試作品と試運用②
俺たちはイスティに案内されてイスティの作業場に来た。
小さな倉庫ほどの部屋にさまざまない物がゴチャゴチャとあったが1番に目を引くのは部屋の真ん中の床に鎮座した大きな鉄の箱だ。
膝を抱えれば大人がすっぽりと入ってしまいそうなほどに大きい。
そこに近づいたイスティがその鉄の箱の上に手を置いて「これでやってみてください」と笑った。
「これは?」
「さっき話したレッドウルフの魔石を使って作った部屋を暖める魔法道具です」
「思っていたよりかなりでかいね」
「使っているのがレッドウルフの魔石なので、ファイヤーラットのものに比べると大きくなります」
俺はおどろいだのだが、イスティはなんでもないと言わんばかりに淡々と答えた。
「いやいや、それにしても大きくない?」
「はい、ですが、レッドウルフの魔石の出力を考えるとこの大きさになるんですよ」
俺が「なるほどね」と言うとルガドルが「これを起動するとうちの敷地の端まで暖かくなりますよ」と苦笑いを浮かべた。
「しかもかなり重いんですよ」
「そうだろうね。箱は魔鉄で出来ていて中はオーク脂で満たされているんだもんね」
俺がうなずくとイスティは「ちょっとだけですよ」と言い、ルガドルが「ちょっとじゃないよな?」と呆れ顔になった。
というか、ルガドルはイスティに対してはずっと苦笑いか呆れ顔しかしてない気がするね。
だけど、当のイスティは気にしていないようで「ラピス君、やってみてもらえますか?」と微笑む。
俺はイスティに「わかったよ」と答えて、その鉄の箱を磁力魔法で浮かせた。
あっさりと浮かんだ箱を見たイスティは「すごいですね」と笑って「では、試しに移動してもらえますか?」と言う。
それを聞いたルガドルが「待て待て」と止めた。
「もしかして、ラピス君にそれを運ばせるつもりなのか?」
「はい、せっかくだから試すついでに馬車まで運んでもらっちゃいましょうよ」
イスティがニッコリと笑うとルガドルは「はぁ」とため息を吐いて、俺を見た。
「ラピス君、この分の報酬は後でお支払いしますのでお願いできますか?」
「うん、良いよ。報酬なしでも」
俺がそう答えるとルガドルは「お支払いします」と笑う。
「ラピス君、冒険者は腕を売る仕事なんですから、魔法を使っているのにタダ働きはダメですよ」
「うん、わかったよ」
俺はルガドルに答えて、イスティに指示されるままに作業場から中庭まで運ぼうとしたのだが、やはり魔力が安定しないせいなのか、フラフラとしてしまって危ない。
なので、一度その場に置く。するとプルが「『コンデンセイション』を試して見る?」と言った。
「『コンデンセイション』ってなに?」
「うん、身体強化と一緒で魔法を使う前に事前にかける予備魔法で、今度は魔力的な集中を促す魔法だよ」
「なるほど、教えてくれる?」
俺がそう聞くと、プルはまた「いいよ」と笑った。
ってかさ、プルのノリが軽いけど本当に良いのか?
俺がそう思ってウェインを見ると、ウェインは視線をそらす。
「あのさ、頼んでおいてあれだけど、これって簡単に教わっていいやつなの?」
「うん、学校に行けば習うし、いいんじゃない?」
「いやいや、学校はお金が発生しているよね?」
「じゃあさ、私が困ったときにラピスが私を助けて」
プルがそう言って真面目な顔をするので、俺が「そんなことで良いの?」と聞くとプルは「いいよ」とうなずく。
「わかった。プルが困ったときは僕が助けるよ」
俺がそう答えると、プルはうれしいそうに「ありがとう」と笑って「じゃあ、やるよ」と胸の前で手を合わせた。
「神よ、願わくば、我に水面のごとし精神を、神よ、願わくば、我に氷のごとし静寂を『コンデンセイション』」
プルがそう詠唱すると、足元に魔法陣が浮かび上がってほんわかと光る。そして、プルの雰囲気がまた少し変わった。
「どう?」
「うん、大丈夫だと思う」
俺がうなずくとプルはイスティから紙をもらって、そこに魔法陣と呪文を書いた。俺はそれを見ながら、魔法陣を頭に思い浮かべて、呪文を詠唱する。
「神よ、願わくば、我に水面のごとし精神を、神よ、願わくば、我に氷のごとし静寂を『コンデンセイション』」
俺を体に薄く魔力が広がって、取り巻く空気がピンと張り詰めた。
なんか、身体強化より馴染みがいい気がする。
そして、またイスティの指示に従い磁力魔法で鉄の箱を持ち上げて運んで、中庭に止めてあった馬車の荷台に乗せた。
「大丈夫そうですね」
「うん、ちょっとまだ怖いけど、これなら問題ないね」
俺はイスティに答えるとプルを見た。
「プル、ありがとう」
「どういたしまして」
プルが俺の言葉に答えると、イスティが「これなら鉄の箱に入れば自分も運べるかもしれませんね」と笑った。




