試作品と試運用①
俺が魔法を見せようとすると今度はウェインが「それは俺たちも見て良いのか?」と俺を覗き込む。
「どうせ一緒に行動しているから何度か見せてるし、ウェインたちには隠してもそのうちにバレるでしょ?」
そうだ。俺もウェインとプルの魔法を少しなら見ているからね。それにこの先も友達として付き合って行くなら隠し事はなるべくない方がいい。
もちろん、エルフの里のことや世界樹の実とその副作用のことは死んでも話さないけどね。
ウェインが「ほぉ」とうなずいて、プルがキラキラした目で見てくる。
だけど、あんまり期待しないでね。たぶん2人の魔法よりは珍しくないと思うから……。
「じゃあ、ちょっとだけ魔法の触媒を出すね」
俺はルガドルを見て、ルガドルがうなずくので腰に下げた布袋の口を開けて磁力で中から少しだけ砂鉄を取り出した。宙を舞わせてから四角や丸、三角や星形などを作る。
「こんな感じだよ」
俺がニッコリと笑った瞬間にウェインが「まったく、ありえないな」と呟いた。
「えっと、どうしたの? ウェイン」
「ラピスのはあんまりにも基本を無視した魔法だからな。正直言って呆れている」
ウェインが苦笑いを浮かべるので、俺は砂鉄を腰に下げた布袋にすべて戻した。
「ラピス君の魔法はすごいですね」
イスティがそう言うので、俺は「そんなことないよ」と笑っておく。それからイスティがテーブルに書類を置いた。
「こちらが依頼書です。この前頂いたレッドウルフの火の魔石を使ってこれからの季節に合わせた暖をとる魔法道具を作ってみたのですが」
「へぇ、どんな魔法道具なの?」
「魔鉄で作った容器にオーク脂を入れて、それをレッドウルフの火の魔石で温めます」
「でもオーク脂って火がつかないよね?」
「そう、オーク脂は、脂が温まると溶けて液体になって熱を持つだけで火がつかないから、暖をとる魔法道具として安心なんです」
イスティがえっへんと胸を張ると、ウェインが「だが魔鉄も熱に強いから確か熱くならないだろ?」と続く。
「魔鉄も熱くならないから魔法道具自体は熱くならないのに周りの空気だけがほんわりと暖かくなります」
「って事は、触れても火傷しないということか?」
「そうです」
ウェインが「考えたな」とうなずくとプルが「すごい」とほめた。
「そして、それを小さくしたのがこちらです」
イスティがテーブルに乗せたのは小さな魔法道具だった。見た目はウィスキーの携帯用容器であるスキットルのような物で、魔鉄で出来ていて小さな魔石が付いている。
「その魔石に魔力を込めると中の脂が温まります」
「もしかして、外出するときにポケットに入れて暖をとる物?」
「そうです」
イスティがうなずくとウェインが「これは売れそうだな」と言って、プルが「本当だね」と笑った。
「外側は飾り職人さんにきれいな細工を施してもらい、女性用はかわいいケースを付けても良いね」
プルが言うとイスティは「そのつもりですよ」とうなずく。そこで俺は書類に目を通した。
オーク15匹のオーク脂、ファイヤーラットの500匹分の魔石……。
「あのさ」
「どうかしましたか?」
「うん、すごい量だね」
俺がイスティを見るとイスティは「そうですか?」と首をかしげた。
「ラピス君ならこれぐらい楽勝ですよね?」
「まあ、倒せるとは思うけどさ、この量だと簡単には運べないよ」
「それは魔法でなんとか工夫して下さい。それにさっきの魔法なら乗せて運べるのではないですか?」
「あの上に乗せて運ぶかぁ」
俺は腕を組む。
運搬の方法を少し前から考えてはいた。だけど、砂鉄を操ってそこに物を乗せて運ぶにはかなりの制御が必要だ。今の俺には到底無理だね。
「だけどね、僕はまだ制御が甘いから、さっきのに乗せても落としたり砂で削ったりしちゃうと思うんだよね」
「なるほど、そうですかぁ」
イスティも腕を組む。
「それって、単純に落としても壊れない物や砂で削れないような物なら運べるという事ですね」
「削れない物?」
「硬い物や魔法に耐性がある物ですね。例えば、魔鉄とか、魔銀とか」
「あぁ、魔鉄ならたぶんそのまま運べるよ」
俺はそう言って、目の前に置いてあったスキットルのような魔法道具を浮かせて見せた。
「これはすごいですね」
イスティはうれしそうに笑って「触っても大丈夫なのですか?」と聞いた。
「うん、大丈夫だよ」
イスティがツンと指で押すと、魔法道具はグラリと少し押されたが、すぐに磁力の力で元の位置に戻る。
「これはラピス君が操れるのですか?」
「うん、多少なら」
「だとしたら、容器を魔鉄で作れば運べるってことですね」
「うーん、そうだね。だけど、小さな物なら動かせるけど、大きい物はやってみないとわからないよ」
俺が答えるとイスティは「では、やってみましょうか?」と笑った。




