移動手段①
移動手段とは考えてなかったが、それも確かに出来るかもしれない。というより単純に……。
俺はその場で腰に下げている布袋の口を2つとも開けて、砂鉄だした。サラサラと浮かんだ砂鉄を一枚の長方形の板状にしてそれを地上5センチぐらいで浮かせる。それに1歩ずつ足を乗せた。
うん、やっぱり問題なく乗れる。そして、乗ったままでそれをゆっくりと移動させてみた。
「ラピス君、すごいですね。それ」
「動けたね」
俺が笑うとイスティも笑って俺が砂鉄で作った板を見るようにしゃがみ込んだ。
「ですが、何か物にぶつかった時のことを考えるともう少し厚みがあった方が良いかもしれませんね。それから、これだとぶつかった物を切ってしまうので角は丸めた方が良いと思います」
「そうだね。それと大きさも足りないよね。足も肩幅ぐらいには広げたい」
俺がうなずくとウェインが「移動しながら敵を斬りつけるなら逆に周りを尖らせれば良いということだな」と言って、プルが「いや」と続く。
「それだと刺さったときに抵抗になるから、板は丸みをつけて周りを刃物みたいに薄くした方が良いんじゃない?」
「なるほどな、確かに引っかかると自分が飛んで行きそうだ。では周りに小さな刃をいっぱい作って板の周りを回るように動かせば良いのではないか?」
「なるほど、そもそも板と刃を別物にするんだね。確かにそれなら板自体は抵抗を受けないね」
そんな恐ろしいことを言っている2人が俺を見るので、俺は苦笑いを浮かべた。
「そんな恐ろしいことしないよ」
「なぜだ?」
「なんで?」
「いやいや、逆になんで?」
俺が聞くとウェインが頭をかいた。
「ラピスもそのうちに千とか二千とかの魔物と戦うかもしれないではないか。そうしたら移動しながら攻撃出来た方が良いに決まっている」
確かにな、ラインは騎士団の精鋭たちでも年々押されているくらいだから、魔物で埋め尽くされているに違いない。そのときに使えるかもしれないな。
だけどさ……。
「いや、とりあえずはまず安全に移動が出来るようになってから、それからそういうのは考えるよ」
ウェインとプルは「そうか」と肩を落としたけど、まずは俺の安全を考えないとね。
それに移動スピードをあげたりカーブを曲がるためには磁力魔法で足をくっつけるだけじゃなくある程度板に足を引っ掛けられるようにしないとダメだろうし、他にもいろいろやってみて改善しないといけないと思う。
「足を引っ掛けられる場所とかも作るとなると砂鉄がたくさん必要になるし、砂鉄を運ぶのも辛いね」
俺が笑うと、ルガドルが「それなら」と俺を見た。
「私の知り合いの鍛治師に頼んで魔鉄で基本の板を作ってもらったらどうですか?」
「あぁ、そっか、別に砂鉄で作らなくても良いのか?」
「そうですよ。基本の板は作ってもらって、それを安全に操れるようになったら他を考えたらいかがですか?」
「うん、そうだね。じゃあ、申し訳ないけど、鍛冶屋さんに板を頼んでもらえる?」
ルガドルが「わかりました」と引き受けてくれると、イスティが「そうですね」とうなずく。
「魔法道具もまずは基本の安全運用。そして、そこからオプションをつけたり、出力を上げたりと応用しますからそれが良いと思います」
イスティがそう言って「うんうん」とうなずくのでウェインとプルも「そうだな」と納得したのだが、ルガドルが「お前がそれを言うか!」とにらみつけた。
「いきなりこんな大きさの魔法道具を作り出すやつがよく言うな、私はいつも言ってるよな? まずは小さいので試してからにしろって」
確かにルガドルが言うようにイスティはいきなりレッドウルフの魔石を使ってこの大きさの魔法道具を作ったんだもんね。
とてもじゃないが基本の安全運用とは言えない。
3人で冷ややかな目を送ると、イスティは「それはですね」と言いながら慌てた。
それがなんとも言えず動きが幼いから、見た目とのギャップがすごい。
俺は笑いを堪えながら話題を変えた。
「それでこの魔法道具はどこに運ぶの?」
「教会に運びます。あそこは石造りで広いし、屋根も高いので寒いのですよ。子供たちがかわいそうなので、これを差し上げるつもりです」
俺とウェインとプルは「えっ?」と目を見開いた。
材料は魔鉄、オーク脂、レッドウルフの魔石、しかもこの大きさだ。これを作るのにちょっとありえないぐらいにお金がかかっているはずだ。
俺がそんな風に思ったらウェインが「あげるのか?」と聞いた。
そう思うよな?
だけどイスティは「そうですよ」と微笑む。
「これは試作品なので、私たちはこれからこれを改良して量産して売って稼げばいいんです」
「ならなおさら僕もお金をもらえないよ。僕の魔法も試運用だからね」
そうだよね。俺も練習みたいなものだ。しかもこの練習のおかげで『コンデンセイション』も覚えられた。
「では、その試運用で教会に設置するのも頼めませんか?」
イスティがそう言うとルガドルが「おい、イスティ」と止めたが、俺は「いいよ」とうなずいた。




