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聖女②

 翌日、手紙で指定された小さな廃屋にくると、ルシアが待っていた。


 俺を見て顔を歪ませる。


「ごめんなさい」


「なんでルシアが謝るの?」


「だって、あたしのせいでしょ?」


 そう言われて、俺は思わず「プフッ」と笑ってしまった。


「なんで笑うのよ」


「うん、僕と同じだなぁって思ってさ」


 ルシアは「なにそれ?」とふくれる。


「実際にルシアがやったことじゃないだろ?」


「そうだけどさ、あたしがエルフを狩る者たちを襲ったからこうなったんじゃない」


「だとしてもだよ。そんなことは、僕の方が思ってる」


 俺はうなずく。


「僕がエルフを狩る者たちを煽らなければ、いや、僕が『金の鶏亭』に泊まっていなければ、いやいや、そもそも僕がフォレスティアに来ていなければ」


 俺は首をかしげて「もっと言う?」と聞いた。


 そうだ。たらればを思えばキリがないが、実際に『金の鶏亭』を荒らしたのもミゲムやサリヤを殴ったのも俺たちじゃない。


 それに……。


「ルシアが関わらなくても昨日のことは起きていたかもしれないだろ?」


「でも、あたしは」


「わかっているよ。それも僕と同じだから」


 俺が言うとルシアが「えっ?」と驚いた。


「自分のせいだと思ってないとやってられないよね?」


「なんでよ」


「責められたかったんでしょ?」


 ギュッと歯を食いしばったルシアは「だって……」と言いながら顔を歪めた。


 そうだよな、わかるよ。俺もそうだった。責められて『お前のせいだ』と罵られた方がどんなに楽か。だけどそれでは良い方向には向かわない。


 それに聖女と呼ばれていろんなモノを背負わされていたとしてもルシアはまだ子供だ。


「泣きたいときだってあるよな?」


 目に涙を溜めたルシアを俺がギュッと抱きしめると、ルシアは声をあげて泣いた。


 しばらくそうしていて、ルシアが落ち着いたあとで、手を離すとルシアは「バカ」と言いながら俺の腹を殴る。


 痛いよ、それ?


「なんで?」


「なんでもよ」


 そう言って「キシシ」と笑ったルシアの顔はもう吹っ切れたようだった。俺がこの廃屋に入ってきたときの張り詰めた感じがなくなっている。


「それで、どうするの?」


「やめないわよ。ここでやめたらそれこそ『金の鶏亭』の人たちに顔向け出来ないわ」


「そうだね。ルシアはルシアが正しいと思う道を行きなよ」


 ルシアは「そうね」と笑う。


 うん、それで良い。俺たちのやることは明確だ。エルフを狩る者たちの邪魔をして、このフォレスティアから追い出す。それにもう俺は奴らを許すつもりもない。


「僕にはそれが『正しい』とか『間違い』とか言えないけどね」


「なによ、それ?」


「でも僕はルシアを手伝うと決めたから、とことん付き合うよ」


 俺がそう言ってニカッと笑って見せると、ルシアはうつむいて「バカなんだから」と呟いた。


「だけど、ウェインとプルはそれこそ馬鹿みたいに強いよ」


「わかってるわ」


「ウェインの風魔法は探索も出来るし、感知もすごい。それに風の刃の切れ味はやばいし、身体強化からの風魔法で補助した剣技は反則だよ」


 俺がそう言うとルシアは「だけどね」と笑った。


「本当にやばいのはプルの方よ。ラピスはプルの使う氷魔法は見たの?」


「いや、まだ見てない」


「周囲を全て凍り付かせるプルの氷魔法は、間合いに入ったら終わりよ」


「打つ手はないの?」


「そうね。同等以上の魔力でこちらも魔法を展開できれば防げるかもしれないけど、それもかもしれないの領域ね」


 そこまで行ったルシアは苦笑いを浮かべた。


「王国騎士団の中であの魔法を防げた者はいないと言われているから」


 嘘でしょ? 王国国内で小さな頃から剣や魔法の訓練を受けて、精鋭となるべく育てられた王国騎士団員たちがひとりとして防げないなんて……。


「そんなの敵うわけないんじゃないの?」


「そうね。だからあたしがプルの氷魔法を初めて防いだ者になってあたしが勝つだけよ」


「つまりそれは魔法に限定すれば王国騎士団最強かもしれないプルを倒してルシアが最強になるってこと?」


「そうよ」


 そう言ったルシアが胸を張るので、俺は「あはは」と笑ってしまった。


「なに?」


「いや、いいなって思ってさ」


「うん?」


「最高だよ、ルシア。そうこなくっちゃね」


 そうだ。もうウェインもプルも敵に回ったんだ。俺も負けるわけにはいかないし、ウェインを越えなければいけない。


 だって、神から頂いた力は暴力によって泣かされる人たちのために使うと決めたんだ。


「それでさ、ルシア。お願いがあるんだけど」


「なに?」


「エルフを狩る者たちを襲うのはしばらく休んでくれない?」


「なんでよ」


 ルシアが眉を寄せる。


「ルガドル商会から指名クエストを受けていて、僕は2、3日フォレスティアを離れることになるからさ」


「大丈夫よ、あたしはひとりでもやれるし」


 やっぱりね、そう言うと思ったよ。


「うん、だけど僕のために休んで欲しいんだ」


「はぁ?」


「僕がいないあいだにルシアに何かあったら僕は自分を許せないからね」


「なっ、何言ってんのよ」


 ルシアはそう言って赤くなる。


 うん?


 そして、グゥで二の腕を殴られた。


 あのさ、それ痛いよ。


「わかったわ、休んであげる」


 俺は「ありがとう」と笑った。


 これで心置きなくファイヤーラットの魔石獲りにいけるね。

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