手合わせ②
俺は地面を磁力で弾きながら前に飛び出した。低く飛び出した俺に、ウェインは「ほぉ」とうなずいて、俺が下から斬り上げた木刀を受け止める。
俺はそこで右手を磁力を込めた左手で弾いてさらに押し込んだ。ウェインはそれを「クッ」と言いながらもこらえて木刀に角度をつけながら俺の木刀を滑らせ、自分はしゃがみこんでいなすとその場でくるっと回って俺へと水平斬りをくり出して来る。
俺の方は上からの斬り下ろしでこの水平斬りをはたき落として、地面を磁力で弾いて飛びながら後ろに下がる。
「ここで下がるとは、ずいぶんと消極的だな」
「僕はなるべく安全に戦いたいからね」
飛び出して来たウェインの下からの斬り上げ、そして、上からの斬り下ろしの連撃を、俺は着地のたびに地面を磁力で弾きながら下がって1、2と避ける。
そして次にウェインが下から切り返して斬り上げて来たタイミングで俺はそれを避けながら反転して懐に飛び込んで水平斬り。
パチン!
木がぶつかる音がして、斬り上げを途中で中断したウェインが木刀で俺の水平斬り受け止めた。
そこからもパチン、パチンと木刀がぶつかり合う音だけが練習場に響いて、ウェインが斬り、俺が受け止め、俺が斬り、ウェインがそれを受け止める。
そして、ウェインのまとう雰囲気がかわった。
「ウェイン!?」
プルがそう叫んだ瞬間だった。ウェインが見えなくなって、俺は横に吹き飛んでいた。体にモロに木刀を受けて右の横腹が痛い。
クッ、マジか……。
そこからはなんとか目で追えるけど、かわすことも受けることも出来なかった。ブレるようにウェインの腕が動いて、ウェインの木刀が次々に俺の体をとらえる。
なんとかしなければと焦って、先読みして木刀を構えてもそれは掻い潜られて、こちらから打ち込んでもかわされる。俺には打つ手がなかった。
これが本当の強者の力なのだろう。
俺はちょっと変わった魔法を授かって、15年間の兵士の経験を持ったままで子供に若返っただけの凡人だ。やはり本物の天才には敵わないのだ。
だが、それが悔しかった。
グッと歯を食いしばる。そして、とっさに体内の鉄に磁力をまとわせて無理やり体を速く動かした。
パチンとウェインの木刀を俺が受け止めると、ウェインは目を見開いて「そうか」と笑った。
「この場で進化してみせるのか? ラピス」
ウェインは嬉しそうにそう言って「あはは」と笑いながら連撃をくり出して来る。俺はそれを磁力で無理矢理速く動かした木刀で受け止め続けた。
体が熱を帯び始めると、磁力をまとった鉄はさらに速く体を巡り、俺の体を加速させた。全ての感覚が1段階上がって目で追えるし、さばくことも受けることもかわすこともできるようになった。
そして、俺が斬り上げて、ウェインが斬り下ろした木刀がぶつかった瞬間にパァンと互いの木刀は弾けて木っ端微塵になった。
俺とウェインが自分が持っている鍔元から先がなくなってしまった木刀を見ると「マジかよ」と誰かが言って、野次馬から歓声が上がった。
ウェインは俺を見て笑う。
「まだやりたいがここまでの様だな」
「うん、終わろうよ。僕は疲れたし」
俺がうなずくとウェインがさわやかな顔で「また手合わせしてくれるか?」と聞くので、俺はもちろん「やだ」と答えた。
「なぜだ、これからが楽しいところだろ?」
「あのさ、僕はウェインみたいなバトルジャンキーじゃないの、だから強者との戦いが嬉しいとか微塵もないから」
俺はそう答えたが、寄って来たプルが「そう」と首をかしげた。
「ラピスは気付いてないかもしれないけど、最後の方はラピスも笑ってたよ」
「えっ?」
「意外と楽しかったんじゃないの?」
確かに自分の体が熱を帯びて加速していき、ウェインと打ち合わせられる様になるのは楽しかった。
俺はまだ強くなれるかもしれないと思える瞬間うれしいし、やっぱり楽しい。
俺はそう思ってしょんぼりしているウェインを見た。
このままはかわいそうだね。
「ウェイン、また気が向いたらね」
俺がそう言うとウェインがすごい勢いで顔を上げながら「本当か?」と言うので、俺は言ってしまったことを後悔した。
「あくまでも気が向いたらだから、向かなかったらやらないからね」
「あぁ、わかった」
ものすごく嬉しそうにうなずいて、それから壁際まで走って行って違う木刀で素振りをし始めたウェインを見ていて、俺は『本当にわかったのかなぁ』と不安になりながらプルを見るとプルが微笑む。
「最近はウェインの相手が出来るのってかなり歳上の先輩たちばかりだったから、互いに高め合うことが出来る友達が出来て嬉しいんだと思うよ」
「あのさ、僕はそういう脳筋な友達はいらないんだけど……」
「いまさら無理じゃない?」
プルが他人事みたいにそう言ってウェインを見ながら「ぷふっ」と笑う。
「だってあんなに楽しそうなんだよ」
俺もウェインを見ながら『確かに』と思ってしまった。無邪気に何度も何度も素振りをするウェインの誘いを無下に断ることなど俺には出来そうもない。
「まったく、とんでもない友達が出来たよ」
「でもウェインのことは嫌いじゃないでしょ?」
「うん、まあね」
俺がニッコリと笑って答えると、プルが「今度は私と魔法勝負する」と首をかしげたので、俺はもちろん「無理」と答えた。
だって、俺の首が斬り落とされる未来しか見えない。
だけど、プルがうつむくから、俺は「安全な方法にしてよ」と言った。すると顔を上げて俺を見たプルは「うん」とうれしそうに笑う。
本当にとんでもない友達が出来たよ。まったく。




