手合わせ③
俺が呆れ顔になりながら嬉しそうに笑ったプルを見ていたら、プルが「ラピス、とりあえずこれを飲んでおいて」とポーションを差し出して来たので、俺はそのポーションを見ながら苦笑いを浮かべた。
だって、無理やり磁力魔法で体を動かした反動で腕はもう上がらないし、たぶん足も動かない。
それにさ、俺ってポーション飲んで大丈夫なのか?
実はエルフの里で蘇ってから大した怪我もなくここまで来たので、この前のスケルトン騒ぎの時にオルナからもらったマジックポーションしか飲んでない。
ポーションを飲んだ途端にしゅわしゅわと煙になって消えたり、体がどろぉとなって骨だけになったりとかしないよね?
あはは……。
「どうしたの? ラピス」
「うん、この程度の怪我でポーションはもったいないかなぁ、なんて」
「大丈夫だよ。ウェインが怪我させたんだし、気にしないで」
俺が顔を引き攣らせながら「うん」とうなずくとプルは「はぁ」とため息を吐いた。
「やっぱりね」
「えっ?」
「ラピス、腕が動かないんでしょ?」
そう言ったプルが俺の顔を覗き込む。
「なっ、そんなことは……」
「隠しても無駄だよ」
「いや、なんでわかったの?」
俺が首をかしげるとプルは「うん」と笑う。
「だって身体強化もしないで無理やり魔法で体を動かしたみたいだったし、あんな無理すれば体を壊すのも当たり前だよ」
「えっと、身体強化ってなに?」
俺がそう言うとプルが「やっぱりかぁ」と額に手を当てた。
「途中でウェインの雰囲気が変わったでしょ? あれが身体強化。普通は体全体に魔力が行き渡るように循環させて、魔力による身体強化をしてから魔法で体の動きを補助したりするの」
「そうだったんだ」
俺がうなずくとプルは「やっぱりラピスは知らなかったんだね」と苦笑いを浮かべた。
「なんかラピスの魔法は効率が悪そうだし、なんとなく強引にやりすぎだなぁって思ってたんだよね」
プルはそう言って「うんうん」とうなずく。
「魔法はね、本来なら詠唱で魔力の練り方を覚えたり、術式で魔法の精度の上げ方を覚えたり、基本を使って魔力の運用の仕方をしっかりと体に覚えさせてから応用なの」
プルはそこまで言うと「はぁ」とため息をもらす。
「本当はいきなり無詠唱でしかもこうしたいというイメージだけで具現化出来るのは一般によく使われている初歩の魔法だけなんだよ」
なるほどね。つまり今の俺は歩き方も知らないのに、無理やり身体能力だけで走ろうとしている状態って事だね。
「ラピスはおかしなほどの魔力量で無理やり実現させているんだと思うよ」
「それってさ、基本からやれば魔法の自体の威力もあがるってこと?」
「たぶん上がると思うよ。きっとラピスのあの小さい球を飛ばす魔法もきちんと基本からやって純度や精度が上がれば、ウルフも一発で倒せると思う」
おお、それは嬉しいね。
それに威力だけでなく作れる鉄の強度が上がれば、盾などの運用にも幅が出る。
「でもさ、ウェインやプルも詠唱はしてないよね?」
「そりゃあ、ウェインも私も小さい頃から魔法を教え込まれているからね。何度も反復して練習した慣れた魔法には詠唱も魔法陣もいらないよ」
「えっと、その身体強化ってやつの詠唱と魔法陣を教えてくれない?」
俺がダメ元で聞いたら、プルはあっさり「いいよ」と答えた。
「えっ? いいの?」
「いいよ。だって、私と魔法勝負してもらうにも今のままじゃ効率が悪すぎるから無理だもんね」
うん、確かにそうだね。申し訳ないけど、勝てる気はまったくしない。
そして「それじゃ、やるね」とプルが手を胸の前にあわせる。
「神よ。心の光を身体に宿らせ、地上を汚す者たち討ち滅ぼす術を我に与えたまえ『コープス・サプリメント』」
プルの足元に魔法陣が浮かんでそれがぼんやりと光を放つ。すると、確かにプルがまとう雰囲気が変わった。
これが詠唱と魔法陣、そして、身体強化の魔法なのかぁ。
「どう、わかった?」
「うん、わかったと思う」
俺がそう言うとプルはうなずいて、ポーションの蓋を開けた。
「そのままじゃ出来ないから、とりあえずこれを飲んで」
プルがポーションを俺に飲ませようとするので、俺は目をつぶってプルが口に流し込んでくれるポーションをグイッと一気にそれをあおった。
すると喉を通り過ぎて行くそれが体を巡り、傷を癒して行く。最初にモロに食らった脇腹も痛みが消えた。
とりあえず良かった。これでポーションを使えることがわかったね。
ガッツポーズしたかったが、プルが見ているのでやめておいた。
「痛みが引いたよ。ありがとう、プル」
「どういたしまして」
プルは笑って、それから練習場の地面に魔法陣を書いて、その下に呪文も書いてくれた。
「この魔法陣を頭の中でイメージしながら、呪文を詠唱してみて」
俺は「うん」とうなずく。そして、手を前で合わせて、プルがやったように詠唱した。
「神よ。心の光を身体に宿らせ、地上を汚す者たち討ち滅ぼす術を我に与えたまえ『コープス・サプリメント』」
グワっと体の中心から魔力が全身に広がる。そして、体の隅々まで魔力が循環する。
うん、なんか強化された気がする。って、動いてみないと実感がないけどね。
するとプルが俺を見てうなずいた。
「うん、魔法は発動しているから第一段階はいいんじゃない?」
「第一段階?」
「そうだよ。いきなりできる訳ないよね?」
そりゃそうか。
「もっと詠唱しながら魔力を練って、頭の中に思い描く魔法陣の術式、文字や図柄の正確さで術の精度が変わるからあとは練習あるのみ」
「そっか、ありがとう、がんばるよ」
俺が頭を下げるとプルは「うん」と笑う。
「それから機会があったら学校で魔法の基礎を学んだ方がいいかもね。今のままではもったいないもん」
「うん、わかった」
来年から士官学校に行く予定だから、ちゃんと学ぼう。きっと魔法をちゃんと運用できないとラインで生き残るのは無理だもんね。




