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試作品と試運用③

 ルガドル商会の従業員が馬車で魔法道具を教会まで運んでくれると言うので、俺とルガドルとイスティは先に歩いて教会まで向かった。


 ウェインとプルはお店に並んでいる魔法道具を見たいと言うのでお留守番だ。


 教会に着くと庭では小さな子供たちが遊びまわり、シスターたちが子供たちの世話をしたり、乾いた洗濯物を取り込んでいた。


 俺たちが敷地に入ると、ルガドルが「こんにちは」と挨拶して、シスターの1人がこちらに来た。


「これはルガドル様、いかがなさいましたか?」


「すみません、またイスティが試作品を作ったので、よかったらお使い頂けないかと思いまして」


「そうですか、いつもありがとうございます」


 微笑んだシスターは、慣れた仕草で神に祈りを捧げる。そして、俺たちは教会内へと案内された。


 応接間に通されてお茶とお菓子が出されて、修道長が入って来た。


「ルガドル様、イスティ様、お待たせしてしまい申し訳ありません」


「そんなことはありませんよ、お忙しいところお時間を作って頂きありがとうございます。マーテル様」


 ルガドルが頭を下げるとイスティも「そうですよ、マーテル様」と頭を下げる。それに「ありがとうございます」と微笑んだマーテルが俺を見た。


「この子は?」


「魔法道具が大きい物ですから、運ぶのを手伝ってくれる冒険者のラピス君です」


「この子が噂の石火のラピス様。なるほど」


 マーテルは柔らかく微笑んだ。


「修道長をしておりますマーテルです。お会いできて嬉しいですわ。ラピス様」


「えっと、僕は見ての通りの子供ですから『様』はいらないよ。マーテル様」


 マーテルは「さようでございますか」とうなずいて「よろしくお願いしますね、ラピス君」と笑ったので、俺は「うん、よろしく」と返事する。


「それで今回はどのような魔法道具をお持ち頂けるのですか?」


「はい、イスティが新しく作った暖をとる魔法道具です。火は出ませんし、魔法道具自体も熱くならないので、子供たちにも安心かと思います」


「さようでございますか、それはありがたいです。なにぶん冬になりますと石造りの教会は冷えますので、暖炉も使っておりますが一部の部屋しか暖められず、朝の聖堂での礼拝などは泣く子もおります」


「はい、聖堂に設置できれば教会全体が暖められると思いますよ」


「確かにあれなら庭も暖かいかもな」


 イスティの言葉にルガドルがイスティを見ながら苦笑いを浮かべるとマーテルが「それほどですか?」と目を見開く。


「はい、私にはイスティの説明が理解できなかったのですが、オーク脂は加熱しても一定の温度より上がらないので部屋は必要以上に暖かくならないのですが、そのオーク脂を包んでいる魔鉄の効果でその暖かさが広範囲に広がるとか、なんとか」


 ルガドルがそう言うとイスティが嬉々として説明を始めたが、もちろん俺もマーテルも天才の難しい説明を理解できるはずもなく、俺はポカンとイスティを見て、マーテルは所々で「それはすごい」とか「そうなのですね」とか相槌を入れながらニコニコ笑っていた。


 すごいな、修道長。


 イスティの説明は「馬車が来た」と知らせに来たシスターによって中断されたが、イスティは気にすることもなく「使ってもらえばわかりますよ」とうなずく。


 だよね。


 ということで、俺たちは庭まで行った。


「マーテル様、申し訳ないけど子供たちは危ないからとりあえず避難してもらえる?」


「危ないのですか?」


「うん、大丈夫だと思うけど、魔法で浮かせて運ぶからさ」


 俺がそう言うとマーテルは目を見開いて、シスターに指示を出して子供たちを避難させた。


「ありがとう」


「いえ、どういたしまして、しかし、私共は見ていても構わないのですか?」


「うん、隠してもそのうちにバレるからね。でも出来たらなるべく他で話さないで欲しいけど」


「わかりました。皆にそう言っておきます」


「ありがとう」


 そう言った俺が『コンデンセイション』を使ったあとで、磁力を使って馬車の荷台に積まれた魔法道具を持ち上げると、マーテルは「これは……」と息を呑んだ。


 俺が魔法道具を動かして、マーテルに指示された聖堂の隅に設置すると、魔法道具の試運用が行われた。


 ほんわかと聖堂内が暖かくなり、見に来た子供たちが飛んで喜んで、シスターたちからも歓喜の声が上がった。


 さすがに普段から讃美歌などを歌っているからみんな声が良いね。


 涙ぐみながら喜ぶシスターたちにイスティはもみくちゃにされて、ルガドルは子供たちに囲まれている。


 それにしても、子供たちの頭をなでているルガドルはずいぶんとうれしそうだから、子供好きなのかもしれないね。


 そして、その光景を見ていたらマーテルが「ラピス君、少しよろしいですか?」というので俺はマーテルを見た。


「どうかしたの?」


「ラピス君のあの魔法は……」


「ごめんね。それは秘密だよ」


 俺はそう言って曖昧に笑っておいた。


 だってマーテルがあんまりにも真剣な顔をするから嫌な予感しかしない。するとマーテルは「そうですか」と表情を作り直した。


「冒険者は手の内を明かさないものですものね」


「うん、ごめんね」


「いえ、こちらこそ、ごめんなさい」


 そう頭を下げたマーテルは「魔法道具を運んでくださってありがとうございます」と微笑む。


 すると教会の奥からその子は歩いてきた。

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