ウルフ①
大樹の根本にある大きな穴。ウェインはそこがレッドウルフの巣だと言うが、外には見張りのウルフはいない。
だけど、俺たちがその大樹に近づくと穴の奥から「グルル」と声が響いた。
「来るぞ!」
「うん」
俺は背負っている布袋をその場に置いて、腰に下げていた2つの小さな布袋から出した砂鉄で30個ほどの砂鉄玉を作った。
「行け!」
砂鉄玉が穴へ向かって飛んでいって、そこから飛び出してきたウルフたちに迫る。
そして「キャイン」と鳴いたウルフが1匹倒れた。
だけど、レッドウルフを含む他の7匹は大きく飛び上がって俺が撃ち出した砂鉄玉を避けて着地と同時に走って来る。
倒れた1匹も傷が浅かったようで、立ち上がってこちらに走り出した。
「浅かったね」
「だか、先制としては充分だ」
ウェインの声に俺は「うん」と答えながら腰のナイフを引き抜いて、地面を磁力で弾きながら後ろに飛ぶ。
飛びながら引き戻した砂鉄玉を今度は少し大きく矢尻型にして、螺旋に展開した磁力で回転をかけながら飛ばした。
俺に向かって飛びかかって来ていた2匹のウルフは俺から打ち出された複数の矢尻型の砂鉄玉に撃たれて「キャ」とか「ギャ」とか小さく鳴いて撃ち落とされた。地面に横倒しになる。
すると、レッドウルフがそれを庇うように俺に襲いかかってきた。俺はもう一度、磁力で地面を弾くように後ろに飛んでそれを避けながら間合いを取った。
「グルルルルルル」
牙を剥き出しにしたレッドウルフがこちらを見ながら円を描くように回り込んで、ゆっくりと俺との間合いを詰めて来る。
俺の方は再び引き戻した砂鉄玉をサラサラの砂鉄に戻して周りに浮かせた。
生き物のように砂鉄が一帯となって浮遊し、レッドウルフから俺が見えなくなった瞬間に俺は横に飛ぶ。やっぱりレッドウルフが飛びかかって来た。
速い。
俺がいた場所に着地したレッドウルフに布袋から引き寄せた錆びた剣が飛んできたが、レッドウルフはそれを右手ではたき落として、地面に踏みつけて押さえた。
そして、また飛ぶように走って突っ込んでくる。俺は砂鉄でレッドウルフの視界を遮りながら回り込むように横に飛んでそれをよけて、さらに引っ掻こうとした手をナイフで受け止めて、地面を磁力で弾きながら後ろに飛ぶ。
って、はやっ!
目の前にレッドウルフの顔がある。俺に噛みつこうと口を開けて、よだれが飛ぶ。
ゴン!
俺に向かって突っ込んで来たレッドウルフの顔を黒い小さな鉄の壁が弾く。
顔を砂鉄で作った小さな壁に激しく打ち付けたレッドウルフが着地して首を振るので、俺は着地すると同時に矢尻型にした砂鉄玉を回転で加速させて飛ばした。
だけど、レッドウルフはそれを難なくかわして俺を見ながらニヤリと笑う。
うーん、たしかに速い。シルバースケルトンより速いかもな。
そこで負けじと俺もニヤリと笑った。
それでもレッドウルフは生き物だからね。シルバースケルトンよりもやり様はある。
俺はまた全ての砂鉄を砂に戻して今度はシルバースケルトンにやったみたいにレッドウルフにまとわせた。
砂鉄は全身を覆うには量が足りない。だけど、顔だけなら覆えるよね?
ニヤニヤと笑っていたレッドウルフは異変を感じて前足を使って嫌がったり暴れたりしたけど、顔にまとわりついた砂鉄は剥がれることはない。
飛び跳ねて、走り回り、最後はのたうち回ったあとで、レッドウルフは動かなくなった。
俺はそれを見守ったあとでナイフでレッドウルフの首を切り裂いて、それから先に撃ち落として近くに横たわっていた2匹のウルフに近づいた。
動けなくなって、俺を見上げるウルフたちの首にナイフを突き立てる。
そこでウェインたちを見ようとしたら歩み寄って来ていたウェインが「大丈夫か? ラピス」と声をかけて来た。
「うん、大丈夫だよ。ありがとう、ウェイン」
「終わったみたいだな」
ウェインがそう言うとプルはすでに解体を始めていていて、その手を一度止めると俺たちを見た。
「これって魔石と、それから牙と毛皮も持ち帰るんだよね?」
「うん、持ち帰るよ」
「ラピス『持ち帰るよ』じゃないよ。だったら早く2人も解体やって」
ウェインがそれに「あぁ、そうだな」と答えて、俺も「わかったよ」とうなずくと俺とウェインも解体を始めた。
3人で素早く解体を終わらせて、全ての素材を布袋に詰める。俺が布袋を背負うとウェインが「あのな」と笑った。
「なに?」
「ラピスが強いのはわかったし、たぶん1人でも倒せたのだろうが、どう見ても1人だと素材を持ち帰るのは無理じゃないか?」
「そだね」
「ラピス『そだね』じゃないよな?」
「うん、確かに何か方法を考えないといけないな」
俺が顎に手を当てながら大きくうなずくとウェインは「おい」と呆れ顔になった。
「そういう事はな、あらかじめ考えておくものだ」
「じゃあ、次回までには考えておくよ」
俺が「ヘヘっ」と笑うとウェインは苦笑いを浮かべた。するとプルがウェインの肩を叩く。
「まあ、良いんじゃない? それよりも早くフォレスティアに行こう、日が暮れちゃうよ」
「あぁ、そうだな。ラピス、案内を頼めるか?」
俺は「うん」と返事をして歩き出した。
ウルフたちの素材はなかなかの量だからウェインとプルがいてくれて本当に良かった。
これは一度、マジでうまい輸送の仕方を考えないと行けないな。いつまでも人頼みではダメだもんね?




