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聖女①

 マーテルが「聖女様」とその場にひざまずくと周りのシスターたちも子供たちもみんなその場にひざまずく。


 聖女はそれを見て「皆、楽にしてください」と優しく微笑んだ。それでみんなが立ち上がると聖女は俺を見た。


「またお会いしましたね、ラピス」


「うん」


「このあいだは危ないところを助けて頂きありがとうございます。今日はあのお二人と一緒ではないのですか?」


「いや、一緒だけど、今はルガドル商会でお留守番してる」


「なるほど、ずいぶんと私はあのお二人に嫌われてしまったようですね」


 聖女はそう言って少しだけ寂しそうな顔をした。


「でもそれも仕方がありませんね。高い理想を持っている彼らには私の考えは受け入れがたいでしょう」


「そうなの? 僕には聖女様の考えとウェインの考えは少ししか違わないと思うけど?」


 俺が首をかしげると聖女は「いえ」とほほえんだ。


「彼等は等しく全ての民を救い導こうとしている。私は悔い改めて救いを求める者だけを救おうとしている。両者は大きく違いますよ」


「でもさ、人を救おうとしているのはどちらも一緒だろ?」


 聖女は俺の言葉に「そうですね」とうなずく。


「ではラピス、あなたはどう思いますか?」


「どうってなにを?」


 俺が首を小さくかしげると聖女は言い直した。


「この世界をどう思いますか?」


「またずいぶんとスケールの大きな話だから、凡人の僕にはわからないよ」


 俺が「フフッ」って笑ってみせると聖女は「そうでしょうか?」と俺を真っ直ぐに見た。


「ウィルッチを魔物たちの手から救い、それだけではなくあなたは支援金を出して、それから支援物資も送ったのでしょう?」


「まあ、そうだけど、それは泣いている人たちを放って置けなかっただけだよ。出来ることがあるのにそれをしないで後悔するのは嫌だろ?」


「それは手の届く範囲で自分の出来ることをすると言うことですか?」


「うん、どうせ僕に出来ることなんて限られているし、手も伸ばせる範囲があるだろ? 僕には世界を救う力も、世の中を変える力もありやしないからね」


「そうですね。それではその腕の中にエルフも入るのでしょうか?」


「その辺がよくわからないんだけどさ、人とか、エルフとか、関係あるの?」


 俺がそう言うと聖女は小さくうなずく。


「私もそう思います。ですが、残念ながら2つは違うものとして分かれてしまっている。エルフの保護とうたっている教会も人とエルフは違うものと言っているようなものですよね?」


「そうかなぁ、それでも僕はあなたたちのことを立派だと思うよ」


「立派ですか?」


「うん、王国の決めた王国法に背いてまでエルフたちを救おうとしているんだろ?」


 聖女がカッと目を見開いた。


「聖女様だよね? 森の中でエルフ狩る者たちを返り討ちにしているのは?」


「なんの話でしょうか?」


 王国各地にある魔の森に現れるエルフを狩る者たちを追いかけて、返り討ちにしている子供みたいな魔法剣士。


 俺はその正体が聖女なんじゃないかと思うけど、まあ明かさないよね。


 俺がそう思って聖女を見ていたら聖女が眉間にシワを寄せて「うん」と顔で何かを示す。 


「うん?」


 俺が首を小さくかしげると「うん」「うん」と再び示してから「はぁ」とため息を吐いた。


 いやいや、口で言わないと全然わからないよ。


「マーテル、少しラピスとお話があるので、部屋をお借りしてもいいかしら?」


 マーテルが「はい、お使いください」とうなずくと聖女が「ありがとう」と言って歩き出したので、俺はそれについて行った。


 聖女に続いて俺が応接間に入って扉を閉めると、振り返った聖女がいきなり「あんた、どういうつもりよ」と俺の胸ぐらをつかんだ。


「えっと?」


「あの場にはルガドル商会も何にも知らないシスターや子供たちもいるのよ。なのにあんな話するなんて……あんた、馬鹿?」


「いや、聖女様だって、俺の立ち位置を探ってただろ?」


「そうだけど……それからその聖女様ってのやめてくれる? 嫌いなのよ。この場ではルシアでいいわ」


「わかった。それでルシアなんだろ? エルフ狩る者たちを返り討ちにしているのは」


「ラピスはそんなことを聞いてどうするの?」


 俺の胸ぐらをつかんだままでルシアが言うので、俺は「手伝うよ」と笑った。


「はぁ?!」


 ルシアが大きな声を出すので、俺が「外に聞こえるよ?」と言うとルシアは俺の胸ぐらから手を離して慌てて口を手で塞いだ。


 うん、遅いけどね。


「あんた、それ、本気で言ってんの?」


「うん、本気だよ」


「だって、それは王国法に反することなのよ。簡単に言えば犯罪なの、わかってる?」


「わかってるって、馬鹿にしてんのか?」


「そうよ。だってあんた、馬鹿じゃない、バカ!」


 ルシアがそう言うので、俺は眉間にシワを寄せた。


「馬鹿、バカ、うるさいよ。馬鹿って言う方がバカだ」


「何ですって!」


 ルシアがまた俺の胸ぐらをつかんで、自分の顔に引き寄せるから顔が近い。


「あんた、あたしの味方するってことはあの二人と敵対することになるわよ」


「なんで?」


「なんでって、あの二人が王国騎士だからよ」


 えっ? 嘘だろ……。


「やり合う覚悟はあるの? 王国法に反することをするんだからイーナ様はわからないけど、トリアスとは確実にぶつかるわよ」


「イーナ? トリアス?」


「えっと……その辺は本人たちから聞いて。それで敵対する覚悟はあるのか? って聞いてんのよ」


「あぁ、ウェインたちがエルフを狩る者たちの味方になるならやり合うしかないだろうな」


 ルシアは「どうして」と呟いた。


「どうしてよ! あの子たちとは友達なんでしょ?」


「うん、友達だけど、それとこれとは話が別だろ?」


「なんでそこまでして……」


 ルシアは目を見開いた。


「エルフたちに会ったことがあるの?」


「うん、森の中で助けられたことがある」


「そんなエルフが人族を助けるなんて……」


 そこでエレナの笑顔が浮かんだ。


「エルフにだって変わったやつがいるんだ」


「その子を救いたいのね」


「あぁ、そうだ」


 俺がうなずくとルシアは俺の胸ぐらから手を離して「わかったわ」と笑う。


「エルフを狩る者たちを追い返す手伝いをお願いするわ。ラピス」


「あぁ、よろしくな。ルシア」


 俺たちは硬く握手をした。


 おいおい、痛いよ。どんな力だよ。


 それから俺はルガドルたちと合流して商会に帰る。


 教会の入り口で見送ってくれたマーテルが「ラピス君の道が光多きことをお祈りしております」と微笑んだ。

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