぅ。
すぐに魔力でブレーキをかけたけど一瞬で試運転を始めた辺りまで来てしまった。やっぱりこれは速過ぎて危ないね。それに、風で視界が確保できない。
うん、曲がれないよ、これ。
俺がそんなことを思いながら足下の板を見ていると、歩いてきたイスティが「どうですか?」と声をかけて来た。
「うん、無理だね。速すぎるし、前が見えないから曲がれないし、人や馬車がいても避けられない」
俺が答えるとイスティは「そうですか」と肩を落としたが、メソルは「という事はゴーグルが必要っすね」と笑う。
「ゴーグル?」
「そうっす。前に風魔法で空を飛んでいた人が付けていたメガネみたいなやつっすよ」
メソルはそう言いながら自分の目の周りに手をメガネみたいにしてあてる。
「それって作れる?」
「そうっすね、めがねの周りを金属で囲って……今から帰ってやってみせるっすか?」
メソルがそう言ってサムズアップする。
「うん、お願い」
「良いっすけど、出来ればラピスさんもうちに来て欲しいっす。目の周りに合うように調節するっすから」
「わかった。よろしくね」
これで視界は確保出来そうだね。あとは……。
「じゃあ、イスティさんはこれを3分の1ぐらいのスピードになるように魔石を替えてくれる?」
俺がそう言うとイスティが顔をバッと上げて「お任せください」と笑った。そして、すぐにブツブツと言いながら魔石の候補を頭の中で考えている。
なんとも魔法道具師らしいけど、ちょっと怖いよ。
そして、ルガドルたちとは街の入り口でわかれてメソルと一緒にメソルの工房に向かった。




