街へ①
夜明け前に俺はエレナたちと別れて街に向かうことにした。だけど、やっぱりエルフの男の人たちに囲まれる。
「エルフの里の場所を知ったお前を、簡単に帰すと思ったのか?」
「うん、そうだよね」
俺が身を硬くすると、エレナが「言い方」と笑う。
「アルプには悪いんだけど、目隠しして少し離れたところまでみんなが連れて行くから」
「そういうことか」
俺がホッと肩の力を抜くと、エランが「本当ならここで殺してしまいたいがな」と俺をにらむ。
「うん、気持ちはわかるよ」
俺がうなずくとエランが「お前は本当に調子が狂うな」と少し笑った。その後でエレナが俺を抱きしめるので、俺はその背を軽くポンポンと叩いた。
「じゃあ、アルブ、元気でね」
「うん、エレナも元気でな。あのさ、エレナ。人はさ……」
「わかってる。アルブみたいのが珍しいんでしょ?」
「まあ、わかっているなら良いけど、本当に気をつけるんだぞ。エレナが変なおっさんの奴隷とかにされたら嫌だからな」
「それは、私を好きになったってこと?」
エレナがニヤリと笑うので「いや、違うから」と苦笑いしておく。
そのあと里の入り口までエレナが見送ってくれて、俺が目隠しされる前にエレナが「またね」と笑う。
「うん、またな」
俺は微笑み返した。
エルフは長生きだし、たぶん俺も世界樹の実の副作用で長生きになったはずだからいつかは会えるかもしれないもんね。
何百年後とかかもしれないけど、その頃には人族が改心していてエルフが普通に人族の街を歩けるようになっているといいな。
まあ、無理だろうけど……。
「じゃあ、行くぞ」
エランがそう言って俺に目隠しをした。そして、エルフの男の人たちが俺を連れて里を出る。
エルフの里を出て3日、俺は目隠しをされたまま運ばれたけど、きちんと休憩もしてくれるし、食事も水分もエランから与えられた。
初日の夜に「殺して捨てていこう」と言ったエルフの男の人もエランが「エレナ様のご意志だから」と説得してくれた。
なんだかんだでいい人なんだよね。
そして、目隠しが取られた。
「こっちに真っ直ぐ行けば人族が使っている街道に出る」
「そっか、本当に世話になったね。エランさん、ありがとう」
「やめてくれ、俺はエレナ様のご意志に従ったまでだ」
「うん、そうだとしても助かったよ」
俺が笑うとエランは困ったような顔をした。
「人族にもお前のような者もいるのだな」
俺は「うん」とうなずいたけど、俺は別に良いやつじゃない。俺も貴族の命令でエルフの里を探しに来たんだからね。
「俺が言えたことじゃないけど、エルフはきれいすぎるから悪い人は欲しがるし、高値が付くから売ろうとする人たちもいる。それに、命令に逆らえずに探しに来るやつもいる。ほとんどエルフの敵だと思っていた方がいいよ」
「そうだな。お前は本当に変わっている」
エランが少し笑ったあとで手を差し出して来たので、俺はそれを受けて握手する。
「エレナ様を助けてくれてありがとう。もう会うこともないだろうが、元気でな」
「うん、ありがとう。エランさんたちもお元気で」
俺がそう言うと他のエルフの男の人も「気をつけてな」と声をかけてくれた。
本当に良い人たちだし、イケメンすぎるよ。あんたたちは……。
エランたちが去って行くのを見送って、それから俺は小さく伸びをした。
「よしっと、じゃあ街に向かうか?」
そう言いながら布袋を腰につける。
これには砂鉄が入っている。オークとの戦いで剣も盾も壊れてしまったからね。だからこれを磁力魔法を使うときの武器にするのだ。
戦闘のたびに地面に手をついて引っ張り出すのは面倒だもんね。
今回はとりあえず15センチの玉が出来るぐらいの砂鉄を用意した。
このサイズでも弾いて飛ばせば1個で木はへし折れるぐらいの威力はあるし、小さな玉に分けて打ち出せば小さい魔物にもかわされにくい。
さらに複数の魔物も相手できるし、引き寄せれば再度打ち出せる。ついでに薄く伸ばせばまだぎこちないけど、宙に浮く盾にも出来る。
磁力魔法ってなにげに便利だよね。
俺は磁気をまとえば鉄の武器を弾じくことが出来るらしいけど、いきなりやるのは不安だし、磁力では木製の武器や魔法は弾けない。
だから、盾の練習は必要だね。
そんなふうに思いながらしばらく森を歩くと、さっそくそいつらが来た。
「グゲェェェ」
「ケケケッ」
笑った小さな子供ぐらいの生き物はゴブリンだ。
緑の肌、大きな鼻に尖った耳、すきっ歯を見せながらニヤニヤと笑い。細い手にそれぞれ錆びた剣やナイフ、斧を握っている。
5匹か、磁力魔法を試す初めての実戦にはちょっと多いな……。
俺は腰の布袋の口を開けて砂鉄を出した。
魔力を込められた砂鉄が、サラサラと宙を浮遊しながら俺の前で少しずつまとまって玉を作る。
まずは小さめ玉を15個にしてみた。
「ギギィ、ギャギャギャ」
「ギャァ、ギギギギギギィ」
ゴブリンたちが飛び上がるように襲ってくる。
「行け!」
俺が手を突き出すと「ギョェ?」と言葉をもらしたゴブリンたちは、小さな玉に撃ち抜かれて倒れた。
「えっと……」
俺は自分の手を見つめた。
これが俺の魔法……。
「嘘でしょ?」
俺は倒れたゴブリンたちを確認して「あはは」と乾いた笑いをもらす。
いやいや、倒せるだろうとは思ってたけど、楽勝すぎる。今までちまちまと戦ってたのはなんだったんだ?
タイミングを測ってツチボコとか使ってたのが泣けてくる。
少し呆れ気味になりながらゴブリンたちの息を確認して、ナイフで胸を開いて魔石を取り出した。
それから耳も切り取って、武器も集める。
「よし、じゃあ、行こっかな」
砂鉄を引き寄せて布袋に戻して、ゴブリンたちの武器を入れた袋を担いで、俺は歩き出した。