ウルフ②
俺たちが日暮れ前に西門にたどり着いて、街に入るための列に並ぶとすぐに順番が来た。
見慣れた顔が俺を見て笑う。
「おう、ラピス、おかえり」
「イコブのおじさん、ただいま」
「今日はなにをして来たんだ?」
「キテオさんに頼まれたクエストをね」
俺が自分の担いでいる布袋を示すと、イコブはうなずいて、それからウェインとプルを見た。
「そうか、それでその2人は?」
「ウェインとプル、森で一緒になったんだ」
「ほぉ、友達が出来て良かったな」
イコブがそう言うので、俺は「うん」とうなずく。
「それで、2人はギルドカードを持っているのか?」
「あぁ、持っている」
「私も」
ウェインとプルはイコブにギルドカードを見せた。
「おい、その歳で2人ともDランクかよ。すげぇな」
「まあな」
ウェインは笑ったが、たぶん腕前はDランクどころではない。隣でプルも笑っているが、あのオークの首を切った魔法はなにをしたのか、わからなかったもんね。
きっと実際の腕前はもっと上だ。
でもランクを上げたくない気持ちもわかる。
「よし、いいぞ。それじゃあ、ラピスもギルドカードを見せてみろ」
「ええっ? いや、良いよね? いつも見せてないし」
俺は抗議したが、イコブは笑ったまま首を横に振った。俺は仕方なく「はい」とイコブに自分のギルドカードを渡す。
「やっぱりもうEランクに上がったのか、大したものだ」
「上がらなくてもよかったんだけどね」
「馬鹿やろう、ランクアップは名誉なことだろうが」
「そうだけどさ」
「普通は上げたくてもなかなか上がらないし、下手すると何年もかかるんだ。贅沢言うな」
「そうだね、わかった」
俺がうなずくと満足げに笑って俺にカードを返したイコブが俺の頭をなでる。
門を通過するとプルが首を傾げた。
「ラピスはすごくあの門番さんと仲が良いんだね」
「うん、この街に来てから2回も詰所でお世話になったからね」
「えっ?」
プルが立ち止まるとウェインが「何かしたのか?」と聞いて来る。
「最初は門の前で冒険者に絡まれた。もう一度はルサヴェガス家からのクエストを渋ったら騎士に連行された」
「そうか、それは災難だったな」
「本当だね」
2人が同情した目で俺を見るので、俺は「うん」とうなずく。
「それで2人は宿どうするの? 早く決めとかないとまともな宿は満室になるよ」
「そうだな」
ウェインはうなずいてキョロキョロしてから俺を見た。
「ラピス、おすすめはあるか?」
「安宿なら東門の近くにある『豚のしっぽ』だね。高くてもいいならちょっと立地が悪いけど僕の泊まっている『金の鶏亭』がおすすめだよ」
「金の心配はいらないのだがな……」
ウェインは一度プルを見てから「立地が悪いというのは?」と聞いて来た。
「その宿は花街にあるんだよ。だけど、花街の入り口には大きくて綺麗な銭湯もあるし、フォレスティアの花街は治安も悪くないと思うよ」
ウェインが「うーん」と悩んでいるとプルが「じゃあ、見てから決めたら?」と言う。それにウェインが「そうだな」と答えたので、俺は2人を連れて『金の鶏亭』に向かった。
花街はいつも通りにぼんやりと明かりが灯り、カップル風の人々が寄り添いながらゆったりと歩いている。
僕ももう慣れたもので、その人たちも僕を見ても驚かなくなった。
「なるほど、確かに王都の花街とは全然違うな」
「そうだよね」
「王都の花街はもっとギラギラしているもんな」
ウェインがそう言うとプルが「そうだね」と笑う。
「それにもっと多くの男の人が1人でフラフラしているから歩きづらいよね」
「確かにそうだね」
俺がうなずいたところで俺たちは『金の鶏亭』に着いた。
俺たちが『金の鶏亭』に入ると、ウェインが「雰囲気があって良い宿だな」と笑う。
俺はそれが嬉しかった。やっぱりミゲムやサリヤ、ピエルと顔見知りになってきた従業員たちがほめられるのは普通に嬉しい。
「おぉ、ラピス、おかえり」
「ただいま、ピエル」
ピエルが寄ってきて、そして、ウェインを見て、それからプルを見た。
「この子たちは?」
「お客さん候補」
「候補?」
ピエルが首を傾げたので「クエストを手伝ってもらったんだ」と言うとピエルは「また運んでもらったのかよ」と呆れる。
「いや、違うよ。ウルフを倒すのを手伝ってもらったんだ」
「えっ! この子たちってそんなに強いのか?」
「うん、僕より強いと思う」
すると俺の言葉を聞いたピエルは後ろを向いて「上客だな」と笑った。
あのさ、ピエル、丸聞こえだよ。
そのあとでピエルが2人を部屋に案内して、部屋を見たウェインとプルは『金の鶏亭』に泊まることにしたようだ。
カウンターで手続きを行い。鍵を受け取った2人が、ホールのソファで待っていた俺のところまで戻ってきた。
「待たせて悪かったな」
「全然、気にしてないよ」
「そうか、良い宿を紹介してくれて助かった」
ウェインが言うとプルも「ありがとう」と続く。
「気に入ってもらえて、僕も嬉しいよ。じゃあ、クエストの報告に行こうか?」
「あぁ、そうだな」
俺たちは花街にある『金の鶏亭』を出て、今度は東門近くの冒険者ギルドに向かった。




