移動手段②
廃屋でルシアと話をしたあとで、俺はルガドル商会に来た。店の方にまわり店員の女の子にルガドルを呼んでもらう。すると、ルガドルはすぐに来た。
「ラピス君、大丈夫ですか?」
「うん、ありがとう、ルガドルさん」
「そうですか、それなら良かった」
ルガドルが微笑むと一緒に来た男の人がチラチラと俺を見ながらそわそわとしている。
うん?
「兄さん、早く紹介して欲しいっす」
「メソル、慌てるな、物には順序ってもんがあるだろ?」
「そうっすけど」
メソルがもじもじとするので、ルガドルは「はぁ」とため息を吐いた。
「すみません、ラピス君。これがこのまえ話した鍛冶師なんですけどね。腕は良いのですが、なにぶん子供っぽくて」
「兄さん、そんな言い方はひどいっす」
メソルがルガドルに抗議する。
「僕はラピス。よろしくね」
「メソルっす。よろしくっす」
メソルはそう言って笑ってから「さっそくなんっすけど」と続けた。
「お話を頂いた板が出来たんで試して欲しいっす」
「うん」
俺がうなずくとメソルはサッと俺の手を取って中庭に連れて行った。そして、魔鉄で出来た板を持ってくる。
おぉ、カッコいいね。
角が丸い長方形で足を引っ掛ける場所もあるし、大きすぎず小さすぎないちょうど良い大きさだ。これなら足を開いて乗ってちょうど良さそうだ。
それを庭に置いたメソルは俺を見た。
「ラピスさん、どうっすか?」
「思った以上の出来だよ。ありがとう」
俺はその場で『コンデンセイション』を唱えてから、板に足を乗せて板に磁力魔法をかけた。フワッと板が浮かんだのでスッと地面を滑るように動かすと、メソルが「うわっ」と声をあげた。
「うん?」
「マジっすか?! ラピスさん!」
「どうしたの?」
「すげぇっす! マジですげぇ」
メソルが興奮気味にそう言って、それからは俺が試運転するのをブツブツ言いながら見ていた。裏庭を使っての試運転、正直に言って板はすごく良かった。
移動もスムーズだし、身体を傾ければカーブも滑らかに曲がれる。強いて言えば……。
「移動手段にするなら加速が弱いっすね」
「うん、出来たらもう少しスピードが欲しいね」
「そうっすよね。街中は今の倍、街道を走るときは今の6倍は速くしたいっす」
「あのさ、それって馬よりかなり速いよね?」
俺が聞くとメソルは「当然じゃないっすか」と笑って「馬なんてぶっちぎってやるっすよ」と言った。
「それで当てはあるの?」
「そうっすね……」
メソルが腕を組むと「メソル、そう言う時こそ魔法道具よ」とイスティが作業場から出てきた。
「姉さん」
メソルがイスティを見たあとで「そうか、土の魔石」と呟いた。
「そう、板全体に魔法陣を引いて土の魔石をセットしておけばラピス君の魔法を強化できるはずよ」
「確かにそれなら速くなるっすね」
うなずいたメソルは俺を見た。
「ラピスさん、今日は暇っすか?」
とメソルが言った瞬間にルガドルが「馬鹿!」とメソルの頭を平手で叩く。
「そう言うときは『お時間ありますか?』と聞けといつも言ってるだろうが」
「だけど、兄さん。時間があるってのは暇ってことっすよね?」
「違う!」
ルガドルはバッサリと切ったあとで、目のあいだをつまんで揉んだ。
「頼むから少しは成長してくれ」
「兄さん、それは無理っす。俺はもう大人だからこれ以上は成長しないと思うっす」
「体の成長じゃねぇ!」
ルガドルが叫んだあとで、イスティとメソルはそれを気にせずに板に加工をして行った。仕方ないので俺とルガドルも付いて行く。
イスティの作業場で板全体に丁寧に魔法陣を掘り込んで、それから魔石をセットする。
「姉さん、それってチタンマルマジロの魔石っすよね?」
「そうだよ」
「それを使うんっすか?」
「どうせやるならこれぐらいのを積まないと」
「いや、いくらなんでもそれは……」
メソルが顔が引きつらせるが、イスティは「大丈夫よ」と微笑む。
本当に大丈夫なのか?
「あのさ、僕は死にたくないから安全な物にしてよ」
「わかっていますよ」
イスティは『なにを当たり前なことを言っているんですか?』と言う顔をしたが、まったく信用出来ない。
「やり過ぎてないよね?」
「もちろんですよ」
「いや……」
イスティとメソルの反応が真逆なのがマジで恐ろしいのだが、残念ながら魔石がつけられて板が完成してしまった。
だけどさ、全体に魔法陣が施されて、魔石もついたのでさらにカッコ良くなった。
「大きい魔法陣で全体の魔力効率を上げているので、普通に魔法を使ってもさっきの倍ぐらい速くなっていると思います」
イスティがそう言って微笑むとメソルが「小さい魔法陣が」と続く。
「加速なんすけど、正直やばいっす。やめた……」
メソルがそこまで言うとイスティがメソルの口を塞いだ。メソルがもごもごと何かを言っている。
「おい、イスティ。魔石を替えろ、ラピス君が死んでからでは遅いぞ」
ルガドルがそう言う。
うん『死ぬ』ってのがシャレじゃなさそうで怖いが、イスティは「そんな……」と肩を落とした。そして、うつむきながら何故かチラチラと俺を見る。
俺は「はぁ」と息を吐いた。
「それって、どれぐらいやばいの?」
「たぶん、さっきの10倍は速いっす」
解放されたメソルがそう答える。
「速いだけ?」
「そうすっね。爆発したりとかはしないっすよ」
「そっか、じゃあ、とりあえず試してみようか?」
俺がそう言うと項垂れていたイスティが顔を上げて「ありがとうございます」と笑う。
うーん、ちょっとかわいそうかなぁと思ったけど、なんとなくまずかった気がするね。




