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驕りの代償①

 俺たちが査定を待っていたら、ギルドの入り口の扉が勢いよく開いて、そいつらがなだれ込んできた。そして、ドタバタと歩いて来て、俺たちを取り囲む。


 うん?


「なんのよう?」


 俺が首をかしげると目を血走らせた男の人が俺の胸ぐらをつかもうとして、カルメアに「やめなさい」と止められた。


「こちらから手を出してラピスに殺されたいなら構わないけど」


 とカルメアは笑うと男の人は目を見開いて、それから少し後ずさった。


「ラピス、こんにちは」


「うん、カルメア姉ちゃん、これはなんの騒ぎ?」


「私はあなたには関係ないって言っているんだけど、うちの斥候と協力者であるフォレスティアの冒険者が大怪我をして帰って来たのよ」


「ふーん、それで?」


「相手が子供の魔法剣士だったからね。あなたじゃないかって男たちが言い出して、あなたを探していたの」


「そう、わかっていると思うけど僕じゃないよ。今日はルガドル商会からの仕事でオーク脂を取って来たから、証拠に今オークの魔石の買い取りを受けているし、見て来たら?」


 俺がカウンターを指差すと、カルメアは「そうよね」とうなずいて、ウェインを見た。ウェインは少し顔をしかめると「間違いない」とうなずく。


 うん?


「ほら、私が言った通りじゃない。犯人はラピスじゃないから騎士団から派遣された2人にも仲間に同行してもらおうって言ったのよ」


 俺がウェインを見るとウェインは気まずそうに頭をかいた。なので、プルを見るとプルはすでに泣きそうな顔をしている。


「すまない、ラピス。俺とプルは王国騎士団所属の騎士だ。エルフを狩る者たちの雇い主である貴族からの依頼でエルフを狩る者たちを襲っている子供を捕まえに来たんだ」


「つまり2人は僕を監視していたんだね」


 俺がそう言うとウェインは「すまない」と頭を下げた。


 うーん、出来れば否定して欲しかったけど、これが現実だよね。


 俺が驚くふりして「えっ?」と言葉をもらしてからプルを見るとプルも「ごめんなさい」と頭を下げる。


 すると扉からまたゲラゲラと笑いながら入ってきた男の人たちが「『金の鶏亭』にはラピスのやつはいませんでしたぜ」と言い、もう1人がまだゲラゲラと笑いながら「少し暴れてやったらこいつら泣いて『やめてくれ』とか言ってよ」と言った。


 そして、床に放り出されたミゲムと髪の毛をつかまれたサリヤを見た瞬間に俺の視界が赤く染まった。


 体に磁力をまとって飛び出した俺はサリヤの髪をつかんでいる男の人の手首をナイフで切っていた。飛んだ血が俺の頭からかかったけど、その場にいた男ども5人を次々に殴り蹴り、そして、刺した。


 俺はうめき声を上げながら倒れる男の人たちを見下ろす。


「てめぇ」


 誰かがそう言ったが「やめなさい!」とカルメアが止める。


「今回はこちらが悪いから今ラピスに手を出したらこちらが犯罪者よ。殺されても文句は言えないわね」


 カルメアがそう言うので、俺はにらみつけた。


「つまらないね、カルメアの姉ちゃんたちがかかってこないならこいつら全員殺すよ」


「いいわよ、殺しなさい。その馬鹿たちは宿屋で暴れて主人と奥様に手を出したの、死んでも仕方ないわ」


 俺が「そうか」とうなずいて、ナイフを振り下ろそうとしたら「やめて」とプルが止める。


「ラピス、罪人にはきちんと罪を償わせる。だから、やめて」


 俺は一度手を止めて倒れて動かない2人を見た。ミゲムは頭から血を流し、サリヤの顔は赤黒く腫れ上がっている。


 グッと歯を食いしばるけど、体の底の方から震えが上がってくる。


「なぜ、2人がこんな目にあわなきゃならない?!」


「それは……」


 プルが言い淀むと、ウェインが「そうだな」とうなずいて背中に背負った剣を抜いた。


「ウェイン、なにするの?!」


「悪をたつ、俺はそう誓って騎士団入ったからな」


「だからって殺すの?」


「あぁ、王国法では犯罪者は殺していい事になっているし、奴らの罪は明白だ」


 ウェインが一歩前に出るとカルメアが「誰も動かないでね」と笑う。


 そこで兵士たちがバタバタと入ってきた。俺を囲んで、イコブが「まったく」と頭をかく。


「イコブのおじさん……」


「ラピス、やりやがったな、まったく。まあ、やられても仕方のない奴らだけどよ」


 イコブはそう言うと部下に指示して、ミゲムとサリヤの手当てをさせた。


「ラピス、気持ちはわかるが後のことは俺たちにまかせろ。お前が手を汚す必要はねぇ」


「だけど」


「悪いけどな、俺たちだって腹立ててんだ。お前だけスカッとしようったってそうはいかねぇよ」


 イコブが笑いながらそう言うと俺の頭をなでるから視界がゆがむ。


「僕のせいで」


「お前のせいじゃねぇ! 馬鹿やろうがぁ」


 イコブがそう言いながら俺をギュッと抱きしめるから、俺は歯を食いしばるけど涙がこぼれた。


「ラピス……」


 ポーションをかけられて傷が治ったミゲムが俺を呼んだので「ミゲムおじちゃん」と駆け寄る。そして、サリヤも目を覚まして2人は泣いている俺をギュッと抱きしめてくれた。


 良かった。本当に……良かった。


 イコブがウェインを見て「お前も剣を納めろ、あとはこちらで処理する」と言ってから部下に指示を出して、ミゲムたちは事情を聞かれるそうなので、俺も一緒に冒険者ギルドを出る。


 プルが「ラピス!」と声をかけて来たが俺は振り返らない。もう、エルフを狩る者たちが俺の敵になったのは確定だ。


 そして、ウェインとプルが奴らの肩を持つなら、俺は戦うしかないだろうね。

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