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オーク脂①

 ルガドル商会に戻ると待っていたウェインとプルと一緒にイスティからの素材収集クエストを受けることにした。というより受けることになった。


 ルドガル商会に俺たちが戻った時点で、すでにウェインとプルは従業員の男の人と運搬などについての細かい打ち合わせをしていて話が決まっていたのだ。


 受けるつもりだったから別に良いけどね。


 まずはオーク脂なのだが、馬車を止めておくには魔の森の中の街道は危ないので、森から出て少し離れた草原で従業員には待っていてもらい。そこまでは俺が魔法で運ぶ。そして、それを馬車でルガドル商会まで運んでもらうことにした。


 用意してもらったのは普通の樽を5樽。


 なぜ樽なのか? 


 イスティが「樽にも補強のための金属が使われているから運べるのではないですか?」と言ったので試したら普通に運べたからだ。


 その発想は浮かばなかったが、さすがは天才のイスティだ。俺がちょっとあれという訳ではない。


 と思いたい。


 翌日は朝食を食べたらすぐに魔の森に向かい、打ち合わせ通りに魔の森の手前の草原で待っていたルガドル商会の従業員から樽を受け取った。


 俺たちは魔の森を通る街道に入る。


 と思ったのだが、後ろにいたプルが「あのね」と声をかけて来た。


「それ、なんか気持ち悪い」


「うん?」


「ラピスの後ろにふわふわと浮いた樽が5樽並んでついて行くんだよ。気持ち悪いよ」


 俺が振り返るとプルがそう言って、プルの隣を歩いていたウェインが「仕方ないだろ?」と眉を寄せた。


「ラピスだってわざとやっているわけじゃないんだ。気持ち悪いが我慢してやれ」


「だけどさ、どう考えても意味がわからないし、気持ち悪いでしょ?」


「まあ、確かに気持ち悪いがそこは思っても口に出さないのが優しさだぞ、プル」


 俺は「うるさいよ」と抗議した。


「気持ち悪い、気持ち悪いって、そんなに何度も言わなくたって僕だってわかっているから!」


 そう続けて俺は再び歩き出した。


 確かにふわふわとひとりで浮いている樽は気持ち悪いだろうが、こればかりは仕方がないのだ。


 ついて来ているウェインが「怒るなって、ラピス」と言い、プルが「そうだよ、私もウェインも悪気はないんだよ」と続く。


「2人とも樽を抱えて運びたいみたいだね」


 俺が少しだけ振り返ってニヤリとするとウェインとプルが「うっ」と声をもらす。


「報酬は山分けなんだ。僕ひとりだけで樽を運ぶなんて不公平だよね?」


「だが、ラピスだって魔法で浮かせているだけだろ?」


「じゃあ、ウェインだって風の魔法で浮かせて運べば良いじゃないか?」


「そんな器用な真似出来るわけないだろ?」


「なんで? 風魔法で空を飛んだ人の話を聞いたことがあるよ」


 俺が首をかしげるとウェインは「あのな」と苦笑いを浮かべる。


「一気に風を吹かせて飛び上がるのと、一定の強さの風を吹かせ続けて同じ高さで浮き続けるのでは難易度が違うし、しかもそこからさらに前に移動もしなきゃならない。そんなのは至難の技だ」


「そういうものなの?」


「そういうものだ」


 なるほど、俺の場合は磁力魔法をかければ鉄は勝手にふわふわと浮くし、引き寄せれば付いてくるのだから大変じゃないけど、簡単な説明を聞いただけでも風魔法で同じことをするのは大変そうだ。


「プルは?」


「そうだね。この辺全部びしょ濡れにするか、凍らせても良いなら運べなくもないと思う」


 プルがにこやかにそう言ったが、ウェインが「やめろ」と止めた。


「プルにやらせたら道がひどく荒れるし、通ったところの周りの木がみんな死ぬぞ」


 おいおい、それはどんな魔法だよ、まったく。


「だいたいラピスみたいに簡単に魔法で物が運べるなら誰も馬車なんて使わないだろ?」


「そうだね。荷車を引く人たちもいなくなるね」


 プルがそう微笑んだところでウェインが「いたぞ」と顔を森の方へと向けた。


「うん? 風の探索魔法?」


「いや、風の感知魔法だ」


 この前の探索とは違い、自分を囲む半径100メートルの円の中にすごく弱い風を吹かせておき、魔物がその中に入ると風の流れでわかるらしい。


 でもウェインは弱い風を吹かせ続けるのは制御が大変だって言ってなかったか? こっちはウェインがそんなことをしていることに気がつかないほどに自然だったよ。


 だけど、その感知魔法は砂鉄でも出来そうだから今度試してみるか?


 もちろん100メートルの円の中全部に砂鉄を舞わせるのは無理だから多少工夫は必要だ。だけど、例えば100メートルの円の部分にだけ細かい砂鉄を舞わせて置けば魔物が入って来たことだけ感知するのは出来そうだよね?


 うん、今度やってみよう。


 俺がそう思いながら魔の森に入ってしばらく歩いてから樽を下ろして、担いでいたリュックも下ろした時にそいつらは来た。


「5匹の群れだが、ずいぶんとフォレスティアの街の近くまで来ているな」


「うん、ちょっと心配だね」


 ウェインとプルがそう言いながらオークたちと戦い始めた。


 だけどさ、エルフを狩る者たちの斥候とそれに付き合っているフォレスティアの高ランク冒険者たちはなにをしているんだろうね? 


 こんなところにオークの群れがいるのに、放置して置いて良いわけない。


 俺は腰に下げた布袋の口を開けて砂鉄を出しながら『コンデンセイション』の詠唱をして集中力を高めてオークの下へと歩き出した。

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